流行病(3)
周囲を見回すと、町を歩く人は少なく、笑顔は皆無だし、俯いているか切羽詰まったような顔つきをしている人が多い。
「ああ、あそこじゃないかしらあ」
ねねが指さす方を見ると、冒険者ギルドのように人が群がっている場所があった。薬屋のようだ。
「今日のギルドからのうちへの割り当て分はもうなくなりました。すみません」
そう繰り返す男に、周囲の取り巻いている人たちが叫ぶように文句を言う。
「もう少ししたら増産できるって言ってたじゃないか!」
「そうだ、いつだよ!?」
「どこの薬局もすぐになくなって、全く手に入らねえ!」
「こうしている間にも、病人は苦しんでいるんだぞ!」
「てめえら、どこかに隠しているんじゃないだろうな!?」
そんなことを大声で言って詰め寄り、店の男は疲れたように頭を下げて謝るのを繰り返していたが、男に怒っても仕方がないと思ったのか、それとも少しは気が晴れたのか、取り巻いていた人たちはどこかへと歩き出していった。
男はそれをホッとしたような顔で見送り、そそくさと店の中へ引っ込もうとする。
そんな男に、私たちは声をかけた。
「すみませえん」
ねねがおっとりと声をかけると、男は身構えるようにしながら振り向いた。
「今日の割り当て分の薬は売り切れました。別の店に行くか、また明日お越しください。申し訳ありません」
営業スマイルは引きつり、体は小さく縮こまっている。
「ああ、私たちは違うよ。こういうもんさ」
上着をはだけて、中の制服を見せる。
「ああ、巡検士様でしたか」
男はホッとしたような顔をして、体の力を抜いた。
「凄い人だかりでしたねえ。薬、そんなにまだ足りないんですか」
そう訊くと、男は頷いた。
「ご存じの通り、薬はギルドで作られて、私たちのような許可を受けた薬局に卸され、売られます。今は出血病の薬を作るのに全薬師が取りかかっていると聞いていますが、それでも各薬局に回ってくる量はたいしてないんですよ。必要としている患者の家族には心苦しいんですけど……」
「それは、薬草が足りないのかい? それとも、調合する薬師が足りないのかい?」
その質問に、男は首を傾げ、声を潜めて言った。
「ああ……その、薬草は冒険者が集めてくれているようだし、じきにたくさんできると思いますよ。ええ」
どこか作り物めいた笑顔と合わせない視線に、私たちは顔を見合わせた。
「本当かい?」
声がますます潜められていく。
「誰かが自分のためにプールしてる可能性もあるんじゃないかい?」
「やだわあ。とんだ悪党じゃないのお」
男は不穏な話題を口にしていることに怖じ気づいたのか、顔をこわばらせて早口で言った。
「私は下ろされる薬を販売するだけですから、詳しい内情は知りませんよ。失礼しますよ」
そして早々に薬局の中へと引っ込んでしまった。
「病院ってどこかしらあ?」
それに、シロが答える。
「教会だぞ。救護院とかいうところで、治療をするんだ。一応タダらしいぞ」
江戸時代にあった小石川療養所みたいなものだろうか。勝手に人を呼び出したり放り出したりするロクでもないやつらでも、一応はいいこともしているらしい。
「覗いてみようかね」
「そうねえ。そっちには薬があるのかもしれないわねえ」
私たちは頷き合い、教会に向かって歩き出した。
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