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第六話 されどもフラグはへし折られる

 私はシノ子と言う。当然だが本名ではない。

 シノ子という名の由来は、忍の真似をして跳んだ時に攻略対象の王子様に発見されその顔面に膝蹴りをお見舞いしてしまった経緯から、………この話やめよう。

 ともかく私はその日の授業を終え、さてどうしようかなと思っていた時に廊下で転生女子仲間を発見した。

「あら、イモ子さん」

「こんにちは。シノ子さん」

 ひら、と手を振った女子はイモ子さんと言う。

 名の由来は庭で焼きいもを焼くイベントが発生し、嬉々として落ち葉を集めてイモをセッティングしようとした矢先、野生のモモンガに奪われた挙げ句顔面に張りつかれ、そのまま背後にぶっ倒れた経緯から、………モモ子のほうがよくなかった? あだ名。

 そんなことを考えながら私はイモ子さんと合流し、帰りにカフェテリアにでも寄っていかないかという話をする。

「そういえば進展あった?」

「殺されたいか?」

「そうよね。あったら報告してるわよね」

「だから恋愛フラグ絶対へし折る神様がいると言って」

 そんな話をしながらある教室の前を通りかかった時だ。

 中から悲鳴が聞こえた。それも男の声である。

「今の声は………」

「フリット君、の声よね」

 今のは攻略対象、フリット君の声だ。

 一体何事だ、と思ってその教室の前に立つ。

 すると中から阿鼻叫喚が聞こえてきた。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ぎゃあああああああああああ兄貴女子みてーな悲鳴あげてんじゃねーよっつか押しつけんな!」

「アイザック頼む!」

「なんでオレだ!?」

 これは、攻略対象のフリット君の弟、レイジー君にアイザック君もいる。

 一体何事だ?

「どうする? なにかあったっぽいよ?」

「いや、私にはわかる。これは、………ゴキブリが出た反応よ」

 私がイモ子さんに尋ねるとイモ子さんは瞳をキラリとさせて答えた。

 確かに、この悲鳴はゴキブリを発見したときの阿鼻叫喚に見える。

「ならば、取るべき手段は一つ」

 そう言ったイモ子さん、鞄の中から取りだした黒い布を頭から被った。

 それは頭と口元が覆われた目元だけが出た黒い帽子で、つまり。

「銀行強盗かよ!!!」

「失礼な。ホームセンターに売ってるれっきとした農作業用具だわ!」

「え? この世界にホームセンターあった?」

「似たような店で発見した!」

 完全に銀行強盗ルックでシャウトしたイモ子さん、そのままガラッと扉を開けた。

 イモ子さんを見てフリーズする半裸の男たち。そういえばここ、部室棟だ。

 部屋の隅に鎮座するキッチンの黒い悪魔。

 すたすたと近寄って行って近くにあった雑誌でべしっと叩いて退治し、そのまま去るイモ子さん。


「ま、待て。おまえは…」

「名乗るほどの者ではありませぬ故」


 って外に出て扉閉めるイモ子さん。

 中から「え?なに今の?」「通り魔?」「でもゴキブリ退治してくれたぞ?」「誰?」「強盗?」ってざわめいてたのは些末事ですよね。

「いや待って」

 思わず流そうとして声をかけてしまった。

 銀行強盗ルックでこちらを見るイモ子さん、だからこっち見んな。

「無駄にかっこいいこと言ってるけど強盗スタイルだからなお前」

「ふっ、この帽子の機能美がわからないとはこれだから非農民は」

「堂々と男子部の着替え中に乱入したくせに。

 ていうかなんで学校の鞄にそんなもの入ってるの」

「いや学校の学校行事で草むしりあるんだよ。学校周りの。

 なんだけど私、花粉症でさ。鼻と口覆っとかないと大変なことになるし、かと言ってマスクだと耳痛くなるしでこれ持って来てたのよ。

 先生に五度見くらいされたけどな!」

「はいはい前世の話ね。今は貴族学校だからそんな行事はない」

「ハッ」

 今頃になってそんな行事がないことに気づいたイモ子さんがハッとしていた。

 遅い。




 ともかくイモ子さんは強盗ルックをやめ、今日は徒歩で帰ろうカフェテリア行こう、と道を歩いていたらふといい匂いが香ってきた。

 これは、ラーメンの匂い!!!

