外伝・その十二(地中海編):絶海の要塞マルタ島の先回り登記と、救護騎士団を笑顔にする最先端医療のハメ手
新春の安土大博覧会において、日ノ本の極上絹織物(高級シルク)を用い、欧州の富を戦う前に盤上で完全にハメ殺した正一位・太政大臣たる織田信長。安土城の総大総督府の玉座に座る覇王の視線は、春の訪れと共に、ヨーロッパの喉元たる『地中海』の覇権を揺るがす、次なる未曾有の地政学チートへと向けられていた。
元平の御世、明智光秀の率いる織田の黒船蒸気艦隊は、ジブラルタル海峡を平然と通過し、地中海のほぼ中央に浮かぶ峻険なる絶海の岩塩島ーーのちに『マルタ島』と呼ばれる要塞の島へと電撃進出していた。そこは、地中海のすべての流通と軍事覇権を握る、文字通りの超・重要拠点であった。
「ーー信長様。光秀殿より一文の狂いも無い電信が入電。地中海の真珠たるマルタ島へ無事上陸。オスマン帝国や南蛮の国々がこの島の奪い合いで不毛な血を流す前に、我が新政庁の『国営地中海平和中立管理区域』としての先回り登記(ハメ殺し)を、戦う前に十割完全に完了したとのことです」
内政副総裁の直虎が、精緻を極めた地中海の海図を玉座の前に広げた。
信長は不敵な笑みを浮かべ、二一世紀の歴史知識を宿した指先で、海図の中央の小さな島をぽちりと叩いた。
「うむ。この島は現在、異国において最強と謳われる『聖ヨハネ救護騎士団』が拠点を置き、日夜戦に明け暮れている。だが、彼らが本来持っている『病人を救う』という気高き至誠の前に、余の持つ医療福祉知識を同期させれば、彼らは戦う前に笑顔で我が新政庁へと就職・同期することになるのだ」
信長の計略は、単なる武力による制圧ではない。21世紀の最先端医療と衛生管理の知識を用いた、至高の人道ハメ手であった。
数日後、マルタ島の巨大な石造りの要塞にて、織田の使節団と、全身を鋼鉄の甲冑で包んだ救護騎士団の総長たちが対峙していた。
異国からの新たな侵略を予期して剣を構えていた騎士たちに対し、明智光秀が提示したのは、戦の鉄砲ではなく、金一文の狂いも無い純金貨の詰まった袋と、信長の直筆による『国営天道救護総局・最高待遇固定扶持の予算書』、そして二一世紀の医療目録であった。
「地中海の誇り高き救護騎士たちよ! 我らが主、織田信長様はそなたたちの武勇ではなく、病を治し人々を救うその尊き志に平伏しておられる! 本日より、この島を新政庁が全額出資する医療の聖域とし、そなたたち全員を『国営救護官』として手厚い固定給で強制雇用する!」
光秀の言葉に騎士たちが困惑するなか、随行していた新政庁の医師たちが、信長から授かった二一世紀の医療チートを披露した。
当時、異国では傷口の膿や感染症(ブラック環境)により、多くの兵たちが治療も虚しく過労死(戦死)していた。しかし、織田の医師たちが提示したのは、熱湯や「純度の高い酒精」を用いた『徹底的な傷口の消毒法』、さらには痛みを十割完全消滅させる『麻酔の薬草調合』、そして『手洗いの徹底による衛生管理の法度』であった。
これまで原因も分からず落命していく病人を前に苦悩していた騎士たちは、目の前でまたたく間に傷口が癒えていく最先端医療の奇跡(ハメ手)を目の当たりにし、驚愕のあまり剣を落として涙を流した。
「な、何ということだ……。戦う前に、私たちが何百年も追い求めていた『命を救う真の智慧』を、すべて全額保証するというのか……! しかも、完全週休二日制のもとで、手厚い定額給与を得ながら病人を救えるとは、一体どれほど白い(ホワイトな)規律なのだ……!」
過酷な宗教戦争の泥沼で疲弊していた騎士たちは、織田の人道ハメ手の前に、全員が笑顔で平伏した。
