初めての…
祐希
「お、お邪魔します…」
コーヒーの香りが広がった天音の部屋に
ゆっくり足を踏み入れた
部屋は同じ造りだが左右対称になっている
マンションはどこの部屋も2LDで作られていて
この家具の配置をみると…
天音の寝室と祐希の寝室は壁一枚を挟んで隣同士になる
祐希は自分が寝ているとき
その壁の向こうどなりに天音が寝ているのかと
想像すると
なんだか少しドキドキした…
いつもより少し落ち着きのない祐希に
天音が声をかける
天音
「あの、よかったらソファの方にどうぞ
すぐコーヒー淹れますね」
ソファの前のテーブルには
さっき自分が作ったケーキが置いてあり
かわいい小皿と金のフォークが並べてあった
祐希は
自分の部屋にはないかわいい小物たち一つ一つが
天音の可愛らしさを形作っているように思えた
静かな部屋の中でコーヒーが注がれるトポトポという音がやけに大きく聞こえた
天音
「お待たせしました」
小さな花柄のカップアンドソーサーに
どことなく甘さの香るコーヒー
バタバタと作ったケーキだったが
こんなふうにコーディネートされて
一段、格が上がったようにもみえた
祐希
「あ、ありがとう
天音ちゃんちにあるものはどれもかわいいね」
天音
「いや…そんなことは…」
「あの…じゃあケーキを切り分けますね」
祐希
「あ、ちょっと待って、これこれ」
そういってロウソクをケーキに刺した
天音
「ロウソクまで用意してくれたんですか?
本当にありがとう…」
キャンドルに火を灯し
部屋の明かりを暗くする
誕生日ケーキを前にしてこんなに鼓動が激しくなることがあっただろうか…
天音はキャンドルの向こうで微笑む祐希を見つめた
祐希
「天音ちゃん、早く吹き消さないとロウがケーキに落ちちゃうよ笑」
「お誕生日おめでとう!」
天音
「あ、ありがとうございます笑
じゃあ」
(ふぅー)
。
。
。
一瞬、真っ暗になった部屋
二人とも何も喋らない
少し目が慣れたところで
祐希の頬に温かくて柔らかいものが触れた…
天音
「こんな素敵な誕生日をありがとうございます」
耳元で聞こえる声に
祐希は思わず天音を抱きしめそうになった
と、そこで
天音のスマホが光った
天音は我に返った
(いま、私、何をした??)
嬉しくて祐希さんのこと好きだって思って
つい…つい…この雰囲気に押されて…
天音
「ごめん…なさい
あっ、その…電気つけますね」
祐希はいま正に理性を失いそうになった自分の腕を軽く掴んだ
祐希
「いや、そんなに喜んでもらえてほんとに嬉しいよ
思いがけないお返しも…嬉しかったよ笑」
天音は湯気が出そうな顔を隠しながら
電気をつけ、ナイフでケーキをカットしようとしたのだが…
「あっ!せっかくのケーキが…涙」
力加減を間違えてケーキが少し潰れてしまった
祐希はナイフを持つ天音の手にそっと自分の手を乗せて
祐希
「こうやってナイフを引くといいよ笑」
そういって優しく笑った
(………なんか、これケーキ入刀みたいになってる)
天音
「あ、あの…」
祐希
「あ、ごめん…」
祐希は慌てて手を離す
天音
「いえ…ありがとうございました」
ドキドキしながら残りを切りわけ
お皿に持った
天音
「すごく…すごく美味しいです
こんなケーキ初めて…」
目を潤ませ、祐希に微笑んだ
祐希
「天音ちゃんがそんなに喜んでくれて嬉しい
また、作るよ」
祐希はそんな天音を愛おしそうに見つめた
遅れての誕生日ケーキ企画は
甘やかなひとときを二人にプレゼントした




