第五話 転生女子定例会議③
私はハナ子と言う。本名ではないし前世の名前でもない。
ただ乙女ゲームの世界に転生し、推しの攻略対象と二人きりになれてドキドキしながら話しかけようとしたら強風が吹き荒れ、私の顔面に大量の花がへばりついた。
もうモンスターみたいだったと思う。異形頭マンだったと思う。
そんな私を見た推しはこう言った。
「き、綺麗だね」
ありがとうございます。その言葉だけで花に埋まった甲斐があります。
かくして、私はハナ子となった。
そんな私もこの学院で生活するうちに、転生女子はフラグが建たないという現実に直面した。あがいた時期もあった。
だがしかし、フラグは建たない。フラグはへし折られる。
この世界には恋愛フラグ絶対へし折る神様が、いる。
それでも諦めない。そう、ヒロインはくじけない。
そう私は心に誓って過ごしていたある日、廊下で推しのフリット君を発見した。
フリット君。魔術学院の特待生で出自は庶民だけど天才。
もちろん攻略対象だ。
金髪碧眼に利発な顔立ち。身長もそんなに高くなくて可愛らしい。
フリット君を廊下で発見して、嬉しくて話しかけようと駆け寄ったのね。
そしたら盛大に足滑らせたのね。バレリーナのごとき見事な開脚で回りながら。
フリット君が咄嗟に手を差し出してくれたのね。
手がすかってからぶってなぜか私の手はフリット君のズボンにIN。
そのまま転んだ拍子にフリット君のズボンずり下げましたわ。
そう、私が話した瞬間、その場に集まっていた転生女子たちが机に突っ伏した。
話を振ったバス子さんも同じ有様だ。
「あかん」
「完全にあかんやつ」
「ラッキースケベかよ」
「フリット君可哀想に」
「なにやってんだおまえは」
「まあ故意じゃないとはいえ」
「なにがバレリーナのごときだ」
横隔膜を痙攣させながらツッコむ女子たちの声を聞きながら、私は余裕の笑みを浮かべた。甘い。話はここからである。
「そんで数日前、遅刻しそうで急いで走ってたのよ。
躓いて転んだんだ。
同じく遅刻しそうで前方を走っていたバーナード様のズボン掴んじゃってずり下げたんだなこれが」
「待て」
「待てや」
「バーナード様まで」
「おまえなにやってんだマジで!!!!!!!」
力一杯バス子さんが叫ぶ。だが、私の余裕の笑みは崩れない。
「そしてついさっき、廊下で派手にすっ転んで近場にいたダンタリオン様のズボン掴んでずり下げちゃったところです!!!
どうだ驚いたか!」
とポーズ決めて笑ってやった。全員が撃沈した。
「驚いたわ」
「おののいたわ」
「まさかのダンタリオン様まで」
「あああああああああああ私が見たかった」
「ダンタリオン様推しのヘラ子さんは落ち着いて」
「かわいそう」
「女生徒にズボンすり下げられるとか悲惨でしかないぞ」
「待ってだいじょうぶだったのそれ」
「すぐズボン上げてたけどなんかすげーダメージ喰らってたね。
ちょうどフリット君と話してたとこみたいでさ」
「だ、だいじょうぶですかダンタリオン公爵」
「は、はい、どうにか。いや、…教師やってそんなに長くはないですけど、…女生徒にズボン下ろされたのはじめてです…」
「普通ないと思いますよ…。
あ、でもオレもこの前その子にズボン下ろされたんで!」
「それはフォローなんですか???????」
「あ、バーナード様もなんかその子にやられたって!」
「待ってくださいきみはなにをやってるんです???????(私に)」
「なんかその、To L○VEる的なアレで…」
「なんかすげーズボンずり下げ妖怪みたいな目で見られたな」
そうコメントした私に、全員がもう駄目みたいな感じで吹きだした。
「クソワロタ」
「ダンタリオン様元気出してください」
「フリットさんも元気出して!」
「バーナード様もね!」
「だいじょうぶ犬に噛まれたようなもんだ!」
「フリット君さんのはフォローなのか???????」
「マジでTo L○VEるの主人公並のラッキースケベだな」
などとコメントされました。どやぁ。
「はいじゃあ、先日帰宅中にナンパ男に絡まれたアンナちゃん発見したんで、
「進撃すること山姥のごとく!!!」
って叫びながら男に飛び蹴りして走り去った私の話でお茶を濁しましょうね」
ずっと周りの話を聞いていたマユ子さんの話に吹いた。
アンナちゃんはアレである。このゲームの正ヒロインだ。
桃色の髪、キラキラした瞳の可愛らしい女子である。
もちろん、転生ヒロインではない。
「待て」
「まって」
「ぜんぜん濁せてない」
「進撃すること山姥のごとくとは」
「妖怪かな??????????」
「まってアンナちゃん助けたのはでかしたと言いたいがそれアンナちゃんびびってなかった?????」
「そのまま走り去ろうとしたら『待って! せめて名前を!』って言われたから決め顔で、
「ドンタコス!!!」
と叫んで逃げました」
何名かが紅茶を吹いた。馬鹿め。なぜこの笑いの震源地で話を聞きながら喉を潤そうとしたのだ。
「だからさあ」
「おまえドンタコスなの?????????」
「おまえはドンタコスなのか山姥なのかどっちかにしろ」
「ドンタコス(遺伝子組み換えでない)です!」
「どやるな!」
とりあえずどやったマユ子さんの頭をひっぱたいておいた。
それは許されざるドンタコスだよ。
「はぁい私、チェザーナ君と同じクラスのヒロイン()!
先日図書室で勉強してたらチェザーナ君が近くの机で勉強してたんだけど途中でターザナイト様来てさ、今チェザーナのノートに描かれた落書き見て、
「あんた絵すげー下手だな」
って言ったから大股で近寄って行って、
「本物の絵が下手っていうのはこういうものを言うの!
チェザーナ君は絵が上手!
アンダスタン!?」
って自分の書いた棒人間が絡み合ってる絵を見せながらお説教しました。
バーナード様が「お、おう…」って引いてた。チェザーナ君私の絵を見て笑ってた」
そう話したのはキリ子さん。
キリ子さんの手元にあったノートに描かれた絵は棒人間が絡み合っている絵だ。
これには吹き出さず、全員が頷いた。
「確かにチェザーナ君の絵は上手い」
「あれを画伯と呼ぶのは世界の法則がおかしい」
「世界の法則が乱れている」
「たまに漫画で登場する画伯キャラってみんな絵が上手いよね???」
「あれを画伯と呼ぶ奴らは本当の画伯を知らない」
「あのさあ、絵の伝言ゲームみたいなのあるじゃん。
お題を絵で描いて次の人に見せてって最後の人が絵を見てお題はなにかを当てるやつ。
私、前にクラスメイトと遊びでやったんだけど絵が下手すぎて前の人までのがんばりを無に帰してしまうので最終的に『おまえもう一番最後な。おまえ絵を描くな』って言われたからな???
ガチの絵が下手なやつの実力舐めんな???????」
「それな」
「アレが画伯ってドリナイ界の画力の平均値はどうなっているのか」
「まさかドリナイ界には棒人間量産マンはいないと…!?」
「そんなバカな」
「そんなバナナ」
そんな感じで話は進む。
今回の定例会議も、通常運転である。




