041――魔術師は大志を抱く
様々なイベントと騒動に翻弄されていた自治区に平穏な日常が帰ってきた。
領主としての執務も大半はセネカと文官たちだけで運営できるようになり、時間にかなり余裕ができた。
俺はようやく、この世界で初めての長編ミステリの執筆に取り掛かるべく、集めた資料を精査しつつ構想を練っていた。
この世界の伝承や民話に目を通していると、つくづく思うが、中立地帯で読んだ作者不明のクオートの巻物のミステリ小説の完成度は本当に高かった。
今度書く小説は何としてもあれ以上の物にしたい……久しぶりに本業に集中していると、予期せぬ客人が自治区に訪れた。
■
「お久しぶりです。エンダー様」
面会を希望したのは、かつてエモートで遭遇したエルス族の奴隷商レイドだった。
領事館の応接室で俺とモジュローは応対した。
「その節はお世話になりました」
モジュローは頭を下げた。
レイドは微笑みながら手を振った。
「私は務めを果たしただけです。モジュロー様もお元気そうでなによりです」
相変わらず、強面の奴隷商とは思えない穏やかな口調で語りかけた。
「先日、事業を後継者に譲り隠居の身分となりました。今はのんびり諸国を漫遊している道中で」
「そうなのですか……」
「後継者は養子ですが、私が一から指導したので仕事の真髄をしっかり理解しております。間違いは無いでしょう……さて、エンダー様、以前のお約束、覚えておられるでしょうか?」
俺は以前の会話を思い出す……確か『一国一城の主に返り咲いた時に預かり賃を頂く』だったな。
成る程、確かに今の俺は独立採算の自治区の領主。一国一城の主といっても差し支えはないだろう。
それに自治区はダンジョン運営のおかげで大変潤っている。
たとえ多めに要求されたとしても十分対処出来るだろう。
「あ、いえ……私が欲しいのは銀貨やキャッシュではないのです。もう十二分に蓄えがありますので……それと、これはあなた様にしか出来ない事でもあります……」
なんだろう……無茶振りされたら、困るんだが。
「実は……“小説”……なる物を書いて欲しいのです」
……
…………はい?
いや、俺は小説家だから!執筆の依頼を受けるのは何もおかしくないから!
なんだろう……当たり前のことがものすごく奇異に感じる。
「えーと……それは伝記とか回想録のような感じだろうか……?」
「私は若い頃、ある事件に巻き込まれ、極限状態に追い込まれた経験があるのです。その事件は謎が多く、今でも自分が生き残った意味を考え続けております……聞く所によると、エンダー様は“謎”を題材にした物語を多く書いているとのこと。私は、あの事件の謎を解き明かす物語を、どうしても読みたいのです」
「事件?」
「話すと長くなるのですが……私は若い時分は家業を嫌悪していて、父と大喧嘩をした結果、家を飛び出し、アテもなく各地を放浪しておりました。そんな時、ファンダメンタル島で古代の祭りが再現されると聞き、好奇心でその島に訪れたのです」
俺はレイドの話に引き込まれた。
□
私の家は代々奴隷商いを営んでいて、それはエルス共和国建国以前から続く古いものでした。
基本憲章締結以降も上にへつらい下を虐げる浅ましく卑しい仕事を続ける父が嫌で嫌で仕方がなく、結局嫌悪に耐えきれず、逃げるように家を飛び出したのです。
私はエルス共和国の辺境を巡った後、龍王国を放浪し、その後は人間領域の小国を転々と彷徨っていました。
そして、後にメガロクオートの領土となる沿岸部の集落でファンダメンタル島の祭りの話を聞き、興味を持ったのです。
私は連絡船で島に渡りました。
島は細々と漁業を営む人口百人程度の小さな村でした。
なんでもその時期は星の運行が百年に一度の珍しい配置で、旧支配者初期時代の祭祀の再現を聞きつけた研究者が大陸中から集まっていました。
私は最初の二日間、観光客として祭りを楽しんでましたが、三日目に宿で食事中に冒険者風のグループに古い塔の探索に誘われたのです。
刺激を求めていた私は軽い気持ちで承諾しました。
