流行病(7)
町長の家と離れの前には、元気な住人がわんさかと集まっている。よそから来ている冒険者もいた。
そのとき、ひときわ大きな音で離れの二階の窓が開き、皆が音のした方を見た。その中で、窓から何かをくわえたキツネが飛び出した。シロである。
「なんだ!?」
驚く皆の前に、くわえていたそれをポトリと落とす。
「なんだ……薬だと!?」
「本当だ。これ、出血病の薬だぞ!」
住人たちの目の色が変わった。
「この中に……?」
皆の視線が、離れのドアに集中する。
その離れは倉庫として建てられており、厳重に鍵がかかっていた。
しかしそれはとうによりこが開けている。鍵開けのプロにとっては、こんな初歩的な鍵など朝飯前だった。
意を決して誰かがドアを開けると、広い広間のようになった倉庫の中に、整然と積まれた薬の包みが見えた。
「そ、それは……!」
「や、やっと生産が間に合ったので……!」
ようやく、慌てた町長とギルド町が走って出てきたが、町人の目は、信じていいものかどうかと迷っている。
するとシロが家の方でガタリと音を立て、皆がそちらを見た。
「あ、あそこ!」
子どもが指さす先では、先ほどまで町長とギルド長がいた部屋の窓からシロが出てくるところだった。
が、なにやら紙をくわえており、それを手近な冒険者に差し出した。
「ん、なんだよ……え」
受け取った冒険者がそれに目を落とし、表情を険しくして大声を上げる。
「薬の在庫リストか。え。ずいぶん前から、たくさんあることになっているぞ」
そばの冒険者ものぞき込んだ。
「あ、本当だ。薬草の採取依頼が出るようになってから、数も増えて」
「おいおい。この数、町中の人間に配れるくらいあるんじゃねえのか?」
全員が黙って、町長とギルド長を見た。
二人は慌てて何にか言おうとしているが、いい言い訳が思いつかないらしい。
そのうち、シロは離れの屋根の上で、一声コーンと鳴いた。
「そうだ。ここにこれだけ薬もあるし、言い訳はできないんじゃないですか」
「どういうことです、町長。ギルド長」
「そう言えば、町長とギルド長の家は、家族も親族も、誰一人出血病の患者が出てないな」
「まさか……」
住人たちの目に殺気がやどり始め、町長とギルド長は震え始めた。
二人を取り囲む輪が縮まっていき、今にも誰かが殴りかかろうとしているところで、町長宅の使用人が声を上げる。
「ああ、女神様に届いたんですね! キツネ様を遣わしてくださって、ありがとうございます!」
それに、皆がはっとしたようにシロの方を見やる。
「女神様……!」
「女神様の御遣いの前で嘘が通るとは思わんでしょうな」
言いながら冒険者たちが町長とギルド長を拘束し、町長とギルド長は抗う気力を無くしたかのようにうなだれていた。
そうしてシロは屋根から飛び降りて暗闇に姿を隠し、残った皆は、その場で頭を下げてそれを見送った。
私たちは暗闇で合流し、静かに、素早く塀を乗り越え、その場を離れた。
隣町の町長と薬師ギルド長のしたことは、全て暴かれて、近隣に広まった。
ついでに、神様の像の足下に訴えを記した手紙を置くと、女神様が御遣い様を遣わしてくださるという話も広まった。
「まあ、間に合った人はよかったよ」
「そうね。強欲の犠牲になってしまった人は気の毒だったけどねえ」
「まあ、仕方がないわよう。私たちはただのおばあさんだものねえ」
私たちはそうそうと言い合い、襟をただし、ドアをノックした。大事な話があるからと、ゲイリーに呼ばれているのだ。シロも一緒にいるが、今は姿を隠して静かにしている。
「どうぞ」
その声にドアを開けると、ゲイリーだけでなく、タルもいた。しかも、二人ともやけに真剣な顔をしている。
「おはようございます」
そう挨拶をし、勧められるままに対面のソファに腰を下ろすと、二人はガバリと頭を下げた。
私たちとシロは何のことかと顔を見合わせた。
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