第27話:不滅の皇統、安土の「大計画」に連なる
1:紫宸殿の密談と、百代の計
「――惣追捕使様、此度の宮家創設の御提案、朝廷は驚愕と深い感謝に震えております」
西暦一五七〇年代半ば、天正の初頭。京(洛中)の御所、その奥深く。
安土の新政庁から秘密裏に召し出された近衛前久は、信長様から提示された一通の極秘計画書を前に、熱い涙を流していた。
それは、親王の直系が絶えた時の予備として、新たな宮家を国内に複数創設し、皇族の血筋を後世まで一分の狂いもなく残すという、数百年先を見据えた「不滅の皇統計画」であった。史実の朝廷は深刻な困窮に喘いでおり、新たな宮家を維持する予算などどこにもなかった。
だからこそ、信長様が潤沢な国営資本から手厚い『固定給(国営扶持)』を万全に支給し、皇族の生活と格式を百パーセント守るというこの圧倒的な福利厚生(救済策)は、朝廷にとって神仏の如き大恩であった。
「朕の血筋を、未来永劫にわたり盤石にするための百代の計。惣追捕使の先見の明、真に日の本の至宝である」
帝も宸翰を通じてこの計画を全面受諾され、朝廷と新政庁の絆は完璧なものとなった。野良の武力を合法的に解体する絶対の大義名分は、ここに人間の業を超えた絶対の領域へとビルドされたのである。
2:宮家創設の財当と、東国の近代システム
「新しく創設される宮家のための国営予算、金一文の狂いもなく組み替えを完了いたしました」
安土の『新政庁』。
前線に出されず、次期最高執行責任者としてのエリート官僚教育を施されている十代前半の織田信忠が、手際よく算盤の帳簿をめくっていた。
最高総参謀局の二兵衛(半兵衛・官兵衛)が仕掛けたハメ手により、迅速に領土化が進む東国(関東・甲信)。東国開発総局長となった北条氏政の卓越した民政の知恵や、甲信金山開発総局長の武田勝頼が掘り出す金山の富、さらには今川氏真殿が古い特権を無血解体して一本化した国営物流の利権が、そのまま「皇室守護の予算」へと美しく転用されていく。
「我らが江戸の大開発や金山の職務(無理のない労働環境)に励むことが、日の本の不滅の礎(宮家)を支える大義に繋がるとは……。信長様はどこまで先を見据えておいでなのだ」
徳川家康や北条、武田の近代官僚たちは、手厚い固定給をもらいながら、新政庁への完璧な忠誠と盲信をますます深めていくのだった。
3:絶対覇王の仮面と、奥御殿に満ちる畏れ多さ
その頃、安土の新政庁の最上階。
朝廷から届いた「宮家創設の全面受諾と、信長様へのさらなる神格化」の報告書を前に、余の胃壁は文字通り完璧に解体されかけていた。
(……いやいやいや! 皇室の血筋が途絶えたら現代日本の歴史がややこしくなるから、今のうちに宮家を増やしてスペア(予備)を作っておけと、ただの歴史知識を口にしただけなのに! なんで前久も帝も『神仏の如き聖人』とか言って、朝廷を挙げて余を崇拝してんの!? 畏れ多すぎてガチで冷や汗が止まらんわ!)
覇王の仮面をガチガチに固定しながら、余の背中には寸分の狂いもない量の冷や汗が流れていた。
部下たちも、朝廷も、新しく就職してきた東国の巨頭たちもチートすぎて、余の頭脳は完全に置いていかれている。そんな内心の恐慌状態に追い打ちをかけるように、最強の恩恵(福利厚生)で完全ホワイト化された奥御殿から、正室の帰蝶、永高内親王さま、そして立花誾千代が並んで物見櫓へ現れる。
「上様、宮家をどんどん創設して朝廷との繋がりを深めるとは、実に見事な大計画。これで将来、さらに多くの内親王さまや公家の美しい姫君たちを安土へお迎えする『下心』が万全に整いましたね?」
帰蝶の、全てを見透かすような絶対零度の視線が余を射抜く。内親王さまは純真に微笑み、誾千代は「惣追捕使様! この誾千代、新しく作られる宮家の警護職務(最高キャリア)としても粉骨砕身働く所存!」と男勝りに胸を張る。
「ふん、皇統の護持こそ国家利益の最高効率。すべては余の計算の内よ……」
余は震える手で茶を飲み、威厳たっぷりに言い放った。朝廷との絆は万全となり、大航海図の土台は完璧に整ったが、余の胃の寿命だけは、南蛮宣教師コエリョが裏で本国へ巨大船団を救援要請した不穏な影を前に、到底持続可能とは思えぬ領域へ達しつつあった。
(第28話:安房の黒潮を統べ、江戸湾の門戸を国営化せよへ続く)