しかし、それは巧妙に張り巡らされた罠だったのです。
古い塔はダンジョンで百年に一度、祭祀の日に扉が開くという伝承は事前に聞いてましたが、我々はダンジョンに閉じ込められ、そこに住まう悪意ある上位存在によって互いに疑い殺しあうよう仕向けられました。
グループの大半、十人のうち七人が犠牲となり、私と生存者は塔からの脱出に成功しましたが、真相は謎のままです。
今ならば国家やギルドによる調査団が派遣されるのでしょうけど、当時のその地は法もシステムも及ばない人間領域でした。
結局誰が何のためにあのような陰惨な事件の筋書きを描いたのか……その謎は私の胸に刺さったままなのです。
そうして、私はこの事件の後、自らの血の宿業を悟り、家に帰って家業を継ぐ決意が付いたのです。
□
レイドの話を聞いていて、どうにも既視感が拭えなかった。
俺はインベントリから森川から貰ったクオートの巻物を取り出した。
あの現地産ミステリと内容が非常に似通っているのだ。
「この巻物は目を通したことがあります。人を使ってメガロクオートの公開文書を調査した時に入手しました」
確かに、あの短編にはエルス族の青年レイルズという人物が登場している。
口数の少ない秘密を抱えている印象の魔術師で、思わせぶりだけどあからさまに怪しすぎて逆に犯人じゃないタイプのキャラクターだった。
「この物語は公開文書の内容を元にした……第三者による妥当な推測ではあります」
その口ぶりだと内容に不満がありそうだ。
短編の犯人は皆をダンジョンに引き寄せた主催者であり一人目の犠牲者であったが、死んだと見せかけて犯行を重ねたというトリックだった。
「彼は最初の犠牲者でありましたが、死を回避した後、責任を感じ、身を隠して脱出手段を探していたのです……私は本人からそう聞きました」
「それを信じるのか?」
「確証は特にありません……しかし、彼は最後に会話した時に『生れながらに支配種族のあなたには分かりませんよ』と言いました……上位存在が乗り移った人間がそんなことを言うでしょうか?」
俺は何とも言えなかった。
ただ、その場にいて、そこの空気に直接触れた人物の感覚は無視できない要素だ。
……さて、正規の方法で事の真相を知るのは骨であるな。
なにせ長寿種エルス族のレイドが若い頃の……メガロクオートが建国する以前の話だ。
もしかしたら、叡智の図書館に記録があるのかもしれないが……あの無尽蔵の蔵書からそれを見つけられる自信はない。
「エンダー様、これは大事なことなのですが……私は事件の真相が知りたいのではないのです」
ん?どういうことだ?
「事件について私費を投じて調査を開始した時は、まだ真相を知りたいという気持ちはありました。しかし、調べるうちにその気持ちは消えました。上位存在の思惑を我々ごときが推察するのは意味がない行為だと気付いたのです」
まぁ、それはそうだろうな。その考えは理解できる。
「私はただ、あの事件が意味のある出来事だったと、自分の人生を大きく動かすに値する必然であった、と信じたいのです。その為なら……私が犯人だった、という結末でも構いません」
このレイドの言葉には正直引いてしまった。
もっとも、あの短編の中でエルス族のレイルズは終盤まで疑われていた。
「最早、これ以上悪名が増えたところでどうということはありません。事件が完全に風化するよりは……あの不可解な事件が論理的な解を持つことを証明して欲しいのです」
なるほど。依頼の趣旨は理解した。
俺にしかできないというのも納得だ。
しかし、そんなすぐに書き上げるのは無理ではある。
もともと、本業のミステリは遅筆な方であったし。
「私はエルス族です。老いた身ではありますが、あなた様がご健在の間はしぶとく生きてるつもりですよ。のんびり完成をお待ちしてます」
そう言ってくれると助かる。それにしてもクオートか。何とか取材する口実作れないかな。
「それと、これは注意勧告なのですが……ゲットの奴がブレークの鉱山から逃亡したようです」
あの犯罪者、まだ生きてたのか。
鉱山ってそんな簡単に逃げ出せるのか?
