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第四話 転生女子定例会議②

 手を挙げた女子は、真剣な表情で静かに話し始めました。

 固唾を呑んで聞き入る女子たち。

 雨が降り出したのか、ますます薄暗くなる室内。

 雨音が外で響いています。

「私はダンタリオン様推しの転生女子です」

「ああ、素敵よね。年齢不詳の外見の色っぽい男性教師。

 物腰も丁寧で、かつ公爵家の血筋」

「現実だったら学生に手を出す教師万死に値するだけど、乙女ゲームの世界だからいいのです」

「目を背けるなもうここは現実だ」

「嘘だっ!!!」

「まあそもそもフラグ建たないから学生に手を出してはいないしね」

 キュウ子さんが痛い真理を突いた。真実はいつも人を傷つける。

「私は密かにダンタリオン様を思いながら学院で過ごす日々。

 ある日、廊下でダンタリオン様とすれ違いました。

 ダンタリオン様は『こんにちは』と挨拶してくださいましたが私は緊張して「は、はい」と頷くので精一杯。

 ああ、今日もお話出来なかった、と落ち込んだとき、ダンタリオン様に呼び止められたのです。

 ドキドキしながら振り返ると真剣なまなざしをしたダンタリオン様が。

 私の胸は高鳴りました」

 意外な方向を見せた話に、皆が固唾を呑んで見守る。

 まさかついにフラグを建てた猛者が!?

 最初こそフラグを建てた奴がいたら全員で足を引っ張ろうと思っていたが、ここまで来るとそんな猛者がいたら全力で応援してあやかろうというスタンスである。

 さて、これは正か否か。

「ダンタリオン様に、こう言われたんです」

 そう名無しさんは語る。


「…あの、すみません。実はあなたに言わなければならないことが」

「は、はい…(ドキドキ)」

「…突然で大変驚かれるかと思いますが」

「は、はい…!(ドキドキクライマックス)」


「あの、背中に…………………カブトムシが留まってます」


 イエーイめっちゃヘラクレスオオカブト!!!!!!!!


 盛大に吹いた。全員が「ブッフォオ!」と貴族子女にあるまじき声で吹いた。

 タメがあった分堪えきれなかった。

「ちょっとキュウ子さん! 牛乳かけたな! 顔に!」

「ごめんなさい! でも今の話吹き出さないでいられる!?」

「無理!」

「無理なら諦めて!」

「それはともかくなんでカブトムシ」

「ダンタリオン様めっちゃ悩んだだろうな」

「女子の背中に虫だもんな。

 出来るだけびびらせないように慎重に言ったんだろうな」

「まあそんなの見たら教えないわけにいかないもんね」

 もっともなツッコミを重ね合っていたら、不意にがらっと扉が開いた。

 しんっと静まりかえる室内。

「あ、」

 戸口に立っていたのはターザナイト様。

 彼はこちらを見て、命名セミ子さんに近寄る。

「悪い」

「え、な、なんでしょうか」

「俺、ハンカチ持ってないんだ」

 ドキドキしていたセミ子さんを見下ろし、ターザナイト様はぐっと拳を握る。

「俺、あんたが白い液体を被るのが好きだって言うのは黙っておくからな!」

「ちょっと待ってえええええええええええ!!!!!!!」

 そのまま走り去って行ったターザナイト様。扉が勢いよく閉まる。

 その場に落ちる「コレジャナイ」沈黙。

「あの、あだ名、白子さんにする?」

「……セミ子でいい」

 気を遣って声をかけたキュウ子さんにセミ子さんは蚊の鳴くような声で答えたという。

「あの」

 そこで不意に侵しがたい沈黙を破ったのはあの名無し女子だった。

「話が、まだ続くのですが」

「あ、どうぞどうぞ! 続けて!」

「カブトムシが背中に張りついたところだっけ!?」

「どうぞ続きを!」

 その場の気まずい空気を打破するために、誰もが名無しさんに先を促す。

 名無しさんは「はい、ダンタリオン様に背中にカブトムシがくっついている、と教えられたのです」と、静かに、再度語り始めた。


 もうクソびびる以前にフラグべきって折ってくれたカブトムシに殺意湧きました。

 だがそこに現れる第二の男!


