閑話休題 今日は華の金曜日
「今日も無事、業務終了ですね〜!」
ギルドのカウンターを拭きながら、ミーナが満足げに伸びをした。
「……ねえねえ、ゴルザンさん。今日って、金曜日ですよね?」
「そうだな」
「つまり、華金ですよね?」
「お前、古い言い回し知ってんな」
「……飲みに行きましょ!」
「いや話飛んだな。いや、飛ばしたな?」
「もちろんゴルザンさんのおごりで!」
「たかるな」
「たまにはいいじゃないですか〜! 今週、報告書ちゃんとまとめたし、外回りの人にもちゃんと面談フォロー入れましたし!」
「そりゃお前の仕事だろ」
「そりゃそうですけどぉ!」
「……ま、しょうがねえな」
ミーナ、にっこり。
***
二人が入ったのは、ギルド裏手の小さな居酒屋。
樽のような椅子に、よく冷えたエール、そして名物「香草炙り鳥・雷神風味」。
ーー火山岩でじっくり炙った赤獅子の背肉 ~竜骨の香草と潮風のエッセンスを添えて~ーー
ーー黒曜猪の心臓部位直火焼き ~喉笛の酒と灼けた鉄板の咆哮と共に~ーー
「ここ、料理名が長すぎません?」
「味はいいから我慢しろ。つまみが名乗ってる間に酔えるのはいいことだ」
「って何ですかその理論!?」
エールをぐびっと飲んで、ゴルザンがうまそうに口を拭う。
ミーナも、ちびちびとグラスを傾けながら、ぽつりと口を開いた。
「そういえば……いつまで“新人ちゃん”呼びなんですか?」
「……なんだ、急に?」
「いや、なんか距離、ありますよね? なんか……ずっと、外側に置かれてる気がするっていうか」
「ほう。飲みの席で距離詰めに来るとはな。若い子は攻め方が激しいねぇ」
「本日は無礼講ってやつです!」
ゴルザンがふっと笑った。
グラスを持ち直して、少しだけ真面目な顔をするミーナ。
「……わたし、最初この支部に配属って聞いたとき、“期待されてないんだ”って思ったんです」
「まあ実際、そういう空気だったろうな」
「……。でも、ここでいろんな人に会って……ゴルザンさんと、仕事して……
今は──結構、好きなんですよ。ここも、人も」
「……」
沈黙が一拍。
ゴルザンは無言でエールをぐいっとあおってから、ぽつりと呟いた。
「……飲みすぎじゃねぇの」
「あはは、そうかもです」
***
夜風が吹く帰り道。
路地を抜けてギルドへ戻る途中、ミーナがふと立ち止まった。
「ゴルザンさん」
「ん?」
「今日は、ありがとうございました」
「気にすんな。たまの飲みくらい、悪くねぇ」
「……あと、できれば、」
「ん?なんだ…ミーナ」
ミーナは、小さく、でも嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱりなんでもないです!さー帰りましょ!」
その夜は、ほんの少しだけ、大人な空気と、柔らかい春の風が流れていた。