「いえ、普通は無理です。あそこの警備は厳重ですから」
モジュローは心配そうに眉を顰めた。
「ええ、通常の手段では脱出は不可能です。エルス上層部が関わっている可能性が非常に高いでしょう」
「エルダーエルスか?」
「関わっていたとしてもおかしくはありません、どうかお気をつけてください」
エルスも穏健派が主導権を握ったとは言え、まだ火種が残っているようだ。
レイドは今まで集めた調査資料をまとめた物を俺に渡して自治区を去った。
■
俺の眷属となった魔族のキマリスだが意外な性質を持っていて、彼は異常に潔癖症だった。
ほぼ廃人となった彼に学校の雑務を命じると何でも黙々とこなしたが、掃除をしている時は見てわかるレベルで生き生きと働いていた。
というか、特に仕事を与えていない時でも、自発的に清掃作業をするので本当に好きなのだろう。
放っておくと街の掃除までし始めるので、学校の内部と周辺はかなり小綺麗になった。
そして、彼は心底ゴブリンが嫌いなようだ。
農場試験場の施設の清掃を頼むと、そこにいたモモちゃんと訓練中のゴブリンを露骨に嫌そうな顔で見た。
「不潔!アイツラ一匹見かけたら百匹はいるデス」
Gかよ!いや、どっちも頭文字Gだけどさ。魔大陸でのゴブリンはG扱いなのか。
そしてモモちゃんはこの物言いにムッとした。
「失礼ですよー!ウチのゴブリンさん達はこう見えても綺麗好きなんだから!」
モモちゃんがそう言う背後で、ゴブリンが放屁して尻を掻いていた。
□
そうして自治区に新たな住人が訪れる。
「お久しぶりです!先生、ゲンマ様」
やってきたのは王都のファンクラブでスタッフとして作家として力になってくれたパティアだ。
王都のファンクラブが現地採用した人材だけで十分運営できるようになったので、彼女の指導者としての才能を見込んで、学校業務の手伝いをお願いする予定だ。
そして、今回、彼女は自治区に同行者二人を連れて来たので、俺たちは領事館の応接室で対面した。
二十代前半の若者二人で青年が魔術師のシモネム、女性がエリノアというらしい。
「彼がシモネム君かい?」
「ええ……もっと早く連れて来たかったのですが……中々移動するタイミングが見つからなくて……王都も混乱期で治安がよろしくないですの」
シモネムはずっと青い顔で、気遣う様子のエリノアに寄りかかり呼吸が荒く、座っているのも辛そうだ。
彼はパティアの亡夫の元弟子で、魔術師ギルドの方針に逆らった罰として無理やり苦痛と弱化の術式を刻まれたとのことだ。
こちらから出向いても良かったのだが、タイミング悪く自治区の方が抜き差しならない状況になって後回しにしていたが、想像以上に酷い状態で申し訳ない。
「……いえ、この不肖の我が身が自ら招いた災難……龍王国民としてゲンマ様方のお手を煩わせる訳には参りません」
ゲンマは彼の体に刻まれた術式を見て顔を顰める。
「それにしても酷い術式だね……こんなの重犯罪の死刑囚にだって使わないよ、まったく……カンナヅキ君、頼むよ」
「……これはギルド幹部が秘匿する旧支配者の術式……たとえゲンマ様でも、そう簡単には……」
「【サインクリーナー】」
俺がスキルを使うと彼の全身が輝き、禍々しく脈動していた術式は消え去った。
「……」
シモネムは鳩が豆鉄砲食らったような顔のまま固まった。
彼は自身を蝕んでいた術式が完全に消えたことを確認した後、俺の顔をマジマジと凝視して、おもむろにゆっくりとした動作でその場に平伏し額を地面に擦り付けた。
「……我がマスターに生涯の忠誠を……」
「だから、そういうのいいって!重すぎぃ!!」
□
「で、何があったんだ?」
「一言でいうと魔術師ギルド王都支部幹部の暴走……なんですが、大元の原因は派閥争いです」
既に調査済みらしく、オクルスは淡々と報告する。
魔術師ギルドなら派閥争いの一つや二つあるだろうな。
「前提として、魔術師ギルドの起源と本部はエルス共和国にあります。その影響で王都支部はエルス派と王国派に分かれて不和の原因となってます」
中立地帯に本部があり独立志向の高い冒険者ギルドと違って、魔術師ギルドは伝統的にエルス共和国とエルダーエルスの都合に組織の方針が振り回される傾向があったようだ。
