生存の前提条件
目の前の手袋黒スーツは眉間に皺を寄せたままピクリとも動かなくなってしまった。
なにその顔、その顔したいのは僕の方なんだけど
圧倒的な情報量を前にした人ってこうなるんだ。
「えっと、つまり、もぐさん、いや瀬川?は、寝たら夢の中で神にあって、殺し合いさせられそうになって、目覚めたらもぐさんの体で起きた。と?」
おぉ、すごい理解力と要約力。
当人ですら意味わからなすぎて上手く説明できなかったことを、こうも短くまとめるなんて。
一応、ややこしくなりそうだったから能力のことについては話してないけど。それ以外のことは全て言語化してくれた。
「大体、そんな感じ?」
「連れてくる病院を間違えたか。」
その理解力で弾き出される答えがそれか。
「僕のことはもう話したんで。今度はそっちの話を聞かせてください。あなたたちは誰で、何なのか」
「ちょ、ちょっと待ってくれオヤジ、ワシを置いていかないでくれ」
返り血黒スーツが僕と黒手袋の間に両手を突き出しストップをかける。
これに関しては黒手袋の理解力がおかしいだけ、思っていた通りの普通の反応を見れて少し安心した。
黒手袋は、視線を僕からはずし、僕の隣で椅子に座っている男に向かって説明をし出した
「お前でも伝わるように要約するとだな、今のもぐさんは見た目はもぐさんでも中身がもぐさんじゃないってことだ。」
「なるほど?いやぁ、それは何となくわかってるんだ。今のオヤジは雰囲気がドロドロしてる。ただ、ワシが納得できないのはなんで、どうやって、中身が変わったのかなってことだよ。」
そんなこと僕だって知りたい
返り血スーツは不思議そうな表情で僕の顔を覗き込んでくる。
そんな目をされてもわからないものはわからないっての、ちょ、助けて、近い近い
『端正な顔立ち。知性はあまり感じられない。無邪気な少年を思わせる。見ると肌にハリがない。整った顔立ちと雰囲気で若々しい印象があったがおそらく三十代後半ぐらいか。タバコの匂い。汗の匂い。そして微かな血の匂い。酒の匂いはしない。よく嗅ぐとタバコの匂いも口からではなく衣服から漂っている。健康志向。それが若見えの秘訣か。囮車の件がある。あの量の敵を一人で相手してこんなピンピンしてるなんて。身体能力に長けてるのか。戦闘能力も高いだろう』
まただ、この脳が一瞬でスッキリする感覚。これが、僕の『能力』なんだろうな。
確かに、今まで視界にも入っていても特に気にすることなかったような事柄が、テスト直前に行う最後の復習をするとき並の集中力を持って観察できるようになった。地味だなぁ。
「まっ、いいや。要は入れ替わってるだけで、オヤジは無事なんでしょう。それがわかれば十分。十分や」
今にも泣き出しそうな返り血黒スーツの顔を見ると、オヤジさんがどれだけ慕われていたか想像に難くない
「さて、こっちの事情は全部話したよ。今度はそっちの事を教えてくれない?」
僕はまだ、二人の名前すら知らない。
それだけでなく、今日の午前にあったあれはなんだったのか。とにかくわからないことが多すぎる。
「土竜組は知ってるか?」
先に口を開いたのは黒手袋の方だった。
「ううん、聞いたことない。」
「カタギの人間は知らなくて当然か。」
確か、敵から天下の土竜組と呼ばれてたのは覚えてる。裏社会についての知識はゼロに等しい。今でさえ、「カタギ」がなんなのかわからない。おそらく、文脈と語感から推測するにに、マタギの反対の言葉で意味は「鉄砲を打ったことない人」みたいな意味なのだと思う
「もぐさんが旗揚げして一代で構成員数九千人を誇る組となり、この日本で正真正銘、天下を取った伝説の組。それが土竜組だ。そして、瀬川が今乗り移ってるその体が、土竜組の組長、もぐさんだ」
くぅ、九千が多いのか少ないのかわからない…まぁ言い方的に多い部類なんだろうけど。
「じゃあなんでその、天下の土竜組の組長がこんな痛い目に遭ってんの?」
「あの、島柄の野郎がオヤジを裏切りやがったんです。」
「朝、瀬川の命を狙ってた奴らがいるだろ?元々あいつらは土竜組の人間だったんだ。昨日の夜、そいつらが裏切って新たな組『島柄組』を旗揚げして、土竜組を消しにかかった。言うなれば、土竜組の変ってとこだな。最近きな臭いとは思ってたが、こんなことになるとはな」
「で、組長がこの有様と、ヤバくね?」
「ああ、かなり大変な状況だ。土竜組の奴らはほとんど島柄組に吸収された。残ったのは、俺とこいつ含めて五人ぐらい。」
「九千が…一夜で五人に…」
「オヤジ合わせたら六人です」
ただでさえ神様にデスゲーム参加させられてるのに、構成員数約九千人の指定暴力団からも命狙われてるってこと?
