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第6話:足利幕府の終焉と、畿内の覇者・三好長慶との未来調略

1. 東国の憂いなし、鳴り響く三万の足音


永禄七年(1564年)九月。

尾張と美濃を完全掌握した余――織田信長は、ついに京都へと向けて進軍を開始した。


その数、日の本初の近代常備軍、三万。

(――数だけで言えば、百姓をかき集めた史実の上洛軍より少なく見える。だが、その内訳が常軌を逸していた。当時の大名軍は荷物持ちや雑用係が半分以上を占めるが、余の常備軍は、藤吉郎の商会が兵站(物資輸送)を完全に一元管理している。ゆえに、この三万は全員が一切の雑用をせぬ、純度百パーセントの専業戦闘員。その破壊力は、旧来の軍勢の十五万に匹敵する、化け物級の近代軍であった)


家臣や領民は、その軍勢の美しさと統制の取れた行軍に言葉を失っていたが、他国の大名たちが真に戦慄したのは、余が上洛にあたって敷いた「完璧すぎる東国防衛網」の知略であった。


(――史実の上洛であれば、尾張の東隣にある武田信玄や今川、北条といった怪物の影に怯え、留守を狙われるリスクに常に晒される。だが、二度目の人生の余にその油断はない)


余は美濃平定の直後、未来の記憶を先取りして東国へ二つの外交チートを完了させていた。

一つは、三河で一向一揆に苦しめられ、滅びかけていた松平元康(のちの徳川家康)に対し、織田東インド商会から最新の火縄銃五百丁と巨万の軍資金を無償援助したことだ。元康は涙を流して余に感謝し、史実より遥かに強固な『清洲同盟』が電撃締結された。今や元康は、織田の東を守る絶対不沈の盾として、今川の残党を完璧に抑え込んでいる。


もう一つは、甲斐の武田信玄、相模の北条氏康への先手調略だ。藤吉郎の商会から南蛮の最高級ガラス器や絹をふんだんに贈り、さらに「余らの目的は朝廷の救済のみであり、東国の領地には一寸の興味もない。それどころか、将来的に世界の貿易利権を分ける用意がある」と世界地図を見せて経済不可侵条約を結んでおいたのだ。


東の憂いを完全にゼロにした余らは、満を持して濃尾の大軍勢を西へと動かした。


「……寸分の狂いもなく、全軍が同じ歩調で進んでおる。これが、百姓を交えぬ専業の兵の隊列か」

最高総参謀長となった竹中半兵衛が、物見櫓から整然と行軍する我が常備軍を眺め、深く感嘆の息を漏らしていた。

余の授けた新たなる軍事規律と、時間を等分に刻む『とけい』の概念によって訓練された織田の常備軍は、寸分の隙もなく統制された一つの巨大な生き物のようだった。


近江国へと入ると、未来の記憶を先取りして最速で妹のお市を電撃輿入れさせておいた浅井長政が、実の兄を迎える如き平伏ぶりで三万の兵糧を提供してきた。


対して、近江の南半分を握る六角氏は、朝廷の五摂家から「織田の道を阻む者は朝敵ちょうてきとみなし、全大名に討伐を命じる」という最大級の死刑宣告(書状)を突きつけられ、戦う前に戦意を完全に喪失。ただ沿道に平伏して我が軍勢が通り過ぎるのを震えながら見送るしかなかった。



2. 近江の亡命将軍、室町幕府の円満終了


余らが次に向かったのは、京都の二条御所ではなかった。当時、将軍・足利義輝は畿内の覇者である三好一族に京都を追われ、近江国の朽木(滋賀県)の陣に亡命を余儀なくされていたからだ。


三万の近代常備軍が、義輝の籠もる近江の仮御所を物音一つ立てずに電撃包囲した。


「……織田上総介。帝の勅命を引っ提げて参ったか。さあ、我が足利将軍家を先頭に立たせて京都へ乱入し、不忠なる臣下、三好の大軍を叩き潰して幕府の威権を回復せよ!」

上座に座る義輝は、「剣豪将軍」と恐れられるにふさわしい鋭い眼光を放ち、余を見下ろしていた。


だが、余の脳裏にある一度目の人生の記憶が、悲劇のタイムラインを冷徹に告げていた。

(――足利義輝。お前は間もなく、京都を支配する三好の過激派(三好三人衆)や松永久秀に裏切られ、二条御所で無惨に暗殺される運命にある。お前の頑固なプライドと、古い幕府権力への執着が、畿内をさらなる泥沼の戦乱へ巻き込むのだ)


