外伝・その八(天竺編):不滅の紅茶交易同盟による未来の搾取の未然封殺と、国営製茶場の手厚き固定給のハメ手
喜望峰の先回り登記と金剛石の国営化を完璧に完遂し、南阿弗利加の民を救済した正一位・太政大臣たる織田信長。安土城の総大総督府の玉座に座る覇王の視線は、休む間もなく次なる地球規模の盤上へと向けられていた。
元平の御世、織田の黒船艦隊はインド洋を北上し、巨大な富と文化を誇る亜細亜の大国、のちに異国において『インド』、そして『天竺』と呼ばれる広大な大地へと到達していた。
「ーー信長様。織田東インド商会の使節団より急報。天竺の諸王国との間で、我が新政庁が主導する不滅の『国営紅茶交易同盟』の締結を戦う前に十割完全に完了したとのことです」
内政副総裁の直虎が、一分の狂いも無い手際で最新の亜細亜交易図を玉座の前に広げた。
信長は不敵な笑みを浮かべ、二一世紀の歴史と経済学の記憶を宿した指先で、地図の天竺の一帯をぽちりと叩いた。
「うむ。数百年後、英国の欲深き商神たちが『イギリス東インド会社』なる巨大な組織を率いてこの天竺へ進出し、現地の民を過酷な植民地(ブラック環境)として支配し、紅茶や香辛料を不当に搾取する悲惨な未来の歴史を、余は今ここで根底から完全にハメ殺した。これで世界の茶葉の流通権は、一兵も損なうことなく我が新政庁の盤上で完全に詰んだ」
しかし、信長の知識は紅茶の利権を奪うだけに留まらない。21世紀の福祉知識を保有する覇王の真髄は、将来的に南蛮の過酷な労働(ブラック就労)によって命を削られるはずだった天竺の民の救済にあった。
数日後、天竺の瑞々しい緑が広がる広大な茶畑(アッサム周辺)にて、織田の使節団と、古くからその地を治める諸王国の王たちが対峙していた。
異国の過酷な軍事侵略や、不当な不平等条約を予期して警戒していた王たちに対し、織田東インド商会の使節団が提示したのは、戦の武器ではなく、金一文の狂いも無い純金貨の詰まった袋と、新政庁が全額保証する『国営製茶場・最高待遇固定扶持の予算書』であった。
「天竺の誇り高き諸王、そして民たちよ! 我らが主、織田信長様はそなたたちの土地を奪うことも、ましてや過酷な強制労働を課すことも十割絶対にせぬ! そなたたちの独自の信仰、文化、言葉を百パーセント尊重し、永久に保護することを約束する。その証として、現地に新政庁が全額出資する『国営週休二日製茶場』を次々と建設し、茶摘みの民全員を最高待遇の国営官僚として強制雇用(同期)する!」
使節団の熱き通訳が響き渡った瞬間、天竺の王や民たちは驚愕のあまり互いの顔を見合わせた。
さらに織田東インド商会は、二一世紀の農業技術である「計画的な茶葉の栽培法」や、無理のない就労環境を定めた『過労死防止令・天竺版』の規則書を次々と手渡していく。
「な、何ということだ……。戦う前に、私たちの生活と誇りをすべて全額保証するというのか……。しかも、夕刻五時の鐘が鳴れば、すべての職務を終えて家族の元へ帰ってよい(定時退勤)とは、一体どれほど白い(ホワイトな)規律なのだ……!」
将来的に英国の東インド会社に組み込まれ、命を削られるはずだった天竺の民たちは、織田の人道ハメ手の前に、大粒の涙を流して平伏した。
「織田のシステム、マジ神仏……! 我らは生涯を懸けて、信長様のためにこの美しい茶畑と最高品質の紅茶を守り抜くことを誓おう!」
現地の民が一人も血を流すことなく、笑顔で織田の世界線へと同期(就職)していく。これにより、将来的に南蛮の欲深き国々がこの天竺を植民地にしようとしても、戦う前に大義名分と現地民の絶対的信頼(黄金の盾)によって完璧に封殺される、不滅の防衛網が完成したのである。
ーーその頃、地球規模の巨大な盤上を完璧に詰ませ、天竺の民から「マジ神仏」と唱念されていた最高権力者、織田信長は、安土城の総大総督府の裏手にて、再び別の意味での滝のような冷や汗を流していた。
天竺の紅茶同盟という偉大なる計略を成し遂げた信長であったが、夜の大奥に足を踏み入れた瞬間、帰蝶、井伊直虎、英国王女、そして成田家から赴任してきた甲斐姫らが、天竺から届いたばかりの大量の「最高級紅茶の茶葉」を前に、完璧なる包囲網を敷いて待ち構えていたのである。
「信長様、お帰りなさいませ。新政庁の紅茶同盟によってもたらされた天竺の至高の茶葉、一分の狂いも無い大豊作(大量到着)にございます。さあ、今夜は大奥一同で贅沢なる『天竺紅茶のお茶会』を執筆いたしますが……労働者にございます我らの産前産後休暇および有給休暇の規律に基づき、大量の異国の茶器の準備と片付けの交代制職務、本日の深夜番は信長様、あなた様に十割完全に割り振られておりますよ?」
帰蝶が最高の笑顔で、大量の磁器の茶杯と、一分の狂いも無い湯加減の調整書を信長に手渡した。
「ま、待て……! 余は今、天竺の諸王国と不滅の紅茶同盟を締結し、未来の英国東インド会社を戦う前に完璧にハメ殺してきたばかりなのだぞ……!? なぜ戻ってきた瞬間から、大奥の紅茶の茶杯を百個も手洗いで片付けるという過酷な単独職務に奔走せねばならぬのだ!」
信長の悲痛な叫びに対し、十五歳に成長した甲斐姫が、笑顔で先回り牽制を仕掛けてきた。
「太政大臣たるもの、天竺の交易利潤を精査する前に、まずは身内のお茶会の一分の狂いも無い片付けを一から完璧に白化(ホワイト化)していただかねば困ります!」
「世界をハメ殺すより、大奥の紅茶の茶杯を洗う方が十割むずかしいわ! 余の再生したばかりの限界胃壁が本当に戦う前に跡形もなく崩壊しちゃうよーー! 誰か、余の胃薬(胃壁保護剤)を持ってきてぇーー!!」
昼間は冷徹にアジアの流通覇権を統治する総大総督でありながら、夜は大奥の完璧なる規律の前に白目を剥き、嬉しさと緊張 of 冷や汗で茶杯を磨き上げる覇王信長。だが、ぐっすりと眠る双子の愛らしい寝顔と、天竺の紅茶を美味しそうに楽しむ妻たちの笑顔を見つめ、胃壁の激痛を堪えながらも、心の底から幸福なる微笑を浮かべるのであった。
(外伝・その八・天竺編・完)




