外伝・その二十(記念内政編):国営安土中央植物園の開園令と、世界を胃袋からハメ殺す黒甘泥の超至高甘味無双
大西洋の流通覇権を完全に掌握して欧州の王侯貴族を盤上で完璧にハメ殺し、大奥での怒濤の秋季運動会の深夜の線引きをも生き抜いた正一位・太政大臣たる織田信長。安土城の総大総督府の玉座に座る覇王の視線は、初冬の澄み切った冷気が城下を包み込むなか、世界の食文化の歴史を五百年先んじて完全白化(ホワイト化)する、未曾未の巨大なる内政チートへと向けられていた。
元平の御世、織田東インド商会や黒船蒸気艦隊の活躍により、新大陸『東日の本州』や南洋の島々からは、世界中の未知なる植物の苗木や種子が、一分の狂いも無い精度で安定して安土へと集められていた。信長はこれらの植物を計画的に栽培・研究し、日ノ本の農業技術を飛躍的に高めるため、安土の広大な敷地に前代未聞の国営施設ーー『国営安土中央植物園』を設立したのである。
「ーー信長様! 畏れながら、新大陸の奥地から持ち帰った『甘美なる黒き豆』、ならびに『砂糖楓』の計画栽培に十割完全に成功。これらを用い、二一世紀の工学・食品知識を同期させた不滅の甘味、ここに完成いたしました!」
植物園の初代総裁に就任した近代官僚(前田利家ら)が、純白の割烹着を身にまとい、興奮のあまり大粒の涙を流して玉座の前に平伏した。
信長は不敵な笑みを浮かべ、総大総督の直衣を翻して植物園の巨大なからくり硝子温室へと降り立った。
そこには、南蛮の国々が過酷な児童労働や奴隷搾取(ブラック労働)によってようやく手に入れている高価な果実が、新政庁の「完全週休二日制」と「温度・湿度自動同期管理」のもとで、豊かに瑞々しく実っていた。そして、その中央の調理場には、二一世紀の製法を具現化させた日ノ本初、否、全人類初の至高の甘き黒泥ーー『国営黒甘泥』が、馨しい香りを放って黄金の器に湛えられていた。
「うむ、利家よ。一分の狂いも無い見事な職人技であるな。南蛮の欲深き王侯貴族どもが、苦くて粗悪な薬として魔水を飲んでいる数百年先の未来において、我が新政庁はすでに『口の中でとろける至高の甘美』を戦う前に盤上で完璧にハメ殺した(完成させた)のだ。これがあれば、過労死防止令のもとで働く我が国の官僚や民たちに、夕刻五時の定時退勤後の最高の癒やしを全額国営支給(笑顔の同期)できる」
信長が自らその黒甘泥を一口食し、一文の狂いも無い黄金比率の甘味に満足の笑みを浮かべた瞬間、植物園の開園を祝うために集まっていた武田勝頼や上杉謙信ら近代官僚、そして世界中の商神たちが、その一切れを口に含んだ瞬間、驚愕のあまり脳内の幸福物質が大爆発し、泡を吹いてその場にひっくり返った。
「な、何ということだ……! 苦みと甘みが一分の狂いも無く調和し、口に入れた瞬間に雪のように溶けていく!? 我々が欧州で扱っているいかなる高級菓子も、これに比べれば戦う前に児戯に等しい! この黒甘泥があれば、世界の人間は戦うことすら忘れ、織田の胃袋の包囲網に平伏するしかない……! 織田の甘味内政、マジ神仏……!」
南蛮の商神たちが涙を流して温室の床に平伏するなか、信長が提示したのは、世界を脅かす武力ではなく、織田東インド商会が全額保証する『国営黒甘泥・世界不滅独占流通契約書』であった。南蛮の欲深き国々は、戦う前にこの圧倒的な豊かさと甘美の刃の前に完璧にハメ殺され、日ノ本主動の世界経済圏へと笑顔で同期(就職)していくのだった。
ーーその頃、地球規模の巨大な胃袋無双を完璧に詰ませ、世界の民から「甘味の神仏」と唱念されていた最高権力者、織田信長は、安土城の総大総督府の裏手にて、再び別の意味での滝のような冷や汗を流していた。
世界の完全白化という偉大なる計略を新春(初冬)早々から成し遂げた信長であったが、夜の大奥に足を踏み入れた瞬間、帰蝶、直虎、英国王女、そして甲斐姫らが、植物園の開園を祝うための「初冬の国営甘味大収穫祭」の大量の調理器具を前に、一分の狂いも無い完璧な温もり包囲網を敷いて待ち構えていたのである。
「信長様、お帰りなさいませ。国営黒甘泥による未来の胃袋ハメ手、誠に見事な計略にございました。さあ、今夜は大奥一同、できたての甘味を堪能する収穫祭を執筆(実食)いたしますが……労働者にございます我らの有給休暇および初冬の安息の規律に基づき、十割炬燵の中に潜って動かなくなった我らのための、大量の黒甘泥の型枠(からくり型)の一分の狂いも無い手洗い清掃、ならびに深夜の全調理器具の片付けの交代制職務、本日の深夜番は信長様、あなた様に十割完全に割り振られておりますよ?」
帰蝶が最高の笑顔で、黒甘泥が固まってこびりついた特大の鉄型と、一分の狂いも無い湯加減での手洗い指示書を信長に手渡した。
「ま、待て……! 余は今、世界中の人間を胃袋から完璧にハメ殺し、南蛮の富を戦う前に完璧にハメ殺してきたばかりなのだぞ……!? なぜ戻ってきた瞬間から、炬燵から一歩も動かぬお前たちのために、一人で真夜中に赤子をあやし、冷え固まったチョコレートの油汚れをタワシでガシガシと洗うという過酷な単独職務に奔走せねばならぬのだ!」
信長の悲痛な叫びに対し、十五歳に成長した甲斐姫が、黒甘泥を口の周りに付けながら笑顔の先回り牽制を仕掛けてきた。
「太政大臣たるもの、植物園の交易利潤を精査する前に、まずは身内の初冬の一分の狂いも無い調理環境を一から完璧に白化(ホワイト化)していただかねば困ります。さあ、一分の型崩れも許されぬ手洗いの激走、お励みください!」
英国王女も「チョコ、マジ神仏! ノブナガ様、片付けよろしく!」と、炬燵の中で丸くなりながら完璧な笑顔を見せている。
「世界をハメ殺すより、深夜に一人でチョコレートの型枠を洗う方が十割むずかしいわ! というか、このカカオの甘い匂いで余の再生したばかりの限界胃壁がストレスと初冬の激務で本当に戦う前に跡形もなく崩壊しちゃうよーー! 誰か、余の胃薬(胃壁保護剤)を植物園の特産品と一緒に持ってきてぇーー!!」
昼間は冷徹に地球規模の植物資源を統治する総大総督でありながら、夜は大奥の完璧なる初冬の規律の前に白目を剥き、嬉しさと緊張の冷や汗で調理器具をピカピカに磨き上げる覇王信長。だが、ぐっすりと眠る子どもたちの愛らしい寝顔と、至高の甘味を美味しそうに楽しむ妻たちの笑顔を見つめ、胃壁の激痛を堪えながらも、心の底から幸福なる微笑を浮かべるのであった。
(外伝・その二十・記念内政編・完)