「なぜ西洋の世界にラーメン屋が」

「ああ、隠しイベントで東の島国から出店してきたお店に行くのがあった」

「ああ、そういえば」

 視線の先にはいかにもなラーメン屋。

 イモ子さんとの会話で納得した私は、イモ子さんと顔を見合わせる。

 腹が空腹感を訴えている。

「入る?」

「……入るか」

 どうせ入らなくたって攻略対象とのイベントは起きないんだし、と諦観して、道を渡るとその店の扉をくぐった。

 と、思ったら店内にフリット君とアイザック君の姿があるではないか。

「おお、お前たちもこの店気になった口か?」

「よかったらこっちどうだ?」

「は、はい。ありがとうございます!」

「お邪魔します!」

 前言撤回、イベントあったな。

 私たちはフリット君とアイザック君に誘われるまま、カウンター席に座り、ラーメンを注文した。

「奇遇だな本当に」

「ええ本当に」

「さっき妙なことがあってなあ」

「あらそうなんですか」

 私はイモ子さんだな、と思いながらも濁してやった。

「案外、あなたの近くにいるかもしれません」

「え?」

「信じるか信じないかはあなた次第です」

「ホラー?」

 フリット君が首をかしげている。

 背後のイモ子さんの圧を感じながら、私は笑顔で誤魔化した。

 そこでラーメンが運ばれてくる。

 割り箸を手に取って、さて食べようと箸を手に持つ。

「そういえばこの店がさ」

「はい」

「東洋の島国から出店したって話で」

「ああ、そう聞きましたねー」

 フリット君の同級生、アイザック君の話に相づちを打ちながらラーメンをすすろうとしたが、なんだろう。麺が硬い。コシが強すぎる。

 そのまま啜ろうとしたが、かみ切れない。

 こちらに視線を向けたアイザック君とフリット君がふと私のラーメンを見て青ざめた。

 なんだろう、と思って私はラーメンに視線を向ける。

 目が、合った。

 ラーメンの中に浮かぶ、女の目と。

 そして、その女の髪が私の口の中に、そう、私はラーメンだと思って女の髪を啜っていたのだ。

「ずずずずずずずずずずず」

「おい待て今明らかに認識したのになにそのまま啜ろうとしてる!」

「ずごごごごごごごご」

「食べちゃえばなかったことになる!?

 食べるな! そんなものを消化器官に収めるな!

 ぺっしなさい!」

 啜る音で私の言いたいことを察するイモ子さんと会話しつつ、私はそのままお化けを呑み込もうと、啜って近づいた女の頭にがぶっと噛みついた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 女が絶叫した。そしてそのまま消えた。

 目の前に残るのは、少し中身の零れたラーメンだけ。

「すみません。別のラーメン注文していいですか?」

「だけ!? 怨霊食べようとしといて言うことそれだけ!?」

「いや、基本お残しはしないんだけど、さすがに怨霊が入浴していたラーメンはちょっと」

「食べようとしておいて!」

 イモ子さんが必死でツッコんで来る。私は気にしないふりでフリット君とアイザック君のほうを見た。

 青ざめた顔をした二人を見て、にっこり微笑む。

「美味しい(ラーメン)ですね」

 そう場を盛り上げようとした私だったが、

「あなた、それあの怨霊が美味かったって言ってるわよ」

 と小声でイモ子さんにツッコまれた。

 攻略対象の二人は青い顔をしたまま、私から視線を逸らした。

 別に、泣いてなんかない。


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