第三十話 世にも奇妙ななんとやら
「ミーナ、今日の面談、あとひとつ残ってるって言ってたよな?」
「はい。えっと……最後の方、ですね。えーと……」
ミーナは予約表を確認し、首を傾げた。
「……あれ?」
「どうした」
「……一人、書かれていない方が……でも、予約対応した記憶はあるんです」
そのときだった。
カララン、と扉が開いた。
すっと立つように入ってきたのは、黒髪の青年だった。
年齢は若そうだが、顔立ちは印象に残らない。
「こんにちは。仕事の相談を、お願いしたくて」
声は穏やかで、態度も丁寧。
だが、どこか“空気のように薄い”感覚を伴っていた。
「はいっ、ではこちらにどうぞ!」
ミーナはいつも通り、資料を準備しながら質問を重ねていく。
「職歴は……えっと、すみません。前の職場は?」
「いろいろと。あまり長くは続きませんでした」
「希望職種などは……?」
「自分に合った場所を、探しているだけです」
「なるほど……あ、登録のため、こちらの記入もお願いしますね」
すべてが、スムーズだった。
ただ、ゴルザンが後ろで眉をひそめていた。
──渡された登録用紙。
その様式は、十年前に廃止された“旧フォーマット”だった。
「……なあ、ミーナ」
「はい?」
「この用紙、どっから持ってきた?」
「え、ギルドの棚に──いつもの……え?」
ふと気づけば、青年の姿は見当たらなかった。
「……先ほど帰られました。就職先を、少し考えてみたいと」
受付の職員がそう告げる。
その日は、それで終わった。
──翌日。
「昨日の件、どうなった?」
「はい、えっと……」
ミーナが登録記録を確認して、凍りついた。
「……ない。書類が……ない……」
「念のため、全職員のログ確認してもらったが──“そんな依頼人はいなかった”とのことだ」
「でも、私、ちゃんと面談して……!」
「……なあ、ミーナ。そいつの“名前”、覚えてるか?」
「……」
答えられなかった。
──ふと、机の端に目をやる。
そこに置かれていた、書きかけのメモ用紙。
文字は淡く、ペン先がかすれていた。
「……また、来ます」
誰の字でもない、見慣れない筆跡。
ミーナは、それをそっと引き出しにしまった。
「……お待ちしています、またいつか」