余は一歩前に出ると、義輝の傲慢な言葉を静かに遮り、一通の和紙の手控えを突きつけた。

「公方様。余は、足利の古い神輿を担ぐ気は毛頭ございませぬ」


「な、何だと……!? この征夷大将軍足利義輝を愚弄するか!」

義輝が激昂し、傍らに置かれた名刀に手をかけようとした。

その刹那、背後に控えていた明智光秀と竹中半兵衛が、静かに、だが圧倒的な覇気で義輝の間合いを殺した。


「警告にございます。貴殿の命は、間もなく三好の過激派や松永の手によって狙われる。お前がその古き将軍の椅子に座り続ける限り、その暗殺の刃から逃れる術はありませぬ」


「な……!? 三好が、我が命を……?」

義輝の顔から血の気が引いていく。余がこれまで美濃を戦わずして干上がらせ、五摂家を完璧に包囲してきた底知れぬ知略の化け物であると知っているからこそ、その予言には逃れようのない現実味があった。


「命が惜しくば、本日をもって将軍の座を退き、朝廷の格式ある名誉職として余の保護下へ入りなされ。これより日の本は、古い武力の幕府ではなく、朝廷の法と官位の下で一元化された新たなる国へと生まれ変わる。足利の時代は、本日をもって円満に終了にございます」


義輝はしばらく抜かれぬ名刀を見つめて震えていたが、やがて力なく肩を落とした。

「……織田上総介。お前には、すべてが見えているのだな。よかろう、幕府を閉じる。我が命、お前の創る新たなる国とやらに預けよう」


名門・足利将軍家のプライドを傷つけることなく、その武力を完全に解体した瞬間であった。

【室町幕府、ここに無血にて終焉。】



3. 三好の妨害封殺と、長慶の「心の病」


「前将軍・足利義輝の円満隠居」と「朝廷の勅命」という二大義名分を手に入れた余らは、いよいよ京都へと常備軍を進めた。


本来であれば、京都をガチガチに支配する三好の守備隊が全力で迎撃にくるはずであった。だが、ここでも一滴の血も流れることはなかった。

余は京へ入る前に、光秀と五摂家を通じて「織田は三好を滅ぼしに来たのではない。病床にある長慶殿の命を救い、三好の力を新国家の柱石として迎えるために来た。道を阻めば朝敵として全滅させる」という極秘の親書を、守備隊の頭領である松永久秀らへ先手で届けていたのだ。


「戦わずに、長慶様が救われるというのか……」

朝敵指定の恐怖と、信長の底知れぬ大計の前に久秀らは武器を収め、織田軍を大歓声で京都へと無血入場させたのである。


京の治安維持を光秀に任せ、余は半兵衛を連れて、河内国(大阪府)の飯盛山城へと向かった。

そこにいたのは、現時点で畿内の事実上の最高権力者でありながら、身内の相次ぐ死によって重度の「心の病」を患い、心身ともに衰弱しきっていた怪物――三好長慶みよし ながよしであった。


薄暗い病室の奥、長慶は生きながらにして幽霊の如く、虚ろな目で天井を見つめていた。

「……織田上総介か。何をしに来た。我が命を奪いに来たか。弟も、息子も死んだ。我が三好の天下もこれまで。好きに首を獲るが良い……」


当時は「至心の病」と恐れられ、一度罹れば死を待つしかないとされた重度の憂鬱。

だが、二十一世紀の記憶を持つ余には、その病の正体も、そして心を救うためのカウンセリングの知恵も、完璧に頭の中に存在していた。


余は刀をその場に置き、長慶の枕元へと静かにあぐらをかいた。


「長慶よ。まだ死ぬには早すぎる。お前のその、かつて日の本の中心を統治しようとした先駆者としての才、このような暗がりの病床で腐らせてたまるか」


余は懐から、織田薬蔵の職人たちに極秘裏に調合させ、成分を整えておいた南蛮の精神を安定させる薬を取り出し、長慶の前に置いた。


「お前は孤独だったのだ。誰もがお前の権力を恐れ、身内の死を呪い、お前の心の悲鳴に気づこうとしなかった。だが、余はお前の苦しみを知っている。お前がこれまで孤独に闘ってきた国造りの難しさを、誰よりも理解しておる」