おわり。おわりだよ、無理無理無理無理。
今のうちにななりん当てに手紙でも書いとくか
一か八か賭けに出てみるしかないか
「実は、言ってなかったけど例の神様からもう一個言われてたことがあるんだ。」
「どんなことだ?」
先の抗争、大勢の敵を前にして完璧に囮となる返り血スーツにいつでも冷静で、違和感は絶対に見逃さない黒手袋。この二人の強さは十分理解している。そんな味方が二人いて使わない手はない。
「僕の参加したデスゲームには制限時間があって、六ヶ月。六ヶ月間生き延びることができたら、シャッフルされた魂と体は元に戻るらしい。そこでよ、僕を六ヶ月間全力で守ってほしい。そうしたら君たちのボスは帰ってくる」
実際は、神様はそんなこと一言も言ってなかった。だが、このハッタリを通して守られること、それしか生き残る道が見えない。六ヶ月間、全力でこの二人に守ってもらう
六ヶ月もあれば、案を思いつく時間は十分だろう。
「瀬川、どうして今、このタイミングでそんなこと言い出した?相手との勢力差を知ったからか?制限時間だなんて今考えた嘘だろ。」
こいつはほんとに勘が鋭くて嫌になる。素で『観察力が五倍になる能力』が使えてるんじゃないか
いるよねーこういう天才ずっる〜、こういう天才って何考えてんだろ。
(十中九九嘘だろうな。だけど、土竜組再建には、、もし魂が帰ってこないなら)
「なんか言った?」
「何がだ?」
「土竜組の再建がどうとかって。」
「ッ!無意識に口に出してたか。そうだ。俺は今すぐにでも島柄のやつの命を獲って、一刻も早く土竜組を再建したい」
「じゃあ一層、君たちは僕を守るしかないんじゃない。僕こんな見た目でも、中身はか弱い女子高生だもん?すぐ死んじゃうよ?」
黒手袋は、まるで、「抗争で拳銃二丁持ってたやつのどこがか弱いんだよ」とでも言いたげな表情で気だるげに大きなため息をつくと、一瞬、もう話に全く入ってこなくなった返り血スーツに視線をむけアイコンタクトをとると。のちに視線をこちらに戻す。
「わかった。六ヶ月間、俺たちが守ってやる。」
「やったー!ありがとう。」
肩の傷が広がらないよう慎重に両手を大きく上に上げる。黒手袋の表情が一層怪訝なものに変わった、あまりこの見た目ではしゃいでる姿を見たくないのだろう。今までにも、ちょくちょくそんな表情を見せる時があった。
「そういえば、僕、まだ君たちの名前しらないから。教えてよ」
ずっと黒手袋とか返り血スーツで認識
「ワシは乾って言います。あと、瀬川さんのことこれからもオヤジって呼んでいいですか?慣れなくて」
「俺は巽だ。よろしく」