「待ってくれ!」

「ターザナイト様?」

「あんた、そこを動かないでくれ! 頼む!」

「え…(どきーん)」

「頼む。俺にはあんたに行かれたら困るんだ…!」

「ターザナイト様…(ドキドキ)」


 私はドキドキしながら、ターザナイト様を見つめます。

 そう、なぜなら、


「その背中のヘラクレスオオカブトが逃げないようにじっとしててくれ!」


 ターザナイト様の手には虫取り網が握られていました。


 また一斉に吹いた。

 またか。またかターザナイト様。あなたも大概罪なお人。もとい、やらかす御方だ。


「そういう…っ」

「なるほど納得」

「前門のターザナイト、後門のヘラクレスオオカブト」

「ヘラクレスオオカブトに負ける女」

「その後、無事ターザナイト様はヘラクレスオオカブトをゲットして満足げに去って行きました。

 ダンタリオン様が『どっから虫取り網…』とつぶやいていたのが印象的でしたね」

 そう名無しさんは話を締めくくった。

 周りの女子たちが呼吸困難になりながら「乙」「乙でした」と激励を送る。

「なんてひどい話だ」

「ほんとどっから虫取り網持って来た」

「わかった。あなたはヘラ子さんで」

「うぃっすあだ名拝命ありがとうございます」

 めでたく名無しさんのあだ名がヘラ子さんになりました。

 命名したキュウ子もほかの女子も異論なしである。

「ていうか、この世界、国名とかは元の世界の名前をもじってるけど虫の名前はそのままだよね。

 カブトムシとかカマキリとかゴキブリとか」

「そこはまあ日本産の乙女ゲームなので」

「ゴキブリの大きさも日本に準拠してるよね。

 海外のゴキブリはあんなに大きくないんだって」

「やめろやめろその話はやめろ」

「海外基準になぜしなかったんだ制作陣」

 などと怨嗟の声があふれ出す中、不意に立ち上がったのはある転生女子。

 名はバス子さん。

 名の由来は、学院の池の前で攻略対象に告白しようとしたところ、池から飛び出してきたブラックバスがその頭に噛みついたことから来ている。

 本当に、フラグをへし折るために手段を選ばない神様だ。

「乗るしかない!このビッグウェーブに!


 つーわけで授業中に開いた窓から飛来したセミが顔面に貼り付いた私の話をしましょうかね」


 一斉に女子たちがまた吹きだした。

 基本的にずっと笑ってばかりなので、あまりお茶菓子を用意した意味がない。

「まって」

「まって」

「隣の席の攻略対象チェレスタ様がクソびびってましたよね」

「ヒィ」

「なんなの転生ヒロインは虫につかれる呪いでもかけられてんの?」

「憑かれてんじゃないの????????」

「あなた、憑かれてるのよ…」

「それか身体に樹液でもついてんの???????」

「おまえは転生女子をなんだと思って」

「おまえだけは許さない絶対にだ」

 正直、虫に憑かれているとは思っている。だって、あまりに虫と建つフラグが多すぎる。

「もうめっちゃ顔にセミ。

 めっちゃミーンミンミンミンってうるせえ。

 騒然とする教室。響く悲鳴。

 チェレスタ様は勇気を振り絞ってこう言いました。


「あ、あの、顔にセミ、ついてるよ…?」


 うん、知ってる」

「いやわかってるから」

「顔面にセミくっついてミーンミンミン鳴いてて気づかないやつがいてたまるか」

「芋けんぴかよ」

「まだ芋けんぴのほうが遙かにマシだわ」

 一斉にツッコミが集まる中、バス子さんは話を続けた。


 私は震える手を伸ばし、がしっとセミを掴んで言いました。


「ほら、だいじょうぶ。怖くない」

「ミーンミンミンミンミンミンミン!!!!!!!!!(大絶叫)」

「怖くねえっつってんだろおまえから来といてミンミンうるせえ!!!」


 って窓の外にセミぶん投げたわ。

 さらばセミ。二度と戻って来んな。


「だから」

「だからさあ」

「そこは、せめて悲鳴をあげろよ」

「お気づきだろうか。

 ここまで虫にくっつかれたヒロイン()誰も悲鳴上げてない」

「知ってた」

「セミをボッシュートすんな」


 とにかく話の続きをするね。

「もうだいじょうぶよ」

「あ、う、うん。すごいね…(引き気味)」

「いや、これくらいは普通の…」


 と笑ったところでリターンしてきたセミが私の後ろ頭に。


「ミーンミンミンミンミンミンミン!」

「おまえもセミのスタンド持ちか!?」


 誰だターザナイト様におかしな情報吹き込んだやつって思ってたけどおまえかセミ女。


「リターン早っ!!!」

「そしてセミのスタンドのフラグ回収乙」

「鮮やかなフラグ回収」

「セミ子さんのせいでターザナイト様におかしな常識が」

「飛び火してる」

 そこでセミ子さんがバス子さんのほうを向いて、

「マジすまんかった」

 と頭を下げる。

「購買のアイスで手打ちにします」

「わかった」

 ということで取引が成立しました。

「取引成立」

「セミで結ばれし絆」

「そんな絆いやだあ」

「つかそのあとターザナイト様に虫を呼ぶコツめっちゃ聞かれるしセミは三度放ってもリターンして来るしでその授業の担当だったダンタリオン様に『親だと思われてるのでは?』って真顔で言われたからな」

「三度も戻って来るとかどんだけ好かれてんだよ」

「ほんとに憑かれてんじゃないのか」

「なんでこうおかしなフラグばっか建つの?」

「だから恋愛フラグが家出してるっつってんだろ!!!」

「そもそも考えてみ?

 普通の恋愛もの転生ヒロインって、元々の作品が乙女ゲームって設定じゃん?

 恋愛ありきの作品の世界じゃん?

 でももうここは現実の世界だから恋愛フラグっていう概念が存在しないのでは?」

「言うな言うな言うな!!!」

「ほんとの話はやめろよ!!!」

「そもそも定例会議137回まで来ていい感じのフラグを建設したやつが未だいない事実からもう察するべき」

「それ以上は言っちゃいけない」

「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」

「なにからだよ」

「フラグの建たない現実から」

「ほかのフラグなら建つのにね」

「だからやめろと」

「大体痛いことツッコんでるハナ子さん、あなたはなにかいいフラグ建てたの?」

 そうバス子さんに聞かれ、ハナ子さんはよどんだ目で見つめ返した。


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