第38話:北海開拓の環境保護令と、蝦夷地の羆対策
1:北海開発総局の船出と、アイヌ民族との対等なる融和
元平元年の秋、新政庁が敷いた日本全土の完全国営化を受け、安東愛季、南部晴政、津軽為信らが率いる『北海開発総局』の大調査艦隊が、蝦夷地(北海道)や樺太へ向けて敦賀の港を一斉に出港していった。信長はこの未知の北海大開発を命じるにあたり、未来の歴史で起きる悲惨な民族紛争を先回りしてハメ殺すため、安東らに対して冷徹なる『人道基本法』を言い放っていた。
「良いか、蝦夷地には古より独自の文化と深い知恵を持つ『アイヌ』と呼ばれる民が暮らしておる。彼らを決して力で弾圧したり、不当な交易で掠奪したりすることは、新政庁において十割死罪に値する重罪である! 彼らの土地と信仰を百パーセント尊重し、対等な交易相手、あるいは手厚い国営固定扶持を支給して新政庁の案内人(地方官僚)として強制雇用(白化)せよ!」
さらに信長は、未来の凄惨な獣害の記憶から、もう一つの厳格な防衛策を予算書と共に突きつけていた。
「また、蝦夷地の山林には、本州の月輪熊とは比較にならぬ狂暴な巨獣『羆』が生息しておる。戦う前に完璧に遭遇を防ぐため、音の鳴る道具を常備し、集落の周囲には強固な防塞と国営の火器を配備して、一人の犠牲者も出さぬ無理のない安全な開拓を徹底せよ!」
独自の優れた狩猟技術や地理の才を高く評価され、不当な掠奪ではなく近代の富(固定給)と安全を保障されたアイヌの長たちは、新政庁の温かき姿勢に涙を流して喜び、安東らと共に北海の環境調和型開拓へ向けて手を取り合うのだった。
2:狼の絶滅阻止と、里山・松茸の国営保護令
蝦夷地の大開発が動き出す一方、安土城の執務室にて、信長は本州の内政を司る直虎や、姉小路頼綱(国営森林開発総局長)らを呼び出し、五百年後の環境破壊をハメ殺す驚天動地の『環境調和・国営保護令』を発令していた。
「直虎、姉小路。日の本の山々に棲む『狼』の狩猟をこれより一切禁止とし、国営でその生態系を保護せよ。狼を駆除して絶滅させれば、将来的に猪や鹿が異常増殖して農地を荒らし、日の本の経済を脅かす大社会問題になるのだ(生態系の維持)。山を支配するのではなく、自然の調和を維持することこそが、新政庁の役目よ」
さらに信長が広げた内政地図には、民たちが薪を切り出す「里山」の国営統治計画が寸分の狂いも無く記されていた。
「これより全国の里山の木々を計画的に植樹・管理し、赤松の林を保護せよ。さすれば、秋の味覚である『松茸』が山ほど採れ、未来永劫、庶民が安価に美味しく食せる豊かな日の本が維持できるわ! 松茸を一部の権力者だけの高嶺の花にさせず、民全員の日常の味(完全白化)とするのだ!」
五百年後の深刻な乱獲や環境破壊、森林の荒廃を先回りして完璧に潰す信長の神仏の如き大計略に、直虎や姉小路、新政庁の官僚たちは狂信的な崇拝の焔をその目に宿し、平伏するしかなかった。
(……よしよし! 狼の絶滅を防げば未来の獣害問題は十割解決だし、里山の保護で松茸も庶民の味として残せるぞ! 二十一世紀の環境問題を先回りしてハメ殺すこの快感、地政学チート様様だわ!)
覇王の仮面の下で、信長は完璧な内政の手応えに内心でドヤ顔の冷や汗を流していたが、家に帰ればやはり、もう一つの過酷な戦場が待っていた。
3:環境調和の地政学と、覇王の冷や汗まみれる深夜の授乳
世界の生態系からアイヌ民族との融和までを完璧に掌握し、傲然たる足取りで安土城の奥御殿へと帰還した余。だが、執務室での冷徹な覇王の威厳は、寝所の扉を開けた瞬間に、一瞬で冷や汗まみれのパパの顔へと解体されるのだった。
そこには、大きくなった腹部を抱えて静かに眠る正室・帰蝶と内政副総裁の直虎、そして彼女たちの安息を守るために静かに算盤を弾く誾千代の姿があった。
「お帰りなさいませ、総大総督。狼の保護や松茸の国営化、誠に天晴れな大義にございました。……さあ、身重の帰蝶様たちを起こさぬよう、本夜の『給与全額保証の国営育児交代制職務』の深夜番、金一文の狂いも無くお励みくださいね?」
誾千代が、悪戯っぽく微笑みながら、山羊の乳が入った温かい国営の哺乳瓶(乳入れ)を余の手に握らせた。本夜は、余が自ら大奥の過労死を防ぐために制定した、赤子の夜泣き対応の初番の夜なのである。余は足音を忍ばせ、泣き出しそうな赤子を優しく抱き上げると、一分の狂いも無い湯加減で調合した山羊の乳を口元へと運んだ。
(……いやいやいや! 昼間は世界を見据えてアイヌ民族と不滅の信頼関係を築いたり、狼の生態系を守る大計略をぶち上げてるのに、夜は深夜に冷や汗流しながら赤子の乳の温度を調整する交代制職務って、余の頭脳と胃壁への圧力が十割限界領域(ブラック環境)なんだけど!?)
世界を無理のない健全な調和へと導く覇王の歩みとは裏腹に、家庭内における「無理のない子育て革命」の荒波に揉まれる余の胃の寿命だけは、嬉しさと緊張の冷や汗とともに、今夜も限界を突破してキリキリと悲鳴を上げるのであった。
(第39話:琉球王国の無血同期と、比律賓マニラ急襲へ続く)




