7.白百合の庭で
数日後、王宮の白百合の庭に三人が集まった。レオンハルト、エレナ、そしてノア。招いたのは王太子自身だった。
ノアは深く頭を下げ、決して王太子の目を避けなかった。その姿に華やかさはなかったが、静かな芯があった。レオンハルトは彼をしばらく見つめたあと、苦く微笑んだ。
「君が、エレナを泣かせた人か」
「はい。そして、泣いている彼女のそばにいたいと願った者です」
王太子は目を細めた。風が白百合を揺らし、花弁の影が三人の足元に重なった。
「私には、それができなかった。近い将来に王太子妃、果ては王妃となる彼女の姿を夢見ることはできたが、泣いている一人の女性として抱きしめる勇気は持てなかった」
「殿下……」
「だから悔しい。だが、君たちを憎むには、私はエレナに幸せでいてほしいと思いすぎている」
レオンハルトは懐から一通の書状を取り出した。それは王太子の名で発せられる、薬草院への王立施療所協力許可状だった。貴族の醜聞を揉み消すためではない。王都の貧しい者たちを支える薬草師として、ノアの仕事を正式に認めるためのものだった。
「これは同情ではない。君の施療記録を読んだ。必要な人材だと判断しただけだ」
ノアは震える手で書状を受け取った。エレナは、その横顔を見つめながら、胸の奥で何かが静かにほどけていくのを感じた。
「エレナ」
名を呼ばれて振り向くと、レオンハルトは幼いころと同じ、少し寂しげで優しい目をしていた。
「私は君を失ったのではなく、初めて本当の君に会ったのだと思うことにする」
「ありがとうございます。殿下」




