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それぞれのbefore/after

――学祭の日程が決まり、準備が始まった。

校内には、どこか遠慮がちな空気が流れていた。

自粛ムード。

 

例年よりも少ない出し物。

でも――

だからこそ、俺たちのブースは、あっさりと通った。

 

「ヤバいブツブース」

名前だけ見ればふざけているのに、

中身は、やけに真剣だった。

 

教室の床には、写真、ポップ、資料が広がっている。

“どう見せるか”を、みんなで考えていた。

 

そのとき。

「これ、見てくれ」

麻衣がスマホを差し出す。

画面には、彼女のトレーニング記録。

最初の写真。

猫背で、足を投げ出すように立っている。

 

そこから――

日を追うごとに、姿勢が整い、重心が変わり、

“立ち方”そのものが変わっていく。

 

数字じゃない。

“生きた変化”だった。

 

「姐さん、攻めすぎじゃないですか?」

エリが思わず言う。

 

「こんな頃の出すんスか?」

 

麻衣は、軽く笑う。

「どうせ最後だ。説得力あった方がいいだろ」

 

その言葉に、カナが静かにスマホを差し出した。

SNSの画面。

そこには、短い言葉が並んでいる。

“今日の私、昨日よりちょっと好き”

“前髪を下ろした日は、心も少し開いた”

変化は派手じゃない。

 

でも――

確実に“前に進んでる言葉”だった。

 

「はぁ……」

エリが観念したように息を吐く。

「これ、私も出さないとダメな流れっスよね?」

ちらっと、こっちを見る。

 

「おい、舎弟。お前もだぞ」

俺は、一瞬だけ迷った。

 

動画。女装。笑われた過去。

でも――

もう、隠す理由はなかった。

「……出すよ」

静かに言う。

「俺も、変わったから」

 

その言葉に、麻衣がほんの少しだけ笑った。

 

「なになに〜?」

ミキがひょこっと顔を出す。

「え、みんなヤバ。めっちゃ変わってるじゃん!」

 

そのまま、自分のスマホを差し出した。

中学時代の写真。

長いスカート。ぱっつん前髪。

手には、アニメグッズ。

「……あたし、オタだったんだよね」

少し照れながら笑う。

 

「いや、今も好きだけどさ。

でも、オシャレもやってみたくて、ちょっとずつ変えてった」

一瞬、言葉が止まる。

 

「そのせいで、前の友達とはちょっと距離できちゃったけど」

でも、すぐに顔を上げる。

「また繋がることもあるよね」

 

エリが、小さくうなずく。

「……あるよ」

 

カナが笑う。

「むしろ、その話が一番刺さるわ」

 

麻衣がミキのスマホを覗き込む。

「出すか?それ」

 

ミキは一瞬迷って――うなずいた。

「うん。出す」

 

少しだけ、強い目になる。

 

「今の自分が好きだから。

昔の自分も、ちゃんと好きになりたい」

その言葉が、教室の空気を変えた。

 

このブースは、“変わった証”じゃない。

“変わっていい証”を置く場所になった。

 

教室の壁に、大きなタイトルが貼られる。

「自分たちの軌跡 〜before / after〜」

 

並ぶ写真。

動かなかった頃。

動き始めた後。

違いは、一目で分かる。

 

でも本当に見せたいのは――

“最初の一歩”

 

カナが腕を組む。

「これだけだと、ちょっと弱いな」

エリが頷く。

「動き欲しいっスね」

 

俺は言う。

「時間決めて、実演やろう」

全員が顔を上げる。

「交代でやれば、負担も分散できる」

「いいじゃんそれ」

一気に流れが決まる。

 

ミキがすぐに動く。

「じゃあ、あたしメイク講座やる!

“可愛い”って、色でも変わるから!」

「じゃああたしは姿勢だな」

麻衣が肩を回す。 

「背筋伸ばすだけで、世界変わるぞ」

 

カナが笑う。

「前髪講座やるわ」

 

エリが続く。

「マスク卒業ケア、やりますかね」

それぞれの“変化”が、役割になる。

 

「お前は?」

麻衣が、ふと聞く。

俺は、少しだけ考える。

 

そして――

「客引きやる」

 

みんなが一瞬止まる。

「Ms.unknownで」

空気が、少しだけ揺れる。

でも、もう誰も否定しない。

 

「いいじゃん」

麻衣が笑う。

「あれ、忘れてるやついねぇよ」

俺は、衣装担当の子に連絡を取った。

画面越しに、すぐに笑顔が返ってくる。

「もちろんいいよ」

そして、少しだけ前のめりになる。

 

「ていうかさ、私たちも協賛していい?」

「え?」

「あの衣装、ちゃんともう一回見せたいの」

 

その言葉に、胸が熱くなる。

あの衣装は――

ただの服じゃない。

誰かが“信じてくれた証”だ。

「頼む」

そう答えると、彼女は嬉しそうにうなずいた。

ブースに、衣装班も加わる。

 

バラバラだったものが、ひとつに繋がっていく。

派手じゃない。

 

でも、確実に熱がある。

 

これは、誰かを驚かせるためのステージじゃない。

誰かの“最初の一歩”を後押しするステージだ。

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