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第15話:小田原の算盤、安土の「絶対大義」にひれ伏す

1:三河に届いた冷徹なる最終通告


「――信長様は、北条をただの同盟相手としては残さぬおつもりだ」


三河国。東国開発総督に内定され、領内の兵たん基地化を急ぐ徳川家康は、安土の新政庁から送り届けられた一通の公文書を前に、背筋に冷たいものを感じていた。


織田東インド商会と北条家は、これまで良好な交易関係を結んできた。しかし、惣追捕使となった信長様が目に見えぬ軍勢で西国を無血解体した今、その関係は「国営物流へ強制統合するための都合の良いパイプ(罠)」へと変貌していた。


「殿、安土の二兵衛様が描いたのは、交渉ではなく最終宣告にございます」


本多正信が、冷酷な光を宿した目で地図を指さした。


「信長様は、北条の『民のための政』の実績を高く評価し、これを活かして我らと共に江戸の大都市計画を支えよと仰せです。しかし、もし拒んで独自の交易や独自の関税(闇の流通網)に固執するならば――九鬼・三好・小早川が放つ新型鉄甲船で海の流通を100%塞ぎ、一瞬で小田原を叩き潰して処分する。従えば固定給の近代官僚、逆らえば合法的な解体。北条氏政殿には、その二肢しか残されておりませぬ」



2:小田原評定を打ち砕く「国家の計算」


その頃、相模国・小田原。

北条氏政は、家康を通じて突きつけられた、寸分の狂いもない『江戸大都市計画図』と『経済封鎖・軍事解体計画書』の二枚の書類を前に、激しい悪寒に震えていた。


北条は代々、民を飢えさせぬ善政を誇りとしてけに、織田と戦えば領内が大物価高騰に見舞われ、民が死に絶える未来が明確に予測できた。信長様の天下布武は、日本の防衛(北の不滅の壁の構築など)と国家利益の最高効率を求めた冷徹な計算で動いている。国益の足枷となる大名は、どれほど優れた統治をしていようと容赦なく排除されるのだ。


「……信長様は、我らの民を思う知恵すら、最初から新政庁の組織図の中に組み込んでおいでだったのか」


氏政は涙を流し、拳を握りしめた。

逆らえば家名も民も完璧に消滅する。だが、この絶対的な大義名分に従うならば、己は『東国開発総局長』として手厚い固定給で強制雇用され、家康と共に東国の近代化を担う仲間(官僚)として活かされる。


「民のため、そして北条の血を繋ぐため……この職、謹んでお受けいたす」誇り高き籠城の伝統はここに解体され、北条の統治能力は、織田の巨大な国家システムへと美しく組み込まれていくのだった。



3:安土の天より見下ろす冷や汗の覇王


その頃、安土の新政庁。物見櫓から初夏の風を受ける余の胃壁は、限界を超えた大物価高騰を起こしていた。


(……いやいやいや! 北条に『交易関係を盾にして、少し強めに脅して役職をチラつかせろ』って言っただけなのに! なんで二兵衛は『拒否したら一族諸共秒速で解体する殺害計画書』まで添えて家康に渡してるの!? 容赦なさすぎて内心ガチで動揺と冷や汗が止まらんわ!)


覇王の仮面をガチガチに固定しながら、余の内心は恐慌状態に陥っていた。


必要があれば有能な大名すら一瞬で処分する――周囲からはそんな冷徹無比な絶対強者に見えているだろうが、余の心臓はもう限界だ。さらに越後の上杉謙信からは「北の不滅の壁」としての熱すぎる誓文が届き、正室の帰蝶からは「東国の民を手懐けて、今度は何を企んでおいでですか?」と、全てを見透かすような冷ややかな視線が突き刺さる。


「ふん、北条の知恵を江戸の開発に転用する。すべては完璧な計算の内よ……」


余は震える手で茶を飲み、威厳たっぷりに言い放った。

東国の完全掌握は万全となったが、余の胃の寿命だけは、到底持続可能とは思えぬ領域へ達しつつあった。


(第16話:甲斐の巨星、安土の「高給」に揺らぐへ続く)

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