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見え透いた誘い

話題は、少しずつ変わっていた。

 

スキンケアから――化粧へ。

 

「そのファンデ、崩れにくい?」

ミキが頬に触れる。

「うん、でも乾燥はちょっとするかも」

 

麻衣が腕を組んで考える。

「じゃあ下地変えた方がいいな」

 

アイシャドウの色。

ラメの細かさ。

光の入り方。

 

エリとカナも、前のめりで聞いている。

笑い声が、軽い。

空気が、やわらかい。


でも、

俺は、少しだけ輪の外にいるような気分だった。


笑い声は届く。


でも、言葉の流れには乗れない。

 

自販機の影。

俺は黙って、スキンケア用品を並べ直す。

 

ラベルを揃える。

順番を整える。

 

意味なんて、ない。

ただ――

手を動かしていないと、置いていかれそうだった。

 

「はるた!」

不意に、名前が呼ばれる。

振り向く。

タカが立っていた。 


モテグループのリーダー。


昔、一緒につるんでいた仲間。


ゲームの話、くだらない動画、放課後のコンビニ、共に過ごした時間は随分遠くに感じる。


 

「はるた!最近、全然かまってくれないじゃん!

また、遊ぼうぜ!」



その声は、懐かしくて、少しだけ痛かった。


俺は、黙っていた。


返事ができなかった。


タカの言葉は、俺を“前の自分”に引き戻そうとしていた。


でも、今の俺は――


麻衣たちと過ごす時間の中で、少しずつ変わっていた。



俺は、輪の外にいる。


でも、それは“孤立”じゃない。


“変化の途中”なんだ。



タカの声が、少しだけ遠く感じられた。


俺は、スチーマーの箱をそっと閉じた。


――



別の日、校舎裏の自販機前。


俺が缶コーヒーを取り出した瞬間、背後から軽い声が飛んできた。


「はるた〜!最近ずっと可愛い女の子達といるじゃん。」


振り返らなくてもわかる


タカ


相変わらずの笑顔。


相変わらずの距離感。

 

「特にさ、麻衣ちゃん」

間を置く。

「俺、ちょっと運命感じちゃってさ」

 

「来年、俺ら卒業だし、そろそろ彼女作っちゃいます的な?


なぁ、オレの言いたいこと、分かるだろ?」



俺は、缶を握ったままタカを睨みつけた。


その笑顔の裏にあるものが、すぐに分かったからだ。




タカは、俺の反応を見て、少しだけ声のトーンを落とした。



「昔、ちょっと俺もムキになっちゃってさ。


実は反省したんだよね。


でも、はるたは、俺の見込んだ通りの男だったよ」




その言葉は、白々しかった。


でも、タカの目には自信があった。


俺が麻衣たちの輪の外で、少しだけ疎外感を感じていたこと――


それを見透かして、言葉を選んでいるのが分かった。




タカは、俺の“揺れ”を嗅ぎ取っている。


そして、そこに入り込もうとしている。




俺は、缶を開けた。


炭酸の音が、静かに空気を裂いた。




「…麻衣は、そういう軽いノリで近づいていい相手じゃない」




タカは笑った。




「分かってるって。


でも、俺は本気だよ。


はるたが大事にしてるの、見てたからさ。


だから、


俺もちゃんと向き合いたいと思ってる」




その言葉に、俺の胸がざらついた。


本気――


その言葉ほど、軽く使われるものはない。




でも、俺はもう逃げない。


麻衣との関係も、自分の居場所も、


誰かに揺さぶられて


曖昧にするつもりはなかった




俺はタカに挑むように言った。




「麻衣がどんな子か分かってるのか?


あの子は、努力して変わったんだ。


それは、軽い気持ちで


茶化していいものじゃない」




タカは、笑顔を崩さずに答えた。




「当たり前じゃん?


あの子、お家のことで苦労してたけど、


自分磨きですっごく見違えたんだろ?


俺、そういう子と


一緒にいるべきだと思うんだよね。


お互い高め合える関係ってやつ?」




その言葉に、俺の胸がざらついた。


麻衣の家の事情まで把握している。


それを“努力の背景”として語るタカの口ぶりは、まるで麻衣の人生をプレゼン資料みたいに扱っていた。




怒りがこみ上げた。


でも、俺はそれを表に出さなかった。




タカが、手段を選ばないやつだということは、もう知っている。


ノボルに土下座を強要し、その動画を晒した。


俺が女装して女子の気を引こうとしたことも、笑いのネタにされた。


次は――麻衣や、エリやカナが標的になるかもしれない。




俺は拳を握った。


でも、それをポケットの中に隠した。




今ここで怒りを爆発させても、守れるものはない。


麻衣の努力も、仲間たちの変化も、


タカの“正論”に飲み込まれてしまう。




俺は、静かに言った。




「麻衣は、誰かに“選ばれる”ために変わったんじゃない。


自分のために、変わったんだ。


だから、お前の“高め合える関係”って言葉――


あの子には、似合わない」




タカは、少しだけ笑みを引きつらせた。


でも、何も言わずに缶コーヒーを開けた。




風が吹いた。


俺の拳は、まだポケットの中にあった。


でも、心の中では、もう戦いが始まっていた。

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