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第31話:安土の「女の陣」と、覇王の冷や汗まみれる作戦会議

1:完全週休二日制の安土城と、奥御殿のホワイトな革命


「――おいおいおい、誰だ。休日の余の物見櫓へ、これほどの強烈な火花を持ち込んだ奴は」


西暦一五七〇年代半ば、伊達家の恭順により奥州平定に王手をかけた安土の『新政庁』。物見櫓の最上階にて、覇王の仮面を被る余は、絶望的な心理戦の渦中に立たされていた。


21世紀の歴史知識をフル活用し、余がドヤ顔で敷いた「完全週休二日制」の恩恵により、国営化された地域の役人や民たちは、今頃手厚い休日を満喫しているはずだった。それは天皇の皇女である永高内親王殿下が降嫁された奥御殿も同様で、過酷な徹夜や雑務はすべて禁止され、交代制の職務と固定給という最強の福利厚生に、侍女たちは涙を流して大感動していた。


しかし、そのホワイト化された楽園は、別の意味で恐るべき戦場へと変貌していた。

余の目の前には、織田東インド商会の勘定総裁にして正室の帰蝶、内政副総裁の直虎、配置転換で赴任してきたばかりの誾千代が揃って座している。


「上様、こちらが今週の『国営お小遣い(固定扶持)』の宮家への支給内訳にございます。一文の狂いもございません」

帰蝶が、すべてを見透かすような絶対零度の美しい微笑みで、余の隣にすっと算盤を置いた。


「さすがは帰蝶様。ですが、奥御殿の勤務割については、内政副総裁である私の『完全週休二日・交代制の職務』の方が、上様の御身をより労われますよ」

直虎が、静かな、しかし強烈な威圧感を放ちながら、領地経営で培った完璧なシフト表を差し出す。


「新参者の私が言うのも何ですが……九州防衛の海路を完全に封鎖し、新政庁に就職した島津や大友の旧軍事力を『国営織田水軍』に同期する算段、私にお任せを。……それとも上様は、長崎の港より、この誾千代の隣がお好みですか?」

婚姻が内定している誾千代が、バチバチと火花を散らしながら、若く瑞々しい視線で余をロックオンした。


(いやいやいや! 怖えよ! なんだよこの超ハイレベルな女の陣は! 21世紀のホワイトハーレムって、もっとこう、甘酸っぱくて癒やされるもんじゃないの!? 全員が国家を動かす近代チート官僚すぎて、余の胃壁が戦う前に完璧に詰まされかけてるんだけど!?)


覇王の威厳を保ちつつも、余の背中からは安土城を濡らすほどの冷や汗が吹き出ていた。



2:届いた恭順感謝状と、独眼竜の近代化


奥方たちの愛の重さに胃をキリキリと痛めていると、絶妙なタイミングで小姓が、降伏・臣従を受け入れたばかりの伊達政宗からの極秘報告書を持ってきた。余は内心で五体投地しながらそれを受け取り、傲然と広げてみせる。


「ふん……奥州の独眼竜め、新政庁への恭順が認められ、内定した『奥州大開発総局長』の固定給の破格さに、これほどの泣き言混じりの感謝状を送ってくるとはな」


手紙の中で、政宗は「関税も闇の流通網も国家情報省(伊賀)に完璧に露見し、戦う前にハメ殺された時は絶望しましたが、提示された手厚い固定給の予算書を見たら、もう武力による掠奪などアホらしくてやっていられませぬ。喜んで最上や南部を説得し、奥州全土を新政庁へ引き渡します」と、織田の近代ホワイト雇用システムに早くも骨抜きにされていた。


「あら、あの奥州の暴れん坊までもが、上様の人道ハメ手の前に一瞬で近代官僚化いたしましたか。さすがは我が夫にございます」

帰蝶が楽しげに扇子を鳴らし、その冷徹な視線を少しだけ和らげる。


「まだ完全には領土化できていなかった東北地方を、国営の固定給という『福祉の提示』だけで、一兵も損なわずに無血解体していく……。この手腕、何度見ても惚れ惚れいたしますね、上様」

直虎もまた、嬉しそうに手紙を覗き込み、余への崇拝の焔を燃え上がらせる。


(……いや、政宗くん、素直に周囲の説得役を引き受けてくれて本当に助かるよ! おかげで東北の完全国営化への道筋が見えたよ! だけどね、君のその感動のせいで、余が奥方たちの『次はどこを開発(ハメ殺し)しますか』というおねだり攻勢に晒されてるの、分かってないでしょ!? 独眼竜の近代化は嬉しいけど、余の胃の近代化(胃薬の常備)の方が先決だよ!)


顔に出てしまいそうな冷や汗を、余は震える手で茶を啜ることで強引に誤模化した。



3:惣追捕使の絶対大義と、世界を睨む大航海図


「それにしても、上様が朝廷より賜った『惣追捕使』の最高大権。これぞ、異国の魔手を戦わずしてハメ殺し、日の本の統一を総仕上げする黄金の盾にございますな」


直虎が、懐から取り出した新政庁の極秘地政学地図を広げた。そこには、信長が未来の記憶から描き出した、恐るべき「環境調和型・海洋帝国」のグランドデザインが記されていた。


蝦夷、樺太、千島列島、さらには台湾や海南島までを『絶対防衛圏』として赤く囲い、太平洋の島々やシベリア、遠くオーストラリアまで国営の開拓航路が伸びている。だが、中国大陸と朝鮮半島だけは、あえて「手出し無用」として100パーセント白く塗り潰されていた。


「東北を完全に国営化した後は、その足で蝦夷地(北海道)へ進出。大陸の泥沼には一切関与せず、海の流通網と資源だけを完璧に掌握する。すでに毛利や島津の海軍力は『国営造船局』へ一本化するハメ手を指示してあります」


「それで、この地図の片隅にある、海の果ての『ハワイ』という島々に記された『不滅の対等同盟』の文字……。これは、どういう下心にございますか?」

帰蝶の、すべてをすり潰すような微笑みが、余の心臓を的確にロックオンした。


(下心じゃねえよ! 日本統一を急いで終わらせて、将来あそこにリゾート地を作って、過労死寸前の光秀たちを連れて『社員旅行』に行きたいだけだよ! あと、悲惨な紛争の火種になるエルサレムを、織田東インド商会の中立直轄地として世界管理して、全宗教徒が安全に巡礼できるように先回りしたいだけなんだよ!)


覇王の仮面の下で、余の胃壁はすでに跡形もなく解体されていた。だが、傲然と言い放つ。

「ふん、南蛮のイエズス会やローマ教皇の野心など、すべて余の計算の内よ。いずれイギリスと秘密同盟を組み、世界に進出しすぎぬよう手綱を握りつつ、教皇庁をハメ殺してやるわ。三大宗教の暴走を止め、世界を調和させる。それこそが、余の天下布武よ」


「……世界の宗教の暴走すらも、500年先んじてハメ殺すというのですか……! なんという慈悲深き神仏のごとき大航海図……!」

誾千代が目を輝かせ、帰蝶と直虎も狂信的な崇拝の焔をさらに激しく燃え上がらせる。


東北の完全領土化(日本統一の総仕上げ)を目前に控え、いよいよ世界無双の大開発へと舵を切り始めた新政庁。しかし、世界を救う覇王の歩みとは裏腹に、奥方たちの愛の重さに挟まれた余の胃の寿命だけは、到底持続可能とは思えぬ限界領域へと突入していくのであった。


(第32話:奥州開拓総局の初陣と、羽州の無血開城へ続く)

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