第5話:美濃無血開城と、日の本初となる近代常備軍の誕生
1. 稲葉山城、完全無血開城
永禄六年(1563年)八月。
日の本を揺るがす大事件が、一切の刃を交えることなく成し遂げられた。
美濃国(岐阜県)の国主・斎藤龍興が、織田家に対して全面降伏を申し入れ、難攻不落と謳われた稲葉山城の門を開いたのだ。
余と藤吉郎が仕掛けた塩の流通封鎖と、闇の流通網から流し込んだ大量の偽金工作により、美濃の経済は文字通り消滅していた。さらに、余の打ち出した「三公七民」という超減税政策の噂を聞きつけ、美濃の全人口の八割にのぼる百姓や下級武士が尾張へと夜逃げしていたのだ。
もはや、稲葉山城を守る兵すら残っていなかった。
その裏で、美濃の命脈を完全に断ち切る最後の交渉をまとめ上げたのは、余が最高総参謀長に据えたばかりの麒麟児――竹中半兵衛であった。
「……さすがは半兵衛だな。余の頭の中にある策を、ここまで完璧に形にするとは」
清洲城の物見櫓で、余は半兵衛が差し出してきた一通の和紙の書状を眺め、思わず舌を巻いた。
半兵衛は織田家に合流するや否や、織田東インド商会の闇の流通網をフルに活用し、美濃の命運を握る「西美濃三人衆(稲葉一鉄・氏家卜全・安藤守就)」へ秘密裏に接触。彼らが斎藤家を見限らざるを得ない決定的な段取りを、寸分の隙もなく整えてみせたのだ。
外の彼らは、己の領地と利権を何よりも重んじる老獪な現実主義者たちである。単なる「条件の良さ」だけで寝返るような軽い男たちではない。
だが、半兵衛が突きつけたのは、逃れようのない絶対的な絶望であった。
『このまま斎藤家に仕え続ければ、織田上総介様の銭の罠により、諸物の値はさらに跳ね上がり、領民もろとも餓死することになる。これは降伏の誘いではない。織田上総介様による、あなた方の領地と命の“救済”の打診にございます』
身内であったはずの半兵衛から冷徹な現実を突きつけられ、三人衆は骨の髄まで冷えるような戦慄を覚えたという。
「このまま狂った主君と心中し、領民を全滅させるわけにはいかぬ。……この底知れぬ織田信長という男に、我が家名の命脈を委ねるほか、道はない」
彼らは武将としてのプライドをへし折られ、苦渋の決断の末に、涙を流して織田への恭順を誓ったのだ。
外堀を完璧に埋められた龍興には、もう戦う術はなかった。
余は降伏を受け入れ、龍興とその一族に「織田東インド商会」の資金から莫大な支度金(金銀)を与え、日本海に浮かぶ孤島『佐渡島』へ、船に乗せて永久に追放した。
形式的な佐渡の国主の座と、余の頭の中にある『佐渡金山』の莫大な金脈が眠る図面を添えてな。
(――一度目の人生での龍興は、美濃を追われた後に一向一揆や朝倉と結び、十年にわたって余の命を狙い続けた不倶戴天の敵。生かして本土に放流するような愚策はせぬ。四方を海に囲まれた佐渡の地であれば、いくら復讐の兵を集めようとも、海を渡って余を襲うことは不可能なのだ。その有り余る執念と斎藤家のプライド、佐渡の眠れる巨万の金を掘り出すための力として、あの島で完璧に使い切ってくれるわ。信長は心の中で冷徹に笑った)
一度目の人生のような凄惨な殺し合いはどこにもない。美濃の領民や残された武将たちは、飢えから救ってくれた余の軍勢を、涙を流し、大歓声を挙げて迎えたのである。
「……信じられぬ。あの難攻不落の美濃を、一兵も死なせずに手中に収めるとは」
美濃に入った明智十兵衛光秀が、占領したばかりの城の天守から、荒れ果てた美濃の田畑を見つめて呆然と呟いた。