長慶の虚ろだった瞳に、微かな光が灯り、大粒の涙がその頬を伝って流れ落ちた。

戦国の大名たちは皆、三好の衰退を喜び、その領土を奪うことしか考えていなかった。しかし、目の前に現れたこの若き覇王は、己の弱さをすべて包み込み、人間としての長慶の孤独を真っ直ぐに救おうとしていた。


「長慶、余の創る新たなる国家の『柱石ちゅうせき』となれ。お前を使い潰すつもりはない。我が織田家には『六日に二日の休み』という仕組みがある。まずはしっかりと薬を飲み、温泉にでも浸かって、その傷ついた心を完全に癒せ。そして英気が戻ったならば――」


余は、長慶の手をがしっと力強く握りしめた。


「――余と共に、世界の海を支配する『日本連邦海軍の大臣(総裁)』として、もう一度その命を燃やせ。お前の持つ瀬戸内海の制海権、そして三好水軍の力、世界大戦で南蛮の大艦隊を完封するために、どうしても必要なのだ」


「せ、世界の海……。我が水軍を、日の本のためではなく、世界のために……」

長慶の胸の奥で、消えかけていた覇王の残り火が、信長の圧倒的な『大器』の前に、爆発的な熱量を持って再点火された。


「……上総介様。この三好筑前守長慶、死に場所を失いました。あなた様の創る新たなる世界、この命の最後まで、特等席でお供させていただきます!」


畿内の怪物が、信長の前に深く平伏し、完全なる忠誠を誓った瞬間であった。



永禄七年秋。

室町幕府が円満に幕を閉じ、畿内の最高権力者であった三好家が丸ごと織田の傘下に入った。


さらに余は、日の本最大の港町である「堺」の会合衆に対し、武力で矢銭を強要するのではなく、織田東インド商会が扱う未来の特産品の世界独占販売権を餌に、彼らを織田政権の最高株主パートナーとして合法的に囲い込むことに成功していた。


経済と軍事の双眸そうぼうを押さえたことで、京都、大坂、および巨大な富を生み出す堺が、一滴の血も流すことなく織田の統治下(日本連邦)へと完璧に組み込まれたのである。


堺の圧倒的な経済力、および三好水軍という世界戦へ向けた最強の海洋のパーツを手に入れた余は、飯盛山城 の物見櫓から、遥か西の瀬戸内海を見つめていた。

「上出来だ、十兵衛、半兵衛。これで京および堺の地盤は寸分の隙もなく完璧に整った」


「殿、次なる一手はいかがなさいますか」

光秀が鋭い目を光らせる。

余は新たなる和紙の手控えを広げ、不敵に笑った。


「瀬戸内海の物流の要であり、良質な鉄が集まる『播磨(兵庫県)』、および周囲の畿内・近国を最速で直轄領化する。反抗を試みる播磨の別所らは、常備軍の圧倒的な大砲の火力で戦う前に武装解除せよ。彼らの領地はすべて没収し、堺の豪商たちの富をつぎ込んで、播磨の港を世界へ打って出る鉄甲蒸気船を建造する『巨大造船ドック』へと変貌させるのだ」


未来の記憶を宿した覇王の「天下布武」は、京都を越え、堺の掌握、播磨の完全接収、そして大海原の向こうへと、その圧倒的な地政学の歩みを進めていくのだった。


(第7話「傷を恐れぬ覇王の盤面」へ続く)

第6話をお読みいただきありがとうございました!

東国の安全確保、将軍義輝の近江亡命の現実、そして三好一族を「朝敵」の恐怖と「長慶の救済」で完封する、戦国ガチ勢納得の理詰めの無血上洛を描かせていただきました。


後半では、重度の「心の病(うつ病)」に苦しんでいた畿内の覇者・三好長慶を、信長が未来知識の薬と圧倒的な『大器』の言葉で救い、世界大戦への最強の海軍大臣(柱石)としてホワイト雇用する神調略回となりました。


次回、第7話『傷を恐れぬ覇王の盤面)』へ続きます。中国地方の毛利家へ向かう前段階として、信長が未来の地政学知識を用い、伊賀、伊勢を一滴の血も流さずに完全接収! 抵抗を試みる別所ら国人衆を圧倒的な火力で威圧し、世界最強の黒船を造るための「近代巨大造船基地」へとスクラップ&ビルドする、シビアで最高にシステマチックな内政・地政学無双回となります!


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