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6.選ぶための朝
翌朝、エレナはロゼット公爵家の応接室で父母と向き合った。窓の外では雨が上がり、濡れた庭石が淡く光っている。父は長い沈黙のあと、低い声で尋ねた。
「王家との縁を失えば、我が家はしばらく厳しい立場に置かれる。お前にも、今まで通りの暮らしは約束できない」
「承知しております」
「それでも、その薬草師を選ぶのか」
「はい。私は王妃になる未来を恐れて逃げたのではありません。誰かに守られるだけの未来から、自分で歩く未来へ行きたいのです」
母は祈りの珠を握ったまま、そっと目を伏せた。その睫毛の先に光るものを見て、エレナは息を呑んだ。
「あなたが幼いころ、花嫁衣装の絵本ばかり読んでいたのを覚えているわ。けれど、あなたはいつも最後の頁で泣いていた。お姫様が幸せそうに笑っている絵なのに、どうして泣くのか分からなかった」
「お母様……」
「今なら少し分かる気がするの。あなたは、幸せの形がひとつしか描かれていないことが悲しかったのね」
その言葉に、エレナの瞳から涙がこぼれた。父は深く息を吐き、椅子の肘掛けに置いた手を握りしめた。
「ならば、泣かずに済むページを自分で書きなさい。ロゼットの名は、お前を縛るためだけにあるのではない」




