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第14話:「中国十カ国無血開城と、国家公務員『毛利輝元』」

1. 窒息する吉田郡山城


織田政府が敷いた「西国経済封鎖」が始まってから数ヶ月。中国地方十カ国を統べる毛利家の拠点・吉田郡山城は、未だかつてない静かなる地獄に包まれていた。


「……塩の備蓄が尽きた、だと?」

小早川隆景の問いに、物資の差配を担う国衆が涙を流して畳に額を擦りつける。

「はっ。北の日本海、東の播磨、南の四国すべてを織田の国営海軍(九鬼・三好水軍)に塞がれ、一本の抜け荷(密輸)すら通りませぬ。世界無双の『石見銀山』から銀をどれほど掘り出そうとも、織田東インド商会が銭の流通を止めているため、銀はただの重い石ころと化してございます。領内は塩も硝石も高騰し、民も兵も飢えを前に暴動寸前にございます……!」


武闘派の吉川元春は「織田上総介、正々堂々と力で戦え!」と拳を血が滲むほど握りしめていたが、どれほど戦いたくとも、鉄砲を動かす硝石(弾薬)の流通そのものを完全に握られている。

さらに、信長が皇族との至高の婚姻を内定させたという報が届いたことで、毛利が動けば即座に「朝敵」となり、一族は歴史から抹売ばつばいされるという絶対的な大義名分が彼らの両足を竦ませていた。


「戦う前に、完全に詰まされている……」

若き当主・毛利輝元は、卓の上の空の塩壺を見つめ、ただ茫然と呟くしかなかった。



2. 二兵衛の「お仕事提示」と輝元の決断


毛利領内が限界を迎えたその瞬間、寸分の狂いもない完璧な時の計らいで、安土からの使者が吉田郡山城へと入った。

訪れたのは、最高総参謀局の竹中半兵衛と黒田官兵衛。二人は丸腰でありながら、百二十万石の巨大大名を前に、冷徹な「救済の条件」が記された和紙の手控えを広げた。


「輝元殿。これ以上の私闘は滅びを招くだけ。我が主、惣追捕使・織田信長様より、毛利の一族を守るための『官職ポスト』が下されました。これを受け、日の本の新秩序へお入りくだされ」


官兵衛の不敵な微笑みに続き、半兵衛が穏やかな声で条件を読み上げる。

毛利十カ国の武力を完全に放棄(総武装解除)し、その広大な領地を織田政府直轄の『中国開発総局』へスクラップ&ビルドすること。その代わり、当主の毛利輝元を初代の「総局長(地方長官)」に据え、生涯不変の巨額の定給(固定給)を保証する。さらに、吉川元春には常備軍の「山陰道旅団長」、小早川隆景には国営海軍省の「海軍次官」という最高位の国家公務員の席を用意するという、破格の待遇であった。


周辺の有象無象も容赦なく網に掛かった。

備前の謀略家・宇喜多直家は「朝敵」の威圧と硝石封鎖に身動きを止められ、その謀略の才を『国家情報省(対外諜報部・西国支局長)』として強制雇用された。

毛利への復讐に狂う出雲の尼子勝久や山中鹿介らは、その執念を『石見銀山の最高監察官(鉱山守護旅団)』の固定給で買い上げられ、毛利の真横で相互に監視(牽制)する役目を拝命した。

名門の山名氏らは武力を解体され、高い終身恩賞(年金)付きで安土へ『式部省名誉顧問』として円満に移封された。


「……武を捨てて、国の柱石(公務員)になれと申すか」輝元は震えた。逆らえば一族諸共飢え死に、あるいは朝敵として滅亡。しかし、降伏すれば「中国地方の開発トップ」として、誇りも一族の安堵も、莫大な富も全てが手に入るのだ。


「……毛利十カ国、織田政府の法の元に降る。これより、中国地方の大開発に、我が一族の力を捧げよう」

輝元は静かに刀を置き、涙を流して無血開城を承諾した。

戦国屈指の巨頭であった毛利家と山陰山陽の曲者たちは、一滴の血も流すことなく、織田政府の行政組織へと丸ごと国営化されたのである。



3. 次なる盤面と、海の向こうの不気味な影


毛利十カ国の完全掌握の報が安土の新政庁へ届いた時、信長は執室で信忠を横に座らせたまま、椅子の背にもたれかかって激しい安堵の冷や汗を拭っていた。


(よっしゃあああ!! 中国十カ国の無血開城、ガチで成し遂げたぞ! 石見銀山を丸ごと国営化できたのも美味すぎる! 史実の秀吉みたいに何年も中国地方の泥沼戦に釘付けにされてたら、余の胃は今頃木っ端微塵に吹き飛んでたわ! 輝元くんたちも、戦争をせずに高い固定給と名誉ある長官ポストが貰えるんだから大満足だろ。週休二日制で死ぬ気で道路建設と港湾大開発に励んでもらうからな!)


「父上。これで日の本の西半分、山陰山陽までが織田政府の法の下に組み込まれました。次なる一手は、九州の島津でしょうか?」

十代前半の信忠が、利発な瞳で地図を指差す。

その健気な成長に信長は内心で(ガチ天才、我が息子最高!)と親バカの笑みを浮かべつつ、表情を覇王の仮面へと戻した。


「大友、龍造寺、島津だけではない。毛利を飲み込んだ我が織田政府の富と法は、これより九州を越え、万国の黒い潮の先を見据える」


信長の目は、九州自体を無血でハメる策、そして帰蝶総裁の「人口爆発・女性躍進政府」のネットワークを中国十カ国へ爆速で拡大する内政へと向けられていた。


しかし、東国から畿内、播磨にいたる天下の要衝に続き、西の巨大な雄までをも一瞬で飲み込んだ織田政府の異次元の胎動は、長崎や平戸の港に蠢くキリスト教・南蛮の宣教師、そして海外の植民地侵略を企む「南蛮諸国」の巨大な影を、いよいよ激しく刺激し始めていた――。


(地の文:中国十カ国の無血開城により、西国五カ年計画の第一歩は完璧に成った。だが、海を掌握した織田政府の前に、世界の荒波(南蛮の脅威)が、いよいよその大いなる幕を開けようとしていた――)


(第14.5話:中国開発総局長、安土の「冷や汗」を知らずへ続く)

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