流行病(8)
タルとゲイリーは体を二つ折りになるほどに頭を下げていたが、それでは話もできない。
「どうしたんです、いったい」
「まあまあ、頭を上げてくださいよ」
二人は頭を上げ、ソファに座って、重い口を開いた。
「実は、王宮に情報提供者がいるんだがね」
ゲイリーが言うと、私たちはらんらんと目を輝かせた。
「スパイだね!」
「ロマンだわ」
「私たちの同業者ってところかしらあ」
ゴホンとタルが咳払いをし、それで私たちも口を閉じて続きを待った。
「その情報提供者からの知らせでわかったんだがね。その、申し訳ない。バカ王がやらかした」
ゲイリーが絞り出すように言うのに、タルがため息交じりで続ける。
「妖精王の死体を、役に立たないと王が乱暴に床に投げつけ、壊したらしい」
シロも息を止め、目を丸くしている。
「えっと、つまり?」
よりこが言うが、全員、その答えはわかっている。
「帰す手立てが失われてしまった」
「……」
「申し訳ない! 王の代わりに謝罪するし、生活は保障する!」
「それに、ほかの手立てがないか、教会のネットワークを通じて他の国にも問い合わせるつもりだ」
深々と頭を下げる二人のつむじを見ながら、私たちは顔を見合わせて、私たちだけにしか聞こえない声で相談した。
〈やってくれたねえ、あの王様〉
〈周囲が苦労する典型的な例ねえ〉
〈それで、どうする? まあ、必要なものはシロに取りに行ってもらえばそれほど苦労もせずに暮らせるだろうけど〉
〈まあ、しばらくはそれでいくしかないだろうね〉
〈お願いねえ、シロ〉
シロはこっくりと頷き、私たちは二人に声をかけた。
「まあまあ。ゲイリーさんとタルさんが悪いわけでもなし」
「そうですよ。頭を上げてくださいよ」
「このまま今の生活を楽しむことにしますわあ」
二人は顔を上げ、安堵したような表情を浮かべながら、何とか方法を探るからともう一度繰り返した。
まあ、あれだろう。こちらが若ければともかく、時間の余裕がそうないと思っているに違いない。
確かに、それは否定できないねえ。
「ま、そういうことだから、よろしく頼むよ」
「じゃあ、のんびりとやらせてもらおうかしらね」
「そうねえ。旅行もしてみたいものねえ」
私たちは今がチャンスとばかりに、旅行に出ることに対しての許可をとった。
そうしてゲイリーの部屋を辞した後、私たちは外に出て声を上げた。
「よし! こうなったらこっちの世界を楽しんでやろうじゃない」
「また女神様宛の直訴状もくるかもしれないしね」
「楽しみだわあ」
「今度はどんな悪いやつを懲らしめることになるだろうな」
シロもワクワクとしたように尻尾を振って言う。
「こうしちゃいられない。カトマンにいろいろと頑張ってもらわないとね」
わくわくしてきた。
「その前に、今日の夕飯だよ」
「ちょっと狩いものに行こうか」
「そうねえ」
「よし。手伝うぞ」
私たちはルンルンとスキップしそうな足取りで、妖森に向かうのだった。
第一部・完
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