外伝・その十五(北海編):極東の不凍港の先回り登記と、北方諸民族を救う国営不滅交易圏のハメ手
新大陸の魔水(石油)による「国営からくり鉄馬車(自動車)」を安土の街に激走させ、大奥での怒濤の数千枚の衣替えをも生き抜いた正一位・太政大臣たる織田信長。安土城の総大総督府の玉座に座る覇王の視線は、初夏の瑞々しい新緑が城下を彩るなか、北方の広大なる海域の主権を五百年先んじて完全白化(ホワイト化)する、次なる未曾有の地政学チートへと向けられていた。
元平の御世、新政庁の黒船蒸気艦隊は、蝦夷地(北海道)のさらに北方に位置する極東の沿海地帯へと進出していた。そこは、のちに異国において『ウラジオストク』、そして『東方を支配する街』と呼ばれることになる、冬でも絶対に海が凍らない不凍の天然の良港であった。
「ーー信長様。北海百年開拓を率いる安東愛季殿より、一分の狂いも無い確実なる電信が入電。大陸の東端に位置する峻険なる不凍の要衝を発見し、我が新政庁の主権を示す『国営極東不凍港聖域』としての先回り登記(ハメ殺し)を、戦う前に十割完全に完了したとのことです」
内政副総裁の直虎が、冬でも凍らない極東の緻密な海図を玉座の前に広げた。
信長は不敵な笑みを浮かべ、二一世紀の歴史と地理の記憶を宿した指先で、海図の極東の港をぽちりと叩いた。
「うむ。数百年後、北方の広大な大地に強権的な巨大国家が誕生し、不凍港を求めて不当な南下政策(ブラック覇権)を開始し、日ノ本の防衛を脅かす悲惨な未来の歴史を、余は今ここで根底から完璧にハメ殺した。この極東の港は、本日ただいまを以て、新政庁が永久に直轄管理する『不滅の国営交易基地』となったのだ」
しかし、信長の知識は、未来の要衝を先回り確保するだけに留まらない。21世紀の福祉と人道共生の知識を保有する覇王の真髄は、その極寒の周辺地域に古くから暮らす、アイヌの民をはじめとする北方の諸民族の救済にあった。
数日後、冬には流氷が押し寄せる極東の赤茶けた海岸線にて、織田の使節団と、独自の文化と自然と共に生きる北方の諸民族の長たちが対峙していた。
将来的に異国の過酷な境界線の押し付けや、不当な軍事侵略(ブラック環境)を予期して警戒を強めていた長たちに対し、北海開拓総裁たる安東愛季が提示したのは、戦の武器ではなく、金一文の狂いも無い純金貨の詰まった袋と、新政庁が全額保証する『国営北海不滅交易圏・最高待遇固定扶持の予算書』であった。
「北海の誇り高き長、そして民たちよ! 我らが主、織田信長様はそなたたちの土地を奪うことも、ましてや過酷な支配を課すことも十割絶対にせぬ! そなたたちが何百年も守り続けてきた美しい大自然、独自の言葉、文化を尊重し、永久に保護することを約束する。その証として、この不凍港を中心とする国営交易網にて、そなたたち全員を最高待遇の案内人および交易官として強制雇用(同期)する!」
愛季の熱き通訳が響き渡った瞬間、北方の長たちは驚愕のあまり互いの顔を見合わせた。
さらに織田の使節団は、二一世紀の防寒技術に基づいた「無理のない健全な国営中継基地の運営法」や、一割の狂いも無い定額給与の支給書を次々と手渡していく。
「な、何ということだ……。戦う前に、私たちの生活と誇りをすべて全額保証するというのか……。しかも、夕刻五時の鐘が鳴れば、すべての職務を終えて家族の元へ帰ってよい(定時退勤)とは、一体どれほど白い(ホワイトな)規律なのだ……!」
