流行病(4)
まずは教会へ顔を出す。そして、その辺の修道士に制服とタグを見せて、薬草を届けてきたところだと言った。
「ご苦労様です。これで薬がたくさんできればありがたいんですが……」
修道士は疲れたような顔に、小さく苦笑を浮かべる。
「今薬局の前を通ったんだけど、薬がないって、暴動が起きそうな雰囲気だったよ」
「薬草も集まっているし、全薬師がこの薬の調合に取りかかっていて、もっとあるはずなんじゃないかっていう意見も聞いたのよねえ」
それを聞いて、修道士は難しい顔をした。
「冒険者ギルドに薬草を重点的に集めるように依頼が出されてしばらく経ちます。もっと出回っていてもおかしくないと思ってはいたんですよ。まあ、これから十分に出回ってくれるといいんですけど……」
「それより、患者は皆どこにいるのかしら」
「隣の建物が救護院で、そこに詰めかけてきています。軽症の方や家族がいる方は自宅で安静にしてもらっているんですが、それでももう、空きがないくらいに満杯になってきています」
そう言って、ため息をつき、はっとしたように言った。
「そうそう、近づかないようにしてくださいよ。これ以上感染者を増やすわけにはいきませんから、限られた者のみで看病しているんです」
そう言って自分の仕事を思い出したのか、軽く頭を下げて足早に去って行った。
私たちはふうむと考え込んだ。
「感染症なのは間違いないようだけど、どういう病気なのかねえ」
「看病する限られた者っていうのが、過去にかかったことがある人、という意味なら、抗体があれば大丈夫っていう病気になるわね」
「それで、出血する病気なのよねえ?」
考えてみたが、よくわからない。まあ、地球にもある病気とは限らないと思い出す。
「それはともかく、薬が足りてないのはここも同じなのねえ」
「せいぜい、薬草を持ってくるかね」
「看病しにヘタに近づいて、うつったら大変だぞ」
シロが言う。冷たいようだが、尤もである。患者の数を増やすのは迷惑だし、見知らぬ病気はやはり影響が怖い。
自分たちにできることをしようと、とりあえず今日は日が暮れる前にハルタへ帰ることにして急ぎ足で町を出た。
家へ着き、夕食の支度をしていると、出かけていたシロが帰ってきた。
「教会で報告書を覗いてきたが、病気はかなり流行し始めているようだぞ。それなのに薬がないと、顔を合わせば皆言っているらしい」
報告を聞いて、私たちは顔を曇らせた。
「どういう調合なのかしらね。私たちができないものなのかしらね」
「でも、科学的に抽出したりしそうにはないだろう? この世界の様子を見るとさ」
「そうよねえ。かといって、魔法でどうこうってファンタジーもないみたいじゃなあい?」
忍びの嗜みとして、簡単な薬を野草などで作ることはできるが、それとは違うのだろうか。
考えていると、お茶をすすっていたシロが思い出したように付け加えた。
「そうだ。教会の説教とかするところがあるだろう。あそこの女神像に手紙が置いてあったぞ」
そう言って、手紙をどこからともなく取り出した。
「なになに。『女神様へ』」
表の宛名書きにそう書いてある。なかなかの達筆だ。大人の書いたものらしいと想像が付く。
「こっちの人って、真面目に女神様宛に手紙を書くのが普通なのかねえ?」
よりこが笑いを含めて言うのに、ねねがおっとりと言う。
「もしかして、領主とかに直訴するのがしにくいからってことで、あえて女神様宛ってことにしてるのかもよお」
「鋭いね、ねね」
私たちは手紙を封筒から出して、頭を突き合わせて読み始めた。
お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。