その横には、栗原山から連れてこられたばかりの若き麒麟児――竹中半兵衛が立っていた。
信長から与えられた南蛮の極秘の薬(抗生物質)を飲んだことで、半兵衛の結核の病は劇的に回復し、その頬には健康的な赤みが差していた。
「十兵衛殿、これが織田上総介様の『戦』にございます。これからは、血を流して領土を奪い合う古い兵法など、何の役にも立ちませぬよ」
半兵衛は清々しい笑みを浮かべ、余の背中を見つめた。
最強の知略(光秀・半兵衛)と、最強の財力(藤吉郎)が、ついに安土の地で完全に一つになったのだ。
2. 日の本初、週休二日制の「近代常備軍」
美濃を最速で吸収した余は、すぐさま次なる国家改造計画を断行した。
半兵衛を『織田連邦・最高総参謀長』に任命し、光秀と共に、これまでの日の本の常識を覆す「兵農分離による近代常備軍」の設立を命じたのだ。
「半兵衛、光秀。これより、我が織田家は百姓を戦に駆り出すのを一切禁じる。戦をするのは、国が直接雇う『専業の兵(プロの軍人)』のみとする」
余の手控え(図面)を見た二人は、その内容に目を丸くした。
当時の大名たちの兵は、普段は農業をしている百姓たちであり、農繁期には戦ができないという致命的な弱点があった。だが、余が創設する常備軍は、織田政府から毎月「永楽通宝(本物)」の給与が支払われる、完全な国家公務員である。
「さらに、兵たちにも『六日に二日の休み』を厳守させよ。半兵衛、お前が余の授ける新たなる軍事規律に基づき、彼らに徹底的な近代戦術(隊列訓練や火縄銃の集団一斉射撃)を叩き込むのだ。しっかりと休ませ、飯を腹一杯食わせ、最高の環境で訓練された三万の常備軍がいれば、日の本のいかなる大名の大軍も一瞬で粉砕できる」
「素晴らしい……! 農業に左右されず、一年中いつでも、一分一秒の狂いもない統制で動く最強の軍勢。これぞこれぞ南蛮の大艦隊をも震撼させる、新たなる日の本の盾にございますね!」
半兵衛は目を輝かせ、さっそく軍の編成に取りかかった。
これまでは過酷な激務で使い潰されていた兵たちが、織田の環境と高い給与に感動し、命を懸けて余の盾となる精鋭へと生まれ変わっていく。
3. 帰蝶の「産めよ増やせよ、女性躍進内政」
だが、余の『天下布武』の本質は、強大な軍隊を造ることではない。
二十一世紀の記憶――少子高齢化で国力が縮んでいった未来の悲劇を知る余にとって、最優先すべきは「持続可能な人口の爆発(自然増)」であった。
余は、正室の帰蝶(濃姫)を呼び寄せ、彼女を織田政府の「女性活躍・教育省」の総裁へと任命した。
「帰蝶。余は、この日の本の人口を、将来的に十億を越える巨大な国家にしたい。そのためには、女性が安心して子供を産み、育て、かつ堂々と社会で輝ける国を創らねばならん。お前にその差配を任せる」
帰蝶は凛とした笑みを浮かべ、深く頷いた。
「お任せください、上総介様。女性をただの裏方、消耗品として扱う古い世は、私がこの手で終わらせてみせます」
余と帰蝶は、未来の社会保障制度を先取りした『子育て・女性活躍御定書』を全領土に発布した。
1.世界初の「国営産院(織田薬蔵)」の設立:
手洗いや煮沸消毒といった未来の衛生概念を徹底し、当時極めて高かったお産による妊婦や乳幼児の死亡率を、一瞬で史実の十分の一以下に激減させる。
2.世界初の「育児手当」と「多子世帯・超減税チート」:
子供が一人産まれるごとに、国から育児手当として銭を支給する。さらに、三人以上の子供を持つ家庭は、営む農業や商業の税(三公七民の三割の取り分)をさらに引き下げる。