将来的に異国の過激な覇権主義によって命と文化を削られるはずだった北方の民たちは、織田の人道ハメ手の前に、大粒の涙を流して平伏した。
「織田のシステム、マジ神仏……! 我らは生涯を懸けて、信長様のためにこの美しい北海の海と不凍の港を守り抜くことを誓おう!」
現地の民が一人も血を流すことなく、笑顔で織田の世界線へと完全に同期(就職)していく。これにより、将来的に北方の巨大国がどれほど強大化しようとも、戦う前に大義名分と現地民の絶対的信頼(黄金の盾)によって完璧に封殺される、北海の不滅の防衛網が完成したのである。
ーーその頃、地球規模の巨大な盤上を完璧に詰ませ、北方の民から「地政学の神仏」と唱念されていた最高権力者、織田信長は、安土城の総大総督府の裏手にて、再び別の意味での滝のような冷や汗を流していた。
極東不凍港の完全白化という偉大なる計略を成し遂げた信長であったが、夜の大奥に足を踏入れた瞬間、帰蝶、直虎、英国王女、甲斐姫らが、本格的な夏の到来に伴う「初夏の国営蚊帳開き」の巨大な麻布を前に、一分の狂いも無い完璧な温もり包囲網を敷いて待ち構えていたのである。
「信長様、お帰りなさいませ。極東の不凍港を先回り登記し、未来の南下政策を戦う前に完璧にハメ殺した計略、誠に見事なハメ手にございました。さあ、今夜は大奥一同、夜な夜な襲来する羽虫(蚊)の恐怖から解放される緑の聖域、巨大なる『国営麻特製蚊帳』を吊るお仕事を執筆(設置)いたしますが……労働者にございます我らの有給休暇および夏の安息の規律に基づき、十割蚊帳の中に潜って動かなくなった我らのための深夜の育児、ならびに大奥の蚊遣り火(蚊取り線香)の一分の狂いも無い温度管理の交代制職務、本日の深夜番は信長様、あなた様に十割完全に割り振られておりますよ?」
帰蝶が最高の笑顔で、大奥の広間を埋め尽くす巨大な緑の麻布と、一分の狂いも無い蚊遣り火の配置指示書を信長に手渡した。
「ま、待て……! 余は今、北方の不凍港を先回り登記し、未来の巨大国家の侵略を戦う前に完璧にハメ殺してきたばかりなのだぞ……!? なぜ戻ってきた瞬間から、蚊帳から一歩も動かぬお前たちのために、一人で真夜中に赤子をあやし、蚊遣り火の番をするという過酷な単独職務に奔走せねばならぬのだ!」
信長の悲痛な叫びに対し、十五歳に成長した甲斐姫が、蚊帳の中から首だけを出して笑顔の先回り牽制を仕掛けてきた。
「太政大臣たるもの、北海の交易利潤を精査する前に、まずは身内の初夏の一分の狂いも無い就寝環境を一から完璧に白化(ホワイト化)していただかねば困ります。さあ、一羽の羽虫も通さぬ見張りの激走、お励みください!」
「世界をハメ殺すより、蚊帳から妻たちを引きずり出す方が十割むずかしいわ! というか、この麻の温もり包囲網の前に、余の再生したばかりの限界胃壁がストレスと初夏の激務で本当に戦う前に跡形もなく崩壊しちゃうよーー! 誰か、余の胃薬(胃壁保護剤)を北海の特産品と一緒に持ってきてぇーー!!」
昼間は冷徹に地球規模の要衝を統治する総大総督でありながら、夜は大奥の完璧なる初夏の規律の前に白目を剥き、嬉しさと緊張の冷や汗で蚊遣り火をピカピカに調整する覇王信長。だが、ぐっすりと眠る双子の愛らしい寝顔と、蚊帳の中で涼しそうに楽しむ妻たちの笑顔を見つめ、胃壁の激痛を堪えながらも、心の底から幸福なる微笑を浮かべるのであった。
(外伝・その十五・北海編・完)




