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第19.5話(幕間):安土の査問、あるいは西海からの烈風

1:新政庁の冷徹なる詰問


「――余は、デウスの教えそのものを日の本から駆逐せよとは申しておらぬ」


安土の『新政庁』。物見櫓から吹き込む風を受けながら、余は文机を挟んで対峙するバテレンの首魁、ガスパル・コエリョを冷酷な眼光で見下ろしていた。


「お、大いなる惣追捕使様、我が教会の潔白を信じていただき、神の祝福を……」


黒い修道衣をまとったコエリョは、胸の十字架を握りしめ、必死の面持ちで釈明の言葉を並べ立てる。

だが、その額には寸分の狂いもないほどの恐怖の汗が滲んでいた。九州の「闇の流通網(抜け荷の裏路)」を用い、日の本の民を奴隷として異国へ売り飛ばしていた動かぬ証拠を、国家情報省の伊賀衆によって完璧に突きつけられた直後だからだ。


「勘違いするな。布教の自由は認める。されど、条件は三つだ。第一に日の本の民を売買する奴隷貿易の厳禁。第二に大名たちから教会への土地の寄進、すなわち長崎などの領地割譲は100%認めぬ。第三に信仰が国政や軍事に容喙することを一切許さぬ『政教分離』の徹底。これらを約束せねば、南蛮の教えは日の本において合法的に解体し、宣教師どもは一瞬で処分する」


余が淡々と、されど有無を言わせぬ絶対強者の威厳で言い放つと、コエリョは涙を流して「すべて主の御名において誓いまする」と平伏した。


だが――この男の目は、一切笑っていなかった。

コエリョは心の中で「織田信長という男は、我が国の世界侵略を阻む悪魔の化身。一刻も早く、本国スペイン・ポルトガルへ日本の軍事統制を報告し、無敵の巨大船団を呼び寄せてこの国を武力で征服せねばならぬ」と、裏での救援要請の絵図を一分の狂いもなく描いていたのである。



2:女性躍進政府の嵐と、九州の烈女


「――この立花誾千代、惣追捕使様が掲げる世界最強の海洋帝国の礎となるべく、粉骨砕身働く所存にございます!」


新政庁の別棟、『女性躍進政府』の庁舎。

そこには、九州開発総局からの超高額固定給キャリアとして安土へ赴任してきた、立花誾千代の凛々しい姿があった。男勝りの武勇と卓越した算盤の知恵を持つ女傑は、新政庁が用意した最高幹部(信長の側室)としての「婚姻内定書」を大事そうに抱え、やる気に満ち溢れていた。


「まあ、ずいぶんと頼もしい才媛が九州から就職ビルドされてきましたこと」


完璧な笑顔を浮かべる正室・帰蝶。だが、その奥にある眼光は絶対零度であった。副総裁の井伊直虎も「流石は上様、神仏のごとき先見の明……」と目を輝かせつつも、帰蝶のただならぬ気配に息を呑んでいる。


「上様、南蛮の宣教師相手に、奴隷貿易を禁じる見事なハメ手を打たれた直後に、このような美しいお方を身内に引き入れられるとは。……まさか、他に『下心』があってのことではございませぬよね?」


帰蝶の、全てを見透かすような冷ややかな視線が、査問を終えて部屋に入ってきた余の全身を射抜いた。



3:覇王の仮面と、崩壊する胃壁


(……いやいやいや! 宣教師のコエリョの奴、釈明しながら絶対に裏で本国へチート級の救援要請送る気満々の顔してたぞ!? 怖すぎるわ! それだけでも心臓がバクバク言ってるのに、なんで二兵衛は『誾千代を余の嫁にする』人事案を勝手に確定させてるの!? 誾千代の威圧感、噂以上に凄まじくて余のライフが秒速で削られていくんだが!?)


覇王の仮面をガチガチに固定しながら、余の内心は完全なる恐慌状態に陥っていた。


「余の婚姻? 誾千代を妻にするなど、余は一文字も聞いてないぞ!」と心の中で叫び、キリキリと激痛を訴える胃をグッと押さえる。周囲からは、異国の脅威すら完璧な国家計算でコントロールし、有能な人材を手厚い待遇で囲い込む冷徹無比な覇王に見えているだろうが、余の背中には寸分の狂いもない量の冷や汗が流れていた。


「ふん、九州の知恵を安土の近代化に転用する。すべては余の計算通りよ……」


余は震える手で茶を飲み、威厳たっぷりに言い放った。対南蛮の防壁と女性躍進の内政は万全となったが、余の胃の寿命だけは、来るべき世界無双の戦いを前に、到底持続可能とは思えぬ領域へ達しつつあった。


(第20話:坂東の荒野を拓く前に、足元の盤石を敷けへ続く)

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