また、王都支部には上級官僚の跡取り候補以外の子息が多く所属していて、今、彼らは実家というパトロンの弱体化で足場固めに大変らしい。
「エルス派はエルダーエルスの政権交代の影響を、王国派は王都の官僚改革の影響をそれぞれ大きく受けて混乱してますが、そこに最近降って湧いた新式術式が追い打ちをかけた形です。バラバラの組織を一つに纏めるためにも、新式術式の研究の必要性を訴えていて、なお且つ派閥に属していない彼は見せしめに罰するのに丁度良かったって事です」
「新式術式?」
「EDKで作ったカスタムエンチャントのことだよ。魔術師ギルドの連中、検閲部の依頼でエニグマの暗号を解読出来なかったのが大分堪えたようでね。あと、あの印刷で使ってる四色分解っての?あれなんて彼らには絶対思いつかないアイデアだし、かなり警戒しているよ」
……俺がやらかしてたのか……シモネムが酷い目にあったのも元はと言えば俺のせいでもあると。
「いえ、これは自分の行動が愚直すぎた事が招いた事。マスターは何も悪くない……それに新式術式がなくても、こうなる運命は避けられなかった……自分は魔術師は全員、叡智の探求者であると心のどこかで信じていた……しかし、それこそが間違いの元だったのだ……魔術師ギルドの上層部は探求より既得権益の占有を優先する俗物と権力者の走狗しかいない、そのことに気付くのが遅すぎたのだ……!」
シモネムは痩せこけた顔を悔しさに歪ませて拳を握りしめた。
「まぁまぁ、悪い術式から解放されたことだし、まずは栄養を付けて元気になろうよ。この自治区には面白いことが沢山あるけど、全ては健康を回復させてからだよ」
ゲンマはシモネムの肩に手を置いて優しく諭した。
「恩情痛み入ります……体調を整えた暁には粉骨砕身する所存!全身全霊でお仕えいたす!」
少し真面目すぎないか……ただ責任感じるし、境遇が理不尽すぎて気の毒なのでできる限りの助力はしておこう。
■
シモネムはその後、十分な睡眠と食事を取って普通に生活できる程度に回復した。
彼はEDKに興味があるようなので森川に任せようと引き合わせた。
森川は最近レアクラスである“伝道師”を獲得していた。
ドルチェアルボラたちへの読み聞かせや妖魔族で秘密結社の元首領のウォクスとの関わりが影響したのだろうか。
「ほう、中々将来有望そうな方ですね。布教の甲斐がありそうです」
メガネの奥の鋭い目が怪しく光る。
そういえば、ファンクラブの会員数がここにきて増加傾向にある。
俺が見てないところで彼らはナニをしているのだろうか……。
「はっ!マスターとゲンマ様への恩義に報いるためにも全力で修行に取り組む所存!よろしくお願い申す!」
いや、だから、ただの研修期間なんだから、もう少しユルく取り組んでくれよ。
「大変結構……くくく……これを機会に老害を一掃するのも悪くはありませんね……くくくくく」
森川……お前は何を企んでいるんだ……。
□
シモネムを連れて一通り自治区を案内した後、彼を森川に預けて、俺は小腹を満たそうと領事館の食堂に入った。
昼食の時間は過ぎていたからか、食事をしている人はいなかった。
ただ、奥の方の壁をじっと見上げている者がいる。
モジュローだ。
彼が凝視しているのは、ナス子が書いたイラストが額縁に収まった物だった。
エモートの奴隷市場で金の檻に入った彼に手を差し伸べる俺の絵を、身動きひとつせずに無表情で眺めている。
「嫌だったら外すぞ?」
俺が声をかけると、一瞬ビクッとした後、こっちを見た。
「あ……いえ、そうではないのです。ただ、ただ見ていただけです」
モジュローは慌てた風に両手を振って答えた。
「ただ……少し、あの頃の気持ちを思い出していただけです……」
彼は目を閉じて俯き黙りこくったので、俺はそっと頭を撫でた。
俺がこうすると、いつもなら反発する筈なのだが、今日は抵抗しなかった。
「……私はあなたに感謝しているのですよ」
「どうしたんだ?急に」
「あなたはこの絵を事実と違うと言いましたが……私からすると、あなたが私を檻から出して……役割を……居場所を与えてくれた事は……確かな真実なんです」
なるほど。
事実はともかく真実は解釈する者によって違うということか。
「なんか悪いもんでも食ったのか?突然のデレ期到来にびっくりだ」
