第19話:西海の鉄甲船、安土の「絶対大義」を布告す
1:九州三国志を覆う、南蛮の黒い野望
「――信長様は、キリストの権威を盾にした異国の侵略を、すべて見抜いておいでだったのだ」
豊後国、および肥前国。九州の覇権を激しく争っていた大友宗麟、島津義久、そして「肥前の熊」と恐れられる龍造寺隆信の三者は、新政庁から送り届けられた『南蛮奴隷貿易の全容報告書』を前に、それぞれの本拠で激しい悪寒に震えていた。
大友らの南蛮貿易の裏で、ガスパル・コエリョら宣教師どもが日の本の領民を「闇の流通網(抜け荷の裏路)」で海外へ売り飛ばしていた動かぬ証拠。キリシタンを嫌う島津や龍造寺すらも、その不純な交易によって日の本の国益と主権が脅かされていた現実に戦慄した。
惣追捕使たる信長様の天下布武は、日本の防衛と国家利益の最高効率を求めた冷徹な計算で動いている。国益を害し、異国への主権侵犯を許す足枷となる者は、どれほど強大な武力を持っていようと容赦なく排除(処分)される。
「大友殿、島津殿、龍造寺殿。刀を収め、安土の国営化を受け入れられよ」
長崎や博多の沖合を、小早川隆景率いる織田海軍省の新型鉄甲船が100%封鎖する中、使者として現れた黒田官兵衛が冷酷な笑みを浮かべた。戦う前に、海の流通も補給も完璧に断たれている絶望。大物価高騰が九州を襲う中、三強はひれ伏すしかなかった。
2:肥前の熊の就職と、雷神の娘
「従う者は近代官僚として活かし、拒む者は合法的に秒速で解体する。これが新政庁のやり方だ」
官兵衛が提示したのは、大友・島津・龍造寺の野良の武力を完全に解体し、政教分離を基本とした「国営宗教法人化」によって南蛮の毒を根絶する絶対の大義名分であった。
大友宗麟や島津義久、そして大軍を誇った龍造寺隆信らは、それぞれ高額な『固定給』を約束された『九州開発総局長』や『西海防衛旅団長』、あるいは山岳や肥前の統治を担う近代官僚のポストへ強制雇用されることとなった。有能なホワイト労働力は一切無駄にしない織田の近代システム。その組織図の中に、ひときわ異彩を放つ名前があった。
「大友家の重臣、立花道雪殿の娘……立花誾千代殿、か」
算盤を弾いていた竹中半兵衛が、手元の書類に目を留める。
誾千代は弱冠にして城督を務め、男勝りの武勇と卓越した統治能力を持つ、九州随一の女性キャリア(天才)であった。
「信長様が掲げる『女性躍進政府』の理念に、これほど合致する人材はおりませぬ。この才媛を安土の新政庁へ直接就職させ、帰蝶総裁の元で国営産院や女性支援の近代官僚として育成すべきです。……いや、日の本の主権を万全にするため、いっそのこと信長様の『新たな婚姻相手』として最高幹部へ据えるのが、最も効率的な包営にございますな」
二兵衛の寸分の狂いもない、あまりに冷徹かつ合理的な婚姻ハメ手。
立花家は「これほどの破格の待遇で娘の才を日の本のために活かしてくださるとは、信長様は神仏の如き先見の明をお持ちだ」と涙を流して感動し、誾千代の安土派遣を即座に承諾するのだった。
3:安土の天より見下ろす冷や汗の覇王
その頃、安土の新政庁。物見櫓から初夏の風を受ける余の胃壁は、限界を超えた大物価高騰を起こしていた。
(……いやいやいや! 九州の南蛮奴隷ルートを塞いで、大友や島津、それにあの狂暴な龍造寺隆信まで丸ごと国営システムに組み込めとは言ったが! なんで二兵衛は『九州一の烈女を余の嫁にする』とかいう超絶チートな人事書を勝手に内定させてるの!? 誾千代ってめちゃくちゃ気が強くて怖いって噂じゃねえか! 容赦なさすぎて内心ガチで動揺と冷や汗が止まらんわ!)
覇王の仮面をガチガチに固定しながら、余の内心はパニックに陥っていた。
国家の最高効率のためなら宣教師を秒速で処分し、大名たちを一瞬で近代官僚へと就職させる――周囲からはそんな冷徹無比な絶対覇王に見えているだろうが、余の心傷はもう限界だ。さらに正室の帰蝶からは、まだ見ぬ九州の才媛赴任を前に、「上様、安土へ来られる立花殿のこと、ずいぶんと楽しみにされておいでですね。まさか、他に『下心』があってのことではございませぬよね?」と、全てを見透かすような冷ややかな視線が突き刺さる。
「ふん、九州の知恵を安土の近代化に転用する。すべては余の計算通りよ……」
余は震える手で茶を飲み、威厳たっぷりに言い放った。九州三強の掌握は万全となったが、余の胃の寿命だけは、来るべき幕間の嵐を前に、到底持続可能とは思えぬ領域へ達しつつあった。
(第19.5話(幕間):安土の査問、あるいは西海からの烈風へ続く)




