外伝・その十八(未来技術編):大洋を無音で激走する国営発動機船の進水令と、南蛮の帆船を過去にする超高速物流のハメ手
マルタ島を起点とする国営天道救護総局の慈悲によって地中海を不滅の平和圏とし、大奥での怒濤の西瓜の種拾いをも生き抜いた正一位・太政大臣たる織田信長。安土城の総大総督府の玉座に座る覇王の視線は、晩夏の心地よき風が城下を吹き抜けるなか、世界の海上物流の常識を五百年先んじて完全白化(ホワイト化)する、次なる未曾有の未来技術チートへと向けられていた。
元平の御世、新大陸『東日の本州』から一分の狂いも無い精度で安定輸送される「黒色の黄金」……すなわち魔水(石油)の精製技術は、国友鍛冶の天才たち(滝川一益ら)の手によって、さらなるからくり技術の超進化を達成していた。安土の街を激走させた「国営からくり鉄馬車(自動車)」の発動機技術を巨大な船体へと同期させ、石炭の煙と巨大な湯気(蒸気機関)すら過去のものとする次世代の巨大動力船ーー『国営発動機付き鉄甲船(重油動力船)』の試作機が、ついに完成を迎えたのである。
「ーー信長様! 畏れながら、南蛮のあらゆる黒船や帆船を戦う前に技術的に完全消滅させる不滅の駿馬、ここに十割完全に完成いたしました!」
技術監督官の滝川一益が、油塗れの面頬を外しながら、興奮のあまり大粒の涙を流して安土の軍港の桟橋にて平伏した。
信長は不敵な笑みを浮かべ、総大総督の直衣を翻して巨大なドック(船溜まり)の最前線へと立った。そこには、石炭を燃やすための巨大な煙突を一切持たず、鉄甲で固められた流線型の巨大な船体が、静かに、しかし圧倒的な威容を誇って波間に浮かんでいた。これこそが、二一世紀の工学知識を具現化させた日ノ本初、否、全人類初の次世代動力船であった。
「うむ、一益よ。一分の狂いも無い見事な職人技であるな。南蛮の欲深き国々が、風の気まぐれに頼る帆船を操り、我が新政庁の第一世代たる蒸気船の煙に恐れおののいている数百年の先を行くハメ手がこれだ。これがあれば、世界の海から『過酷な石炭くべ(ブラック労働)』を十割完全に排除し、船員たちが笑顔で世界を往来できる完全白化の流通網が完成する」
信長が操舵室に乗り込み、国営発動機の一分の狂いも無い始動大栓を開いた瞬間、
「ーーーーン」
という、地響きのような重低音が海原に響き渡った。煙突から黒煙を噴き上げることなく、無音に等しい静けさのまま、巨大な鉄甲船が驚異的な速度で安土の湾外へと滑り出したのである。
その速度、南蛮の最新鋭の風帆船の『数倍以上』。風向きを十割完全に無視し、大西洋やインド洋を不滅の直線軌道で突っ切る超高速物流のハメ手であった。
安土の港に滞在し、夕刻五時の「定時退勤」の鐘と共に居酒屋へと同期(退勤)しかけていた武田勝頼や上杉謙信ら近代官僚、そして世界中の商神たちが、湾内を音も無く恐るべき爆速で駆け抜ける漆黒の怪物(発動機船)を目撃し、驚愕のあまり泡を吹いてその場にひっくり返った。
「な、何ということだ……! 煙すら吐き出さぬ鉄の巨獣が、風を裂いて大洋を激走している!? あの船があれば、日ノ本と南米や欧州を結ぶ国営物資の輸送速度が、一分の狂いも無く加速するというのか……! 織田の技術力、マジ神仏……!」
南蛮の商神たちが涙を流して砂浜に平伏するなか、信長が提示したのは、世界を侵略するための軍事力ではなく、織田東インド商会が全額保証する『国営発動機船・世界不滅流通網の基本法度』であった。織田の圧倒的な「未来技術・無音超高速・ホワイト雇用」の物流の前に、欧州の海運覇権は、戦う前にこの発動機の静かなる胎動の前に完璧にハメ殺されるのだった。
ーーその頃、地球規模の巨大な技術無双を完璧に詰ませ、世界の民から「海運の神仏」と唱念されていた最高権力者、織田信長は、安土城の総大総督府の裏手にて、再び別の意味での滝のような冷や汗を流していた。
大洋の完全白化という偉大なる計略を新天地で成し遂げた信長であったが、夜の大奥に足を踏み入れた瞬間、帰蝶、直虎、英国王女、甲斐姫らが、行く夏を惜しむための「晩夏の国営花火大会」の大量の火薬筒を前に、一分の狂いも無い完璧な温もり包囲網を敷いて待ち構えていたのである。
「信長様、お帰りなさいませ。煙なき鉄甲船による未来の物流ハメ手、誠に見事な計略にございました。さあ、今夜は大奥一同、行く夏を美しく彩る国営花火大会を執筆(開催)いたしますが……労働者にございます我らの有給休暇および晩夏の安息の規律に基づき、十割暗闇の特等席から動かなくなった我らのための、大量の花火の一分の狂いも無い『導火線への着火・安全管理』、ならびに深夜の燃えカスの手拾いと水桶の片付けの交代制職務、本日の深夜番は信長様、あなた様に十割完全に割り振られておりますよ?」
帰蝶が最高の笑顔で、大奥の庭に並べられた大量の国営特製花火と、一分の狂いも無い着火順序の指示書を信長に手渡した。
「ま、待て……! 余は今、石炭の時代を終わらせる次世代の発動機船を開発し、世界の海運を戦う前に完璧にハメ殺してきたばかりなのだぞ……!? なぜ戻ってきた瞬間から、暗闇から一歩も動かぬお前たちのために、一人で真夜中に赤子をあやし、火の粉に怯えながら花火のゴミを拾ってバケツの水に浸けるという過酷な単独職務に奔走せねばならぬのだ!」
信長の悲痛な叫びに対し、十五歳に成長した甲斐姫が、手持ち花火をパチパチと輝かせながら笑顔の先回り牽制を仕掛けてきた。
「太政大臣たるもの、国営発動機船の利潤を精査する前に、まずは身内の晩夏の一分の狂いも無い安全環境を一から完璧に白化(ホワイト化)していただかねば困ります。さあ、一瞬の火の用心も見落とせぬ見張りの激走、お励みください!」
英国王女も「ハナビ、マジ神仏! ノブナガ様、着火よろしく!」と、完璧な笑顔で夜空を見上げている。
「世界をハメ殺すより、深夜に大奥の暗闇で花火のゴミを一人で拾う方が十割むずかしいわ! というか、火薬の煙で余の再生したばかりの限界胃壁がストレスと晩夏の激務で本当に戦う前に跡形もなく崩壊しちゃうよーー! 誰か、余の胃薬(胃壁保護剤)を新型鉄甲船の速度で持ってきてぇーー!!」
昼間は冷徹に地球規模の次世代海運を統治する総大総督でありながら、夜は大奥の完璧なる晩夏の規律の前に白目を剥き、嬉しさと緊張の冷や汗で燃えカスをピカピカに回収する覇王信長。だが、ぐっすりと眠る双子の愛らしい寝顔と、夜空に咲く大輪の国営花火を嬉しそうに見上げる妻たちの笑顔を見つめ、胃壁の激痛を堪えながらも、心の底から幸福なる微笑を浮かべるのであった。
(外伝・その十八・未来技術編・完)