「茶化さないでください、真面目な話をしているのに……そう!食べ物といえば、トオル殿から聞きましたよ!なんでも“ちょこれーと”のケーキなるものが存在するらしいじゃないですか!」
「……あいつ、余計なこと言うなよ……」
「何故そのような素晴らしい物を隠しているのですか!早急に作成することを要求します!」
「はいはい」
レイドが求めている物語……真実とは何なんだろうか。
俺にそれが書けるのだろうか。
■
シモネムがこの自治区にやってきて数日が経過した。
彼は本来の状態を取り戻し、さらにダンジョンでのレベリングとテルさんによる体術の指導で、たくましく成長している。
現在の彼は藍色の髪に、やたら目力が強い硬派な面持ちの、バンカラとか熱血といった言葉が似合う劇画調の雰囲気で、魔術師というよりは無頼な武闘家のような風貌の人物だった。
見た目の印象通り、真面目で根性のある性格は森川と相性も良く、気難しいオルトやデンともすぐに打ち解けたようだ。
そして、今日俺はゲンマと共に、座を設けて彼の話を聞くことになった。
「兄弟子諸氏の指導を受けて、自分に分かったことは二つ……一つは自分が如何に無知であったかということ……魔法魔術に関しては人並み以上には知っていたつもりであったが……肝心の基礎理論の部分ですら口伝を鵜呑みにして思考停止していた事を知り赤面の至りである。ましてや魔術以外の学問や世界の理に関しては子供ですら知っている常識も弁えておらず、叡智の使徒たる方々の域に達する道のりは果てしなく遠いと痛感した……だが、これからの人生全てをかけて、つき進む所存である」
シモネムは強い意志の力を込めた眼差しで淡々と語る。
「それと……もう一つは、魔術師ギルドには新式術式を受け入れることは出来まい、その思いを強くした。EDKの思想は純粋な抽象論理を軸にしており、ギルドの伝統主義とは相容れぬ。叡智の探求どころか知性の鍛錬すら怠っている今の魔術師ギルドで扱いきれる物ではない」
彼の発言にメンバーは頷いた。
「でしょうね。冒険者ギルド幹部の皆さんも同じような事を言ってました」
「魔術師ギルドとアースガード自治区が繋がりを持つメリットは皆無といってもいいでしょう。得る物が無いどころか損失が大きすぎます」
「ただ、彼らが何らかの妨害をしてくる可能性はあるんだよね?EDKを目の敵にしているみたいだし。一応用心はしておいた方がいいかな?」
デンと森川とオルトは各々、シモネムの考えを肯定的に受け止めてる。
まぁ、この自治区と俺が庇護する人間に危害を加えたら、誰であろうとタダじゃおかないからな。
「で、相談ってのは、魔術師ギルドのことか?」
「いえ、それは今考えても仕方がないように思える。というより、彼らは放っておいても自滅する可能性の方が高いだろう……これは相談というより、どうしても気になることが頭に浮かんだのだ」
「なんですか?疑問なら何でも聞いてください」
森川が穏やかな顔で話を促した。
「術式に術式を綴らせることは出来ないだろうか?」
シモネムの疑問に俺たちは静止した。
「現状、綴った術式の全てが誰でも使用できる物ではなく、条件を満たさないと使うことは出来ない。しかし、術式に術式を綴らせることができれば、この問題を解決出来るのではないかと思ったのだ」
術式を外部に出力するとなると、多くは巻物に書いた物が大多数だが、通常、その使用や習得には制限がある。
主に使用者のクラスや消費魔力等の条件を満たしてないと効果を発動させることすらできない仕様になっている。
新しい術式を考案しても、それは誰にでも扱える物ではないのだ。
「それに、今は意味がない技術だとしても基礎技術を残しておけば後進が応用して発展させる可能性があるのではないかと愚考した。兄弟子諸氏の見解を伺いたし」
メンバーはシモネムのアイデアを反芻して熟考している。
デンはブツブツと高速で独り言を垂れ流す。
「EDKがチューリング完全なのは自明、では術式自体は?発想としては仮想化に近い。また、エミュレータ、セルオートマトン、人工知能へ繋がる可能性もある、結論、面白い」
……ヤバイ扉をまた一つ開いたような気配がした。
「ふーん。面白そうだね。いいんじゃない。やってみれば?」
ゲンマはいつも通り、能天気な笑顔で無責任に言った。