3.「働く女性」のキャリア支援と「国営託児所」の併設:
女性が絹織物や尾張ガラスの加工、さらには役所の行政官として堂々と働けるよう、国営の女子高等塾を設立。職場のすぐ横には、安価で預けられる「国営託児所(寺子屋保育園)」を併設し、仕事の合間に子育てができる環境を完全実現する。
「尾張と美濃に行けば、子供が病気で死なない。それどころか、子供を産むほど家が豊かになり、女も職を持って輝ける!」
この前代未聞の「天国の内政」の噂は、日の本全土を、いや、やがては世界中を震撼させることになる。
周辺の国々から、若い夫婦や優秀な職人が、磁石に吸い寄せられるように織田の領地へと移住し始めた。
国力を高めるのは、他国への理不尽な侵略ではない。自国の民を豊かにし、次世代の命を爆発的に増やすことこそが、最強の「国力」なのだと、余は世界に証明してみせる。
4. 将軍の誘い、覇王の不敵な視線
永禄七年(1564年)。
美濃と尾張が完全に融合し、人口と富が爆発的に増大していく中、余の躍進を聞きつけた京都から、一人の不穏な使者が安土の地へと送り込まれていた。
現室町幕府の将軍・足利義輝が送り込んってきた密使であった。
「織田上総介殿。将軍家を支え、京都へ登り幕府の威権を回復せよ。さすれば、それ相応の恩賞を与えよう」という、上から目線の傲慢な誘いであった。
余は使者を鼻で笑い、一言のもとに追い返した。
家臣たちがその大胆さに息を呑む中、京都から帰還した明智光秀が、余の前に平伏して一通の緊急の書状を差し出した。
「殿、関白近衛前久様を通じて、帝(皇室)より公式の『勅命』が下りました。極貧の朝廷を救い、日の本の秩序を守るため、織田上総介に一刻も早く京都へ登ってきてほしい、とのこと。……上洛上洛の大義名分、寸分の隙もなく、完璧に整いました!」
余は和紙の手控えを閉じ、静かに立ち上がった。
将軍・足利義輝の誘いを完全に無視し、帝の直々の命令によって京都へ進出する。
一度目の人生で将軍を担ぎ上げた結果、奴らは権力に執着して織田包囲網を敷き、泥沼の戦いを生み出した。その過ちを二度と繰り返すつもりはない。
古い神輿など担ぐ気は毛頭ない。ここからが、本当の戦いだ。
「光秀、半兵衛、藤吉郎。常備軍を動かせ。古い室町幕府の皮袋を捨て、帝の光の下で、新たなる日の本を創るぞ。……目指すは、京都。そして、畿内の覇者・三好長慶との未来交渉だ!」
未来の記憶を宿した覇王の「天下布武」は、誰一人としてこぼれ落とさない圧倒的な内政チートと共に、ついに新時代への階段を駆け上がり始めた。
(第6話「足利幕府の終焉と、畿内の覇者・三好長慶との未来調略」へ続く)
第5話をお読みいただきありがとうございました!
ついに美濃が完全無血開城され、信長政権の最強のドリームチーム(信長・光秀・秀吉・半兵衛)が本格始動しました。
そして、現代日本の少子化の危機を知る信長だからこそできる「驚異の子育て支援・女性活躍内政」と、週休二日制の「近代常備軍」という圧倒的な内政チートが炸裂する回となりました。
次回、第6話『足利幕府の終焉と、畿内の覇者・三好長慶との未来調略』へ続きます。将軍を完全無視して帝の勅命で上洛する信長が、畿内の怪物・三好長慶のうつ病を未来知識の薬で救い、一滴の血も流さずに世界大戦への仲間(日本連邦海軍・大臣)に引き入れる神調略回となります!
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