復讐の手立て
えらい便利な力やな、『ビートボックス』さながら嘘発見器やないか。
しかし、なんで録音なんてしとるんやこの女。子供が関係しとるのは確かなんやろうが…朝の娘は隠し子でこの女にバレたら面倒なことになるとかか?いや、録音しとると言うことは、この女に直接関わることではないのかもしれん。とにかく、不必要な言質は取らせないことが最適か。
まてよ、この女はもう娘がいることを知っていながらこの質問をしたんか?なら黙ってると余計怪しまれる…
ちっ、めんどくせぇ
靴を脱いで今にもこちら側に歩き出してきそうな彼女の肩を無理やり突っ張り、一歩後ろへよろめいた所にすかさず片足をねじ込む。彼女の体の動きについていけなかった髪の毛がフサっとこちらに寄ってくるのをおしのけ、左手で思い切り彼女の背後にあるドアに手を叩きつけ逃げ場をなくす。そして空いた右手ではすかさずドアの鍵を閉める。
「なんで、わざわざ録音しながらそんなこと聞いてくるんや?」
「アコ…ちゃん?」
彼女は困惑とも焦りとも見れる表情を見せる。だがそんな表情を見せたのはほんのわずか、すぐになんでもないような笑顔を見せる。彼女なりに状況を理解してから対策までのルートを弾き出したようだ。
「いや、その、ドッキリだよ?ドッキリ。動画の企画」
「ふーん、ドッキリね。」
当然信じれるわけがない、それを相手にも伝わるよう最大限わざとらしく相槌をうつ。
試しにもう一度ビートボックスを出現させてみるが、その動きは未だ速いままだった。
「やっぱ嘘やないか」
彼女は目を見開き、苦し紛れに言い返してくる。
「なんでさっきからそう言い切れるの?」
「人間、嘘ついてっと不安や緊張から大抵、鼓動が速くなんねん。」
先ほどドアの鍵を閉めたばかりの右手を今度は彼女の胸に当てる、確かにビートボックスと動きが連動していることを確認する。
そこでようやく彼女は諦めと後悔の表情を見せる。
「録音じゃなくて配信しとくべきだったなー、こんな激おもしろ展開があるんなら」
彼女は両手を上げるジェスチャーをする。その手にはスマホが握られていた。
「他にもあるやろ」
「もうないよ」
鼓動に不自然な動きは見られない。
嘘ついたらすぐに鼓動が不安定になるわ、スマホで録音しとるわ、予備は用意してないわ、ど素人が。
「なんでこんなことしたんや?」
「そりゃあ配信で使うため…」
また、ビートボックスの動きが早まる
「いちいち言わなきゃわからんか?嘘はもうええ」
「嘘じゃないよ!いや、まぁ、解釈次第では。かもだけど?アコちゃんの弱み握ってちょっとお願い聞いてもらおうとしただけ、聞いてもらえなかったら配信で録音流すって言って…」
後ろめたさからか彼女の声は次第に小さくなっていった。
「お願いってなんや?金か?」
「違う違う。一緒に企業勢にならないかって話、アコちゃんこういうの嫌がるから…」
彼女が頭を横に振るのと連動して長い髪が大きくうねる
企業勢?隠語か?何を企んどるんや。
どちらにしろ弱みを握ってまでしなきゃ通らないような願い、ろくなことじゃないことには変わらんか。
「やらん、わしはやらなきゃいけないことがある」
「わし?ほんとにどうしたのアコちゃん?いつものアコちゃんじゃないみたい。」
「わしはその、アコとかいうやつやないからな」
「え?」
「正直もう限界や、そっちが洗いざらい吐いてくれたついでにわしのことも話させてくれ。」
この女と話してわかった、今の体の前の持ち主は昔の自分とは全く別の人生を送ってる。文字通り住む世界が違う。協力者が必要だ。このままではデスゲームどころか普通の生活もままならない。果たして目の前のこいつが協力者なり得るかは怪しいが、いざとなればこいつ程度ならなんとかできる。
リビングまで案内して、席に座らせる。そして、神に会ってから今までの出来事の一部始終を彼女に説明する。神や能力の話題に触れるたび彼女は信じられないというような表情を見せることには見せるが、何よりも今の私の状況が真実であることを裏付けるようですぐに納得してくれる。
「とりあえず初めましてってこと?じゃあ自己紹介。容姿端麗!清廉潔白!花鳥風月!猪鹿蝶!孤高のASMRer.九龍ギルティ!ギルでもギルティでも好きに呼んで。もちろん偽名だけど本名は内緒」
わざわざ席を立ち、少し離れたところでくるりと回ってみせた。癖っ毛ひとつない綺麗にまとまった髪がふわっとラベンダーの香りを漂わせる。
「そうか、わしはモグラ。」
「モグラ…?でも、これからもその子の名前で呼ばせてもらうよ。あなたはチャンネル登録者数37万人『烏羽玉之のアコ二タム』のなかに入ってるんだから。あ、アコちゃんの本名は葉月由美ね」
協力者を作って正解だった。こんな大切な情報を早くから知ることができた。
席に戻ったギルティは少し考えこむと、すぐに何かを思い出したかのようだった
「ねえ、モグラってもしかしてあの土竜組のモグラ?朝ニュースでやってた」
「せや。土竜組はわしが旗揚げから何まで全部やって一から育て上げた、世界で二番目に大切なものや。」
「天下の土竜組とまで呼ばれた組、崩壊の原因は島柄の裏切りだって言われてたけど。そいつに復讐とか考えてる?」
ギルティの目が鋭く光る。
「しないと気が済まん。」
そう返事をした途端、ギルティはスマホを使って何かを調べ出しすぐに画面をこちら側に見せてきた。
スマホの画面には『ろんぐティット』という企業のサイトが映し出されている。
「今一番注目されてるVTuber事務所ろんぐティット、最近できた事務所なんだけどスーパーチャットやグッツの売り上げだけで見ればVTuber界TOP2事務所とも引けを取らないレベル。正直、異常。それでちょ〜っと調べてみたらその島柄ってやつが関わってるみたいなんだよね。」
マネーロンダリング。
そうか、島柄のやつ最近羽振りががやけにいいと思ったら。
こんなことしてたのか。
「私その事務所からスカウトされてて、アコちゃんも一緒に行くって言ってくれたら行くつもりだったんだけど。」
「なるほど、企業勢やったか?要は事務所に入ったVTuberのことをそう呼ぶんやろ?そういうことならわしもなろうかな企業勢。」
「決まりっ!じゃあ次の配信は重大発表ってことで」




