獣と漆黒 (セナ&エディ)
セナ視点で始まり途中で視点が変わります。
雰囲気、ブラックです。
本日、4話を同時刻で投稿しています。
アルとジェシカが消えていくのを俺は止めなかった。
あーあ……そっか。
二人ともマジなんだな。
なんだよ。見せつけかよ。
はーぁ……やってらんねぇ。
ははっ。
やばっ。
胸が痛い。
心臓が抉られて、無くしたみたいだ。
痛いのに。
なのになんで、俺、笑ってんだろなぁ……
「………」
俺は木から降りて、その場に座った。ぼんやりと手のひらを見つめる。さっきまではあった温もりが、今はその感触すら消えている。
こうなることは分かっていたじゃねぇか。
ジェシカはアルが好きだし、アルもジェシカが好きだ。
婚約者となった二人は手に手を取り合い結婚の道を歩く。その道を俺は横で見つめているだけだ。なんなら、友人として拍手を送りながら。
そして、俺の道は……誰もいない。
バケモノだから誰にも横に置けない。
そうなる運命とやらは受け入れていたつもりだった。あの神託が下りた日に。バケモノだって知った日に。
俺の道は決まっていたはずなんだ。
「――なんでかなぁ……」
木の幹に背中を預けてぼんやりとそよぐ葉を見つめる。木漏れ日が形を変えて、時々、眩しいくらいの光を俺にあてた。
ちょっと……楽しすぎたかもな……
ラリエ国で王が亡くなり、王位第一継承権を持つ俺の父上が王となるはずだった。だが、父上の息子は二人。俺とマルクスのみ。俺は異形の者として生まれ、マルクスは王家の証であるオレンジ色の髪と金色の目を持たなかった。
あの国はしきたりとか、体面とか、そういうクダラナイことが大好きな国だからな。俺たちを王家としては認めなかった。
揉めに揉めて今も答えは出てない。対抗馬があのボンクラ親父じゃなぁ……たよりなさすぎて俺の父上にしたくなる気持ちも分かる。
父上に違う女をあてて、子供を産ませろとかそういうことを詰め寄ったヤツもいたな。父上は突っぱねてたけど。
だから、俺の周りは敵だらけだった。マルクスが狙われるようになって、庇護を認めてこの国に来た。
ラルフロード家の魔術師はラリエ国でも有名だった。そして、俺は継承権の決着が付くまでこの国にいるはめになった。
退屈していた。
学園以外には出られないから。
好きな海も見れないしな。
だから、ジェシカが生徒会に入ってむちゃくちゃ楽しかった。俺を蔑むヤツは居ねぇし、ジェシカのやることは全部、面白かったしな。
……普通の人間みたいに暮らして楽しんでいた。だから、俺は欲が出たんだ。
勘違いした。
俺は普通の人間で、誰かを隣に置いてもいいのだと。
はっ。気持ち悪ぃ……ほんと、やんなるな。
そんな普通の感情を持つなんて。
俺はバケモノなのに……
誰かと手を取り合ってゆける未来なんてあるはずないのに。
また手のひらを見つめた。それをぐっと握りしめて苦く笑う。
「ジェシカ……あったかかったな……」
俺のバケモノの一部を見ても驚かなかったジェシカ。その姿を反芻して、祈りのように留めた。
なんで、ジェシカなんだろう。
なんで、アルの婚約者なんかに。
「はっ。誰にも愛されねぇよってことかよ」
自嘲ぎみに吐き出した時、闇が近づいた。
「――セナ、よく分かっているじゃないか」
顔をあげるとエディがいた。いつもの笑顔で俺に近づく。
ぞくりと、背筋が凍った。生唾を飲み込みこむ。
あぁ、やべぇ感じがプンプン匂う。
「君は誰も愛されないよ。アルはハッキリとは言わないから、俺が言うよ」
闇が笑って残酷を押し付ける。
「――その姿を誰が愛すると言うんだい? 君はバケモノだろ?」
笑顔で切り裂く言葉に俺は口の端を上げた。
「言われなくても分かってんだよ」
「なら、ジェシカ嬢にちょっかいかけるのはやめたらどうだい? どうせ報われない」
闇は俺を絶望に落とそうとする。
「それとも、彼女の前でそのバケモノの姿を見せられるの?」
「っ……」
「ほら、見せられない。無理することはないよ。恐れられるのは怖いだろう?」
――あぁ、ほんと容赦ねぇな。エディは……
アルはある意味、まっすぐだから分かりやすい。だけど、エディは違う。こいつは心の奥底を見せない。
一点の色も許さない漆黒のようだ。
だが……まぁ、エディの言うことも尤もだな……
普通の感情なんて持っちまったから乱されるんだ。
そんな希望にすがるのようなこと……
――叩き潰しちまえ。
「なぁ、エディ。場所、用意してくれねぇ?」
「なんの場所だい?」
「俺がバケモノになれる場所」
闇は笑うのをやめた。代わりに俺が笑ってやろう。
「ジェシカに俺の本当の姿を見せたい」
「……本気かい?」
「あぁ、それでハッキリするだろ?」
「ジェシカが怖がったら、ゲームオーバーだ。な、単純だろ?」
■■■ sideエドワード
あぁ、本当に手間だ。
脅せばひくと思ったけど、セナは本気なんだな。面倒だ。せっかく、アルとあの女がうまくいきそうなのに、余計なことを……
でも、まぁ……それも一興か。
アルにしろ、セナにしろ、さっさとくっついてしまえばいいのだから。
「うん。分かったよ。用意する。だけど、いいのかい?」
俺の目的にはどちらがくっついても構わない。あの女さえ誰かのものになればいいのだから。
「ジェシカ嬢に嫌われたら、君、生きていけるの?」
セナは短く息をはいて、牙を見せる。
「そんなこと聞いてどうすんだ? 興味ねぇだろ?」
それにふっと笑った。確かに興味はないな。ある意味、話がわかるセナの方が事が進みやすい。マルクスだと妙な正義感をふりかざすからな。前回はそれでこじれた。
ははっ。
ほんと……
今度の人生は最高だよ。
「そうだね……じゃあ、用意ができたら連絡するよ」
◇◇◇
ウンドウカイが終わった後、アルとあの女が戻ってきた。アルは妙に優しい穏やかな顔をしていた。あの女もなんか恥じらっていた。二人が醸し出す空気が変わっていた。それを笑顔で迎えた。
残念だね、セナ。
君に入り込む余地はないみたいだよ?
