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私たちはケンカ友達

タカの影が、完全に消えたあと。

張り詰めていた空気が、ふっと緩んだ。

 

その瞬間――

ミキ、エリ、カナが一斉に駆け寄ってきた。

「姐さん、カッコよかった!」

「マジで痺れたわ!」

「もう一生ついてく!」

 

麻衣は、肩をすくめて笑った。

その笑顔は、今までで一番やわらかかった。

 

怒りも、緊張も、全部終わったあとの顔。

ミキが、急に思いついたように言う。

「ねぇさ、これってもう――喧嘩友達ってやつじゃない?」

 

エリが吹き出す。

「なんだよそのジャンル」

 

カナも笑う。

「でもまぁ、間違ってはないな」

 

ミキは勢いよく続けた。

「ダチ公ってやつ!

じゃあさ、このあと打ち上げしよ、打ち上げ!」

その空気に押されるように、俺は小さく手を挙げた。

 

「……あの、着替えたいんだけど」

「却下!」

即答だった。

ミキがそのまま俺の手を引く。

「はるたくんはそのまま!可愛いし!」

その手は細いのに、逃げられないくらいしっかりしていた。

 

――手を、繋いでいる。

初めてだった。

 

でも、それは恋人じゃなくて。

「ねぇ、1回だけ!“お姉ちゃん”って言って!」

無茶振りが飛んでくる。

「……は?」

「いいから!」

 

ぐいっと引き寄せられる。

俺は、観念して小さく言った。

「……お姉ちゃん」

 

一瞬の沈黙。

次の瞬間――

「きたぁぁぁ!!」

ミキがガッツポーズ。

 

エリとカナが腹を抱えて笑う。

麻衣も、声を殺しきれずに肩を揺らしていた。

その笑いの中で、俺はふと思う。

 

ああ、そうか

この手はもう、孤独を抱えるためのものじゃない。

誰かと並んで歩くための手だ。


 ――――

ミキのお気に入りのカフェ。

窓際の席で、アイスラテの氷が静かに音を立てる。

誰も、俺の格好に触れない。

 

気を遣ってる感じでもなく、ただ“普通”に。

 

……なんだ

一番気にしてたの、俺だったのか。

 

ミキは相変わらずテンションが高い。

「ねぇねぇ、姐さんって昔からあんな感じ?

橋の下で決闘とかしたりしてた?」

「ねぇよ」

即答。

「拳で友情築いたりとか!」

「ねぇって言ってんだろ」

でも、少しだけ笑っている。

その視線が、ふと俺に向く。

 

俺は、お腹を押さえて痛がるフリをしてみせた。

「おい」

睨まれる。

でも、もう怖くない。

すぐに、その目もやわらぐ。

 

ミキがまた暴走する。 

「もしかしてさ!はるたくんと姐さん、バチバチやり合って仲良くなった系!?」

 

「違ぇよ」

 

カナが笑いながら止める。

「舎弟はな、姐さんに惚れ込んでついてきたの」


俺は、軽く頷く。

間違ってはいない。

でも――それだけじゃない。

そのとき。

 

エリが、ふっと真面目な顔になった。

「……あたしさ、もう意地張るのやめようと思う」

静かに続ける。

「好きな格好とか、ずっと恥ずかしかったんだよね。

でもさ、変わってくの見てたら思った」

 

グラスを指でなぞる。

「ちゃんとやれば、まだ自分のこと好きになれるなって」

 

カナも、ゆっくりうなずいた。

「私も。最後の学祭だろ?

興味ないフリしてたけど……ちょっとくらい本気でやってみたい」

 

その言葉が、胸に響く。

――変わったのは、俺だけじゃない。

みんな、それぞれに。

自分のために。

 

ミキが、テーブルに身を乗り出す。

「ねぇ!ミスコンなくなったけどさ、なんかやりたくない?」

 

目が、きらきらしている。

「“伝説の始まり”みたいなやつ!」

俺は、少しだけ照れる。

伝説なんて、大げさだ。

 

でも――確かに、何かは始まった

麻衣が、ストローを外して口を開いた。

「ヤバいブツ、売りに行くか」

 

一瞬、全員が止まる。

「……は?」

「変わりたいってやつに、使い方教えてやる」

エリが目を丸くする。

「それって……スキンケア講座?」

カナが笑う。

「いや、それ普通に需要あるだろ」

ミキが手を叩く。

「いいじゃんそれ!

“ヤバいブツキャラバン”!」

勢いが止まらない。

「ブース出してさ、希望者にレクチャーすんの!」

俺は、麻衣を見る。

麻衣は、少しだけ口角を上げた。

「伝説ってのは、後から誰かが言うもんだ」

 

「でも、“始まり”は自分で作れる」

その言葉が、まっすぐ落ちてくる。

俺は、静かに息を吸った。

胸の奥が、じんわり熱い。

 

――逃げた先じゃない。

――選んだ場所で。

俺たちは、これからを作る側になった

窓の外は、いつもの放課後。

でも、その景色は少しだけ違って見えた。

ここから先は、まだ“unknown”。

でも――

それでいい。

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