「織田のシステム、マジ神仏……! 我らは生涯を懸けて、信長様のためにこの地中海の平和と至高の医療施設を守り抜くことを誓おう!」
地中海最強の騎士団が、一人の犠牲者も出すことなく、織田の世界線へと完全に同期(就職)していく。これにより、将来的に南蛮の欲深き国々が地中海の覇権を握ろうとしても、戦う前にこの「国営天道救護総局」の大義名分と圧倒的な医療権益の前に、完璧に盤上でハメ殺される防衛網が完成したのである。
ーーその頃、地中海の最果てまで完璧に経済的・医療的にハメ殺し、異国の騎士たちから「マジ神仏」と唱念されていた最高権力者、織田信長は、安土城の総大総督府の裏手にて、再び別の意味での滝のような冷や汗を流していた。
地中海の完全白化という偉大なる計略を成し遂げた信長であったが、夜の大奥に足を踏み入れた瞬間、帰蝶、直虎、英国王女、そして成田家から赴任してきた甲斐姫らが、新春のお正月太りを解消するための「春の国営健康診断」の結果通知書を前に、一分の狂いも無い完璧な温もり包囲網を敷いて待ち構えていたのである。
「信長様、お帰りなさいませ。マルタ島を先回り登記し、救護騎士団を最高待遇で強制雇用した計略、誠に見事なハメ手にございました。さあ、今夜は大奥一同、一年の健康を管理する健康診断の数値を精査いたしますが……」
帰蝶が最高の笑顔で、一通の通知書を信長に突きつけた。そこには、大奥の女傑たちが「適正体重・健康度百パーセント」の完全白化数値を叩き出している一方で、最高責任者たる信長の欄にだけは、不穏な赤文字が並んでいた。
内政の鬼である直虎が、眼鏡(からくり眼鏡)の位置を直しながら冷徹に告げた。
「信長様。大奥の深夜の離乳食調合、ならびにおしめ交換の交代制職務による極度の寝不足と、地球規模のハメ手を考えすぎるストレスがたたり、あなた様の『胃壁の健康度』が十割完全に深刻な危機(ブラック状態)であると、一分の狂いも無い医師の診断が下りました。つきましては、新政庁の健康維持規律に基づき、本日から五日間、大奥の全権を我らに預け、あなた様は給与保証の『強制休養(絶対安静)』に入っていただきます」
「な、何だと……!? 休養だと!? それは一見、優良なるホワイト環境に見えるが、余が休んでいる間、大奥の深夜の育児交代制職務の予定表はどうなるのだ!」
信長の悲痛な叫びに対し、十五歳に成長した甲斐姫が、笑顔で先回り牽制を仕掛けてきた。
「太政大臣たるもの、地中海の利潤を精査する前に、まずはご自身の限界胃壁を一から完璧に白化(ホワイト化)していただかねば困ります。さあ、今夜の深夜番は私たちが交代制シフトで完璧に代行しますので、信長様は大人しく布団に入って、一分の狂いも無い湯加減の白粥を召し上がってください!」
英国王女も「信長様、オカラダ、オ大切ニ、マジ神仏!」と、覚えたての日本語で温かい笑顔を向ける。
「世界をハメ殺すより、大奥の健康規律にハメ殺される方が十割むずかしいわ! というか、余の限界胃壁を心配してくれる妻たちの優しさと、完璧すぎる優良な制度の刃の前に、嬉しさと緊張の冷や汗が本当に戦う前に跡形もなく噴き出しちゃうよーー!!」
昼間は冷徹に地中海の覇権を統治する総大総督でありながら、夜は大奥の完璧なる健康規律の前に白目を剥き、愛する妻たちの徹底的な看病包囲網のなかで、静かに胃薬を飲む覇王信長。だが、ぐっすりと眠る我が子の愛らしい寝顔と、自分の健康を本気で心配してくれる妻たちの笑顔を見つめ、胃壁の激痛を堪えながらも、心の底から幸福なる微笑を浮かべるのであった。
(外伝・その十二・地中海編・完)