◇◇◇
屋敷に戻った後、俺はアルにそれとなく聞いた。目的が達成させられそうか。椅子に座ってボーッとしているアルに話しかける。
「ねぇ、アル。ジェシカ嬢とどこへ行っていたの?」
アルは目線だけこちらに向けて、顔を逸らした。おやおや、顔が赤いけど、照れているのかい?
「……ちょっとな」
「ふーん。いいことでもあった?」
そういうとアルは照れ顔をやめて、神妙な顔になった。
「いいことか……あったような。ないようなだな……」
「意味深だね」
そう言うと、アルは深くため息をついて背もたれに体重を預けた。
「ジェシーは、ウメコに侵食されている」
それに瞬きをした。
「ウメコって……例の夢のお友達かい?」
「あぁ……自分のことをタナカ・ウメコだと言っていた」
あぁ、なるほど。
まぁ、そうなるよね。
「それは結構、病が進行しているのかな」
「……そうとも考えられるが、妙だ」
「何がだい?」
「ジェシーは前はウメコのことを。ウメコ・タナカと呼んでいた。だが、今度はタナカウメコと名乗っていた。名前が逆になっている。それに、自分を”別の世界から来たもの”だと言っていた。そんなこと、前は言ってなかった」
別の世界……あぁ、ジェシカが前に言っていたことか。
じゃあ、本当に交換されたということか。
よかったね。ジェシカ。
君は今頃、自由な世界かな?
「別の世界か……それは夢の中世界の名前のことかな……確か、ウメコのいる世界はこことは全く違う世界なんだよね?」
「あぁ……魔法がないと言っていた。その分、カガクというものが発達しているらしい。俺たちの常識じゃ考えられないが、転移魔法がないとも言っていたな」
「ふーん。魔法がない世界ね……不便な世界だね」
「まぁな……ただ……」
アルは俺と視線を合わせず、どこか遠くを見つめて言った。
「ジェシーはここよりずっと自由だと言っていたな……」
自由か。
何を以ての自由なんだろうね……
まぁ、ジェシカは今はいないし。
あの女に聞けば分かるのだろうけど、たいした興味もない。
「それで? アルはジェシカ嬢がまたウメコに乗っ取られて、それでもいいの?」
アルは遠くを見つめていた目をこちらに向ける。
「まさか……」
同じになったダークネイビーの瞳が揺らめく。口元は不敵な笑みが浮かんでいた。
「俺はジェシーを離さない。何があってもそれは揺るがない」
そう。それなら、安心だ。
「なら、順調なんじゃない? 二人で出てきた時、妙に微笑ましい空気を出していたような気がしたんだけど」
そう言うと、アルは眉根をひそめる。
「……エディ、からかうな」
クスクス笑ってしまう。アルは本当に単純だ。
弟の花道を確固たるものにするために一つ余興をするかな。
「ねぇ、アル。セナがね。本当の自分をジェシカ嬢に見せたいと言ってきたよ」
「……っ。どういうことだ?」
殺気のような声にクスリと笑う。
「ねぇ、アル。俺は思うんだけどさ」
「――希望を持たせる方が残酷だとは思わないかい?」
俺の言葉にアルは息を飲んで黙った。それにクスクス笑った。
あぁ、本当に。
今度の人生は最高だよ。
一人、部屋に戻った俺は引き出しの中から写真たてを出す。愛しい彼女の写真だ。その柔らかそうなクリーム色の髪に口づけを落とす。
「アルたちがうまくいったら、君は俺のだね」
「今度は君を死なせないよ。――ミア」
エドワードについてはそういう風に書いてきました。第一章から第三章まで彼の行動をおうとわかるかと思いますが、分かった人……いますか? 伏線下手なので心配です。
次は世界観のまとめになります。
第三章で色々でてきたのでまとめ回です。12時に更新します。




