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ヤバいブツキャラバン

衣装担当の子は、メジャーを手に真剣な顔で採寸していた。

「トレーニングもするなら、脚を開いてもいい衣装にするね。

あと、Ms.Unknownの方も、“女の子”じゃなくて――中性的な方向でブラッシュアップする」

 

その言葉に、俺はゆっくりとうなずいた。

“女の子になりたい”わけじゃない。

“自分のままで立ちたい”だけだ。

その微妙なニュアンスを、ちゃんと掬い取ってくれる誰かがいる。

 

それだけで、胸の奥が少し軽くなった。

 

そのとき――

教室の扉が、静かに開いた。

ノボルが立っていた。

 

少しだけ緊張した顔で、それでも目は逸らさずに。

「はるた……俺も、チラシ配りくらいなら手伝わせてくれよ。

男相手なら、俺でも役に立てるだろ?」

 

一瞬、空気が止まる。

過去の記憶がよぎる。

晒された動画、嘲笑、あの時の痛み。

 

でも――

「ありがとう。来てくれて嬉しいよ」

言葉は、驚くほど自然に出た。


 「一緒にやろう。

今度は、“誰かを守る側”で」

ノボルは、少しだけ照れたように笑った。

 

その笑顔は、もう“過去の彼”じゃなかった。

俺たちはもう、“晒される側”じゃない。

自分の意思で立つ側だ。

 

衣装担当の子が、軽く手を叩いた。

「じゃあ、ノボルくんの分も作るね。

“普通の男子”でも着られるけど――ちょっとだけカッコよく」

 

ノボルは目を丸くする。

俺は笑った。

「それが“ヤバいブツ”だよ。

変わるって、恥ずかしいことじゃない」


――

そして、学園祭当日。

廊下は人で溢れ、ざわめきが波のように流れていた。

 

その中で――

俺は、“Ms.Unknown”として立っていた。

ただのコスプレじゃない。

逃げるための仮面でもない。

これは――“俺が選んだ姿”だ。

 

チラシを差し出す。

立ち止まる人がいる。

目を合わせる。

逃げない。

 

それだけで、世界の見え方が違った。

教室の中は、もう“ブース”じゃなかった。

小さなステージだった。

 

ミキのメイク講座には人だかりができていた。

「眉で印象変わるよ!ここ、ちょっと上げてみて」

鏡を覗き込んだ子が、驚いたように笑う。

「え、なにこれ……私じゃないみたい」

「それも“あんた”だよ」

ミキは、あっけらかんとそう言った。

その一言で、空気がふっと緩む。

 

“可愛くなること”は、誰かになることじゃない。

自分の可能性を許すことなんだ。

 

一方、筋トレコーナーは――カオスだった。

「スクワットは腰落とせ!!」

「タンパク質は裏切らねぇ!!」

もはや部室。

 

でも、そこにエリとカナが割って入る。

「で?その筋肉、肌ガサガサでいいの?」

「清潔感って知ってる?」

男子たちは、一瞬黙る。

 

そして――

「……それも大事だな」

価値観が、静かに更新されていく。

そして、教室の中心

 

そこには、麻衣がいた。

人が集まる。

自然と、視線が向く。

「写真いいですか!」

「どうやったらそんな風になれますか!」

 

その問いに、麻衣は少しだけ照れながらも、まっすぐ答える。

「別に特別なことはしてねぇよ。

ただ――逃げなかっただけだ」

 

その言葉に、誰かが息を呑む。

完璧だからじゃない。

強いからじゃない。

 

“変わった過程”を見せているから、人は惹かれる。

ふと、教室全体を見渡す。

 

ミキの笑顔。

エリのツッコミ。

カナの柔らかい空気。

ノボルのぎこちないけどまっすぐな動き。

そして、麻衣の背中。

 

俺は、気づく。

ここは――

“ヤバいブツ”を売る場所じゃない。

“変わることを許された人間たち”が、

その証を見せる場所だ。

 

そのとき、ふと誰かがつぶやいた。

「なんかここ……空気違くない?」

別の誰かが、笑いながら答える。

 

「うん。なんか――勇気出る」

俺は、もう一度チラシを差し出した。

「よかったら、見ていってください」

その声は、もう震えていなかった。

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