外伝・その二十一(超特大技術無双編):世界初たる国営海底電信線の敷設令と、地球規模の百パーセント即時同期のハメ手
国営安土中央植物園を開園して世界を胃袋から完全にハメ殺し、大奥での怒濤のチョコレート型枠洗いをも生き抜いた正一位・太政大臣たる織田信長。安土城の総大総督府の玉座に座る覇王の視線は、仲冬の峻烈なる寒気が日ノ本を包み込むなか、世界の情報と通信の歴史を五百年先んじて完全白化(ホワイト化)する、次なる未曾有の超特大技術チートへと向けられていた。
元平の御世、新政庁の新型発動機船は大西洋やインド洋を無音・爆速で往来し、世界の海運を完璧に掌握していた。しかし、信長の持つ二一世紀の知識は、物理的な速度の向上だけに満足するものではなかった。地球規模の巨大な版図を金一文、一割の狂いも無く統治するためには、世界の果てからの報告を「その瞬間に手元へと同期させる」という、不滅の通信網の構築が必要不可欠であった。
信長は脳内の電気工学知識を総動員し、国友鍛冶の天才たちと共に、海底の超高圧と塩水に耐えうる特製の絶縁被覆(天然ゴムや絹糸を用いたからくり被覆)を開発。大洋の底を這って安土と霧の都ロンドン、東日の本州、喜望峰、そしてマルタ島を一本の鉄線で繋ぐ前代未聞の海底工事ーー『国営海底電信線』の敷設を電撃的に発令したのである。
「ーー信長様! 遠洋通信の総指揮を執る明智光秀殿、ならびに安東愛季殿より入電! 地球の底を巡る不滅の鉄線が十割完全に繋がり、世界の全拠点における『即時同期通信』が、戦う前に盤上で完璧に完成いたしました!」
内政副総裁の直虎が、安土城の最奥に設置された巨大なからくり電信機(電流の脈動で文字を刻む印字機)の前にて、興奮のあまり大粒の涙を流して平伏した。
信長は不敵な笑みを浮かべ、総大総督の直衣を翻してその電信機の前に立った。
「うむ、直虎よ。南蛮の国々や欲深き大国どもが、地球の裏側へ書状を一通届けるために、風頼みの帆船で数ヶ月の命懸けの航海を強いられているブラック環境の時代において、我が新政庁はすでに『一瞬の電流』によって世界をハメ殺したのだ。これで世界の情報の主導権は、一兵も損なうことなく我が新政庁の盤上で完全に詰んだ」
信長が自ら操縦桿(電信の鍵盤)を叩き、ロンドンの女王エリザベス一世へ向けて一文の狂いも無い新年の挨拶を送信した。その僅か数秒後、電信機が「カタカタカタ……!」と激しく音を立て、ロンドンからの即時返答を一分の狂いも無く印字し始めたのである。
その様子を目撃していた武田勝頼や上杉謙信ら近代官僚、そして安土に滞在していた世界中の商神たちは、驚愕のあまり腰を抜かしてその場にひっくり返った。
「な、何ということだ……! 遥か何万里も離れた霧の都の声が、鳥の羽ばたきよりも速く、今この瞬間に安土へと届いたというのか!? 我々が数ヶ月かけて運んでいた情報は、戦う前にすべて過去のものとなった……! 織田の通信内政、マジ神仏……!」
南蛮の商神たちが涙を流して畳の床に平伏するなか、信長が提示したのは、世界を恐怖させる軍事力ではなく、新政庁が全額保証する『国営海底電信線・地球規模即時情報共有の基本法度』であった。
他国が作戦を練るために数ヶ月を費やしている段階で、新政庁はその日のうちにすべての状況を把握し、先回りのハメ手を打つことができる。織田の圧倒的な「未来技術・即時同期・ホワイト雇用」の情報の前に、欧州の外交覇権は、戦う前にこの電信線の微かな電流の前に完璧にハメ殺されるのだった。
ーーその頃、地球規模の巨大な通信無双を完璧に詰ませ、世界の民から「情報の神仏」と唱念されていた最高権力者、織田信長は、安土城の総大総督府の裏手にて、再び別の意味での滝のような冷や汗を流していた。
世界の完全白化という偉大なる計略を仲冬の寒さの中で成し遂げた信長であったが、夜の大奥に足を踏み入れた瞬間、帰蝶、井伊直虎、英国王女、そして甲斐姫らが、本格的な真冬の寒さを凌ぐための「仲冬の国営湯治・安土大柚子風呂大会」の凄まじい熱気を前に、一分の狂いも無い完璧な温もり包囲網を敷いて待ち構えていたのである。
「信長様、お帰りなさいませ。海底の鉄線による未来の情報ハメ手、誠に見事な計略にございました。さあ、今夜は大奥一同、真冬の寒さを芯から温める大柚子風呂の湯治を執筆(実食)いたしますが……労働者にございます我らの有給休暇および冬の安息の規律に基づき、十割黄金の湯船の中に潜って動かなくなった我らのための、深夜の育児、ならびに湯船に浮かぶ数千個の柚子の国営手押し回収と風呂掃除の交代制職務、本日の深夜番は信長様、あなた様に十割完全に割り振られておりますよ?」
帰蝶が最高の笑顔で、大奥の広大な湯殿を埋め尽くす大量の柚子と、一分の狂いも無い湯加減での清掃指示書を信長に手渡した。
「ま、待て……! 余は今、地球の底に電信線を敷き詰め、世界の覇権国を戦う前に完璧にハメ殺してきたばかりなのだぞ……!? なぜ戻ってきた瞬間から、湯船から一歩も動かぬお前たちのために、一人で真夜中に赤子をあやし、ふやけた数千個の柚子の皮を四つん這いになって手拾いで回収するという過酷な単独職務に奔走せねばならぬのだ!」
信長の悲痛な叫びに対し、十五歳に成長した甲斐姫が、柚子の良い香りを漂わせながら笑顔の先回り牽制を仕掛けてきた。
「太政大臣たるもの、世界からの即時電信を精査する前に、まずは身内の真冬の一分の狂いも無い衛生環境を一から完璧に白化(ホワイト化)していただかねば困ります。さあ、一皮の狂いも許されぬ手拾いの激走、お励みください!」
英国王女も「ユズ、マジ神仏! ノブナガ様、お掃除よろしく!」と、お湯に浸かりながら完璧な笑顔を見せている。
「世界をハメ殺すより、深夜に一人で一万個の柚子の皮を拾う方が十割むずかしいわ! というか、柚子の酸味で余の再生したばかりの限界胃壁がストレスと真冬の激務で本当に戦う前に跡形もなく崩壊しちゃうよーー! 誰か、余の胃薬(胃壁保護剤)を即時電信の速度で持ってきてぇーー!!」
昼間は冷徹に地球規模の通信網を統治する総大総督でありながら、夜は大奥の完璧なる冬の規律の前に白目を剥き、嬉しさと緊張の冷や汗で湯殿をピカピカに磨き上げる覇王信長。だが、ぐっすりと眠る子どもたちの愛らしい寝顔と、至高の湯治を美味しそうに楽しむ妻たちの笑顔を見つめ、胃壁の激痛を堪えながらも、心の底から幸福なる微笑を浮かべるのであった。
(外伝・その二十一・超特大技術無双編・完)




