外伝・その十九(大西洋覇権編):霧の都を震撼させる国営重油動力船の錨入れと、英国王女の里帰りがもたらす欧州ハメ殺しの経済大計略
石炭の煙すら吐き出さぬ漆黒の次世代重油動力船『国営発動機付き鉄甲船』を開発し、世界の海の常識を五百年先んじて完璧にハメ殺した正一位・太政大臣たる織田信長。安土城の総大総督府の玉座に座る覇王の視線は、秋の澄み渡る青空が広がるなか、大西洋の流通覇権をガチガチに盤上で詰ませる、地政学・経済無双の総仕上げへと向けられていた。
元平の御世、織田東インド商会はすでに、聖地エルサレムの世界管理権、喜望峰、天竺の紅茶同盟、豪州、マルタ島、そして聖ヘレナ島にいたる世界の重要拠点を十割完全に掌握(同期)していた。大西洋を行き交う南蛮の不当な奴隷貿易網は、織田の圧倒的な「高品質・適正価格・ホワイト雇用」の不滅の海運網の前に、戦う前に根底から完全消滅させられていたのである。
信長はこの絶対的な優位を欧州の王侯貴族たちに直接見せつけるため、かつて同盟の証として安土の大奥へと輿入れしていた、金髪碧眼の英国王女の霧の都ロンドンへの一時「国営里帰り」を電撃的に発令した。
「ーー信長様。明智光秀殿の率いる新型発動機船が、英国王女殿下を奉じてテムズ川を遡上し、霧の都ロンドンへと入港(錨入れ)を完了。南蛮の国々、ならびにイングランド女王エリザベス一世閣下は、煙も吐かずに大洋を爆速で激走してきた日ノ本の鉄甲船を目撃し、戦う前に驚愕のあまり泡を吹いて平伏しているとのことです」
内政副総裁の直虎が、欧州全域に走る経済の激震を、一分の狂いも無い交易記録と共に玉座の前で報告した。
信長は不敵な笑みを浮かべ、地図の最果てにある霧の都をぽちりと叩いた。
「うむ。南蛮の覇権国どもが、風頼みの帆船で世界を掠奪している数百年先を行く我が新政庁の真髄を、今こそ欧州の喉元へ叩き込む。王女の里帰りという最高の大義名分(黄金の盾)を前に、彼らは戦う前に経済的・技術的に完全に盤上で詰まされるのだ」
ロンドンの港にて、重油動力の重低音を響かせる漆黒の鉄甲船から、最高級の織田絹織物を身にまとった英国王女が美しく降り立った。出迎えた女王エリザベス一世は、娘の見違えるほどの気品と健康美、そして日ノ本から運ばれてきた「一文の狂いも無い最高品質の天竺紅茶」や「南洋の巨大真珠」の富の前に、驚愕のあまり地べたに平伏した。
「な、何ということだ……! 帆も煙突も無い鉄の巨獣が、大西洋を無音で突っ切って来たというのか……! しかも、娘がこれほど健やかに美しく暮らしているとは、日ノ本の『育児交代制職務(交代制シフト)』や『過労死防止令』の規律は一体どれほど白い(ホワイトな)理想郷なのだ……! 織田のシステム、マジ神仏……!」
エリザベス一世が涙を流して織田の使節団(明智光秀ら)に平伏するなか、光秀が提示したのは、欧州を侵略するための大砲ではなく、織田東インド商会が全額保証する『不滅の経済同盟・大西洋流通割当書』であった。
南蛮の欲深き王侯貴族たちは、戦う前にこの圧倒的な未来技術と豊かさの刃の前に完璧にハメ殺され、日ノ本主導の世界経済圏へと笑顔で同期(就職)していくのだった。
ーーその頃、大西洋の最果てまで完璧に盤上で詰ませ、欧州の女王から「経済の神仏」と唱念されていた最高権力者、織田信長は、安土城の総大総督府の裏手にて、再び別の意味での滝のような冷や汗を流していた。
欧州の完全白化という偉大なる計略を新天地で成し遂げた信長であったが、夜の大奥に足を踏み入れた瞬間、帰蝶、直虎、甲斐姫らが、秋晴れの安土城で開催される「秋の国営大運動会」の巨大な用具を前に、一分の狂いも無い完璧な温もり包囲網を敷いて待ち構えていたのである。
「信長様、お帰りなさいませ。英国王女殿下の里帰りによる欧州ハメ殺し計略、誠に見事なハメ手にございました。さあ、今夜は大奥一同、日頃の運動不足を解消する『国営大運動会』の準備を執筆(設置)いたしますが……労働者にございます我らの有給休暇および秋の安息の規律に基づき、十割暗闇の運動場から動かなくなった我らのための、広大な敷地への白粉での『線引き職務』、ならびに明日の一分の狂いも無い『全競技の安全管理・審判職務』と、深夜の全用具の片付けの交代制職務、本日の深夜番は信長様、あなた様に十割完全に割り振られておりますよ?」
帰蝶が最高の笑顔で、大量の石灰袋と、一分の狂いも無い競技進行の指示書を信長に手渡した。
「ま、待て……! 余は今、大西洋の流通を先回り登記し、未来の奴隷貿易を戦う前に完璧にハメ殺してきたばかりなのだぞ……!? なぜ戻ってきた瞬間から、炬燵の部屋(※秋は長椅子敷き)から一歩も動かぬお前たちのために、一人で真夜中に赤子をあやし、広大な運動場に四つん這いになって何町もの白線を引くという過酷な単独職務に奔走せねばならぬのだ!」
信長の悲痛な叫びに対し、十五歳に成長した甲斐姫が、運動会の俵を転がしながら笑顔の先回り牽制を仕掛けてきた。
「太政大臣たるもの、欧州の紅茶利潤を精査する前に、まずは身内の秋の一分の狂いも無い運動環境を一から完璧に白化(ホワイト化)していただかねば困ります。さあ、一線の狂いも許されぬ線引きの激走、お励みください!」
「世界をハメ殺すより、深夜の大奥運動会の線を一人で引く方が十割むずかしいわ! というか、明日の騎馬戦の審判など、余の再生したばかりの限界胃壁がストレスと秋の激務で本当に戦う前に跡形もなく崩壊しちゃうよーー! 誰か、余の胃薬(胃壁保護剤)を新型発動機船の速度で霧の都から持ってきてぇーー!!」
昼間は冷徹に大西洋の覇権を統治する総大総督でありながら、夜は大奥の完璧なる秋の規律の前に白目を剥き、嬉しさと緊張の冷や汗で運動場をピカピカに整備する覇王信長。だが、ぐっすりと眠る双子の愛らしい寝顔と、明日の運動会を嬉しそうに楽しみにする妻たちの笑顔を見つめ、胃壁の激痛を堪えながらも、心の底から幸福なる微笑を浮かべるのであった。
(外伝・その十九・大西洋覇権編・完)




