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美容部発足

ある日の放課後、俺は校舎裏でエリとカナに呼び止められた。


コンビニ袋を下げたまま、立ち止まる。




エリが腕を組んで言う。




「おい舎弟、お前、姐さんに惚れてるだろ?」




俺は思わず言葉を詰まらせた。




「え、なんでそんなこと聞くんだ?」




エリは一歩前に出て、睨むように言った。




「姐さん、繊細だからな。


傷つけたら承知しねぇからな。


お前から告れ、いいな?」




俺は言葉を返せず、黙り込んだ。


最近、麻衣とはよく話す。


一緒にスキンケアをしたり、筋トレを教えたり。


カラオケにも行った。


でも、それは俺が憧れていた“恋”とは違う気がする。




もっと親しい。


もっと深い。


でも、どこか“恋”とは違う。




カナが横からぼそっと言う。




「おい、エリ。


2人とも純情で奥手だ。


こりゃ時間かかるぞ?」




エリはため息をついて、俺の肩を軽く叩いた。




「いいか、舎弟。


姐さんは強いけど、強がってるだけのときもある。


お前がそばにいるなら、ちゃんと向き合え。


それが、舎弟の務めだ」




俺は、うなずくしかなかった。


麻衣の背中が、ふと頭に浮かんだ。


ビール瓶を運ぶ姿。


スチーマーを使って、鏡を見つめる横顔。




俺は、麻衣に惚れているのかもしれない。


でも、それは“好き”という言葉では足りない気がした。




 俺が黙り込んでいると、エリがニヤニヤしながら切り出す


「なあ…その“ヤバいブツ”、ちょっと分けてくれよ」




俺は顔を上げる。


エリの声は、いつもより少しだけ低かった。




カナが、髪留めをいじりながら続ける。




「姐さん、最近マジで変わったよな。


肌も姿勢も、なんか…キラキラしてる。


あたしら、置いてかれてる気がしてさ」




エリは、黒マスクの端を指でつまみながら言った。




「別に、あたしらも変わりたいってわけじゃねぇけど…


いや、ちょっとは思ってる。


姐さんみたいに、堂々と鏡見れるようになりたい」




カナは、前髪を下ろしかけて、すぐにまた留め直した。




「額の痒み、治ったら…あたしも髪、下ろしてみたいんだよな。


でも、どうやって始めりゃいいか、わかんなくて」




俺は、スチーマーの箱をそっと差し出した。




「じゃあ、まずはこれ。


使い方、説明書通りにやればいい。 最初は“変わる”ってより、“整える”って感じでいいんだよ」




エリとカナは、顔を見合わせて、少しだけ笑った。




「…姐さんには内緒な。


あたしら、こっそり追いつくから」




その笑顔は、いつもより素直だった。


麻衣がいないからこそ、言えた言葉だった。




エリは、スナック菓子が好きだった。


口の周りにはいつも吹き出物ができていて、黒マスクでそれを隠していた。


でも、歯並びだけは綺麗だった。


誰にも見せない笑顔が、そこに眠っていた。




カナは、ブリーチを繰り返した髪を持っていた。


頭皮に薬剤が触れて、額がいつも痒かった。


だから、前髪は髪留めで上げたまま。


切れ長の二重の目が、いつも少しだけ怒って見えた。




麻衣の“ヤバいブツ”――スキンケアが、ふたりに渡った日から、少しずつ何かが変わり始めた。




エリは、吹き出物が消えていくのを見て、


ある日、マスクを外した。


鏡の前で、そっと歯を見せて笑った。


その笑顔は、誰にも見せたことのない、ほんとうの自分だった。




カナは、額の痒みがなくなって、髪を下ろせるようになった。


鏡の中の自分は、優しい目でこちらを見つめていた。


怒っていたわけじゃない。


ただ、守っていただけだった。




昨日よりも、今日。


今日よりも、明日。


変わっているのは、顔じゃない。

“見方”だった。

 

それは、薬でも魔法でもない。

でも。

確かに効く。

 

自分を、少しだけ肯定するための。

静かな、習慣。

そして気づく。

 

これはもう、“姐さんだけの変化”じゃない。

小さな、美容部。

 

誰にも言ってない。

名前もない。

でも――

確実に、ここから広がっていく。



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