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姐さんの天敵

――ある日




 いつもの場所、自販機の近く。


俺たちはスキンケア商品を並べて、使い方や効果について話していた。


「いいか、まずは順番だ」

麻衣が腕を組む

「洗う → 整える → 閉じる」

指でリズムを刻むように説明する。

 

エリとカナが、珍しく真剣な顔で頷いている。

ここはもう、“たまり場”じゃない。

小さな講義室みたいになっていた。 


その空気は、少しずつ“変わること”を楽しむ空気になっていた。


「ねぇねぇ」

声が落ちる。

空気が変わる

 

振り向くと、ひとりの女子が近づいてきた。


化粧をして、顔立ちも整っている。


制服の着こなしも洗練されていて、まさに“かわいい”の象徴のような子。



麻衣が、かつて憧れていたけれど、どこか距離を感じていた“女の子らしさ”を体現している存在だった。


エリが小声で言う。



「…あ、やべぇ。姐さんが苦手な人種だ。こりゃカミナリが落ちるぞ」



カナが俺の肩を叩く。



「ちゃんと止めるぞ。舎弟、お前先頭な。腹くくれよ」



俺は、とまどっていた。


空気が張りつめる。




でも、その女子――ミキが、ふわりと声をかけてきた。



「ねぇ、そのスキンケア商品、私も使ってるよ。

そういうの、興味あるの?」

その一言に、空気が少し揺れた。


一瞬。

本当に、一瞬。

全員の視線が麻衣に集まる。

(どう出る)



重たくなるかと思われた瞬間――



麻衣は、微笑んで答えた。




「興味あるよ。もっといいのあるの?」



ミキの顔が、一気に明るくなる。

「やっぱり!」

 

一歩近づく。

「麻衣ちゃん、だよね?」

少しだけ興奮気味に。

 

「前から思ってたんだけど、

姿勢めっちゃ綺麗だし、普通に目立ってたよ」

言い切る。

迷いなく。

「ねぇ、私も混ざっていい?」



麻衣は、少しだけ照れながら言った。



「お、おう。まぁ、こっち来いよ」



ミキは嬉しそうにうなずいた。



「うん!」



エリとカナは、顔を見合わせて肩の力を抜いた。



「…姐さん、すげぇな」


「あたしらが勝手にビビってただけかもな」


俺は、黙って見ていた。

 

麻衣の背中。

前より、まっすぐだ。

でも。

前より、柔らかい。

 

“かわいい”に憧れてたやつが。

今は――

その“かわいい側”から、声をかけられてる。

 

これ、たぶん。

スキンケアの効果じゃない。

“立ち方”が変わったんだ。

 

自分を否定しない立ち方。

誰かを否定しない立ち方。

それが――

人を引き寄せる。

 

自販機の前。

いつもの場所。

でも、少しだけ景色が違う。

ここはもう。

 

ただの“たまり場”じゃない。

人が集まる場所になり始めていた。

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