第十話 我は○○から舞い降りし漆黒の堕天使なり
「今日は……嵐になりそうですね」
ミーナが、外の空を見上げながらぽつりと呟いた。
重たい雲、時折鳴る雷鳴。ギルドの窓が、みしりと鳴る。
「ま、飛ばされてくるやつもいそうだな。物理的にな」
「え、なんか嫌な予感するんですけど……」
「ウチのギルド、天候に左右される人材の流入、やたら多いからな。
“導かれし風に乗って”とか、“闇の囁きに誘われて”とか──」
「……そんな人、ほんとに来ます?」
カララン。
扉の鈴が鳴いた。
「面談希望者、アーク=ノクターン……さんで、合ってますか?」
ミーナが面談票を読み上げながら、慎重に確認する。
カウンター前に立つ黒ローブの男は、すっ……と一歩前に出てから、頭を斜めに傾け、低く答えた。
「否……それは仮初の名。
我が真なる名は、“封印の楔より甦りし黄昏の使徒”……アーク・ノクターンだ」
「……はい?」
「貴様ら如き、俗世の徒に名乗るのは無粋と知りながらも……あえて言おう、我は“堕天”せし者なり。
すなわち、“○○から舞い降りし漆黒の堕天使”──」
「──よし、お疲れ」
ゴルザンが机にマグを置き、パン、と手を叩いた。
「もういい。中二病だな。多分、実家から蹴飛ばされてきたパターンだ」
「ちょ、ちょっとゴルザンさん!」
「どうせ“異能の目覚めを探している”とか書いてあるだろ?」
「……っ、や、やめてください!! 履歴書、見ないで!!」
「履歴書じゃなくて“漆黒の覚醒書”って書いてあんだよこれ」
「……(ガーン)」
──そんなこんなで始まったアークの面談だったが、
調査票には「未就職」「適性検査未受検」「引きこもり歴あり」の三点セット。
だが、ミーナがふと、適性診断の簡易測定石に彼の手を添えた瞬間──
ぶわっ、と。
石がまばゆい白光を放った。
「え……!?」
「……これ、聖属性の適性ですね。中級以上、かなり強い部類です」
「な、なに!? 聖……だと? いや、そんな……」
アーク=ノクターン(自称)、目を見開いて絶望の表情。
「オレは……漆黒の……闇を纏いし者……だった、はず……!」
「光、めっちゃ似合ってますよ!」
「やめろおおおおおお!!!」
──こうして、アークには夜勤専用の墓守業務が斡旋されることに。
静かで人目のない夜勤枠、かつ聖属性が効くアンデッド対応──
中二病こじらせ野郎に、まさかの超ドンピシャな職場が見つかったのだった。
──墓地勤務、初日。
「こ、ここが……“闇の棲み処”か……ッ」
アーク=ノクターン(夜勤採用)、震える手でランタンを持ち、がたがたと肩を揺らしていた。
夜風は冷たい。墓地は広い。そして、鳥の鳴き声すらない。
ただただ風の音と、自分の足音だけが響く。
「は、はは……問題ない……我は闇の使徒……“孤独と共に在れ”と書かれし……」
……ガサ。
「ひぃッ!!?」
草の音に飛び上がり、ランタンを落とす。
「む、無理ぃ……か、帰りたいぃ……ってか、ガチで暗いぃ……!」
そこへ、不審な反応を示すモンスター探知石が振動。
地面から浮かび上がる、幽鬼型のアンデッドが一体──
「ひ、ひいいい……で、でもこれ、魔法……!魔法で、なんかしないと……!」
震える指先。だが、不思議なことに、そこに確かに“力”が集まっていく──
「ターンアンデッド!!」
──ズドォン!!!
まばゆい光がアンデッドを包み、一撃で消滅。
墓地に沈黙が戻る。
残ったのは、ただ一点を見つめるアーク。
「……え?」
「……え??」
次の瞬間──
「ふ、ふは……ふははは……! HAHAHAHA!!」
「見たか、この聖なる審判ッ!!」
「我が掌に集いたるは天の力、
“堕天せし者”が今、天をも討つ力を得たのだッッ!!」
「闇の中に現れし光の使徒──その正体は、我が魂の奥底より目覚めし──ッ!!」
──ドカーン!(※アンデッドもう1体、瞬殺)
翌朝。
「“夜勤初日で墓地浄化100%完了、昼には帰宅”だってさ」
ゴルザンが報告書を読み上げながら、ため息交じりに笑う。
「本人は“我が力が発現したことで邪悪が退いた”って言ってるらしいです」
「ま、合ってるっちゃ合ってるな……」
ミーナが、最後の欄にぽつりとメモを書く。
「“墓石から舞い降りし漆黒の堕天使”……っと」
「おい、それ提出するやつじゃねえからな」




