第11話:「神仏の住み分けと、大坂無血国営化」
1. 最後の包囲網と、石山本願寺への宣告
安土の新政庁にて、信長は最高総参謀局の竹中半兵衛、黒田官兵衛、そして国家警察総監となった松永久秀を前に、一枚の書状を認めていた。
大坂・石山本願寺への「最終提案書」である。
すでに古の大権職『惣追捕使』の名の下に、京・摂津・堺の流通は織田政府が完璧に掌握し、西の播磨から北近江の琵琶湖水運にいたるまで、あらゆる物資の裏路(闇の流通網)は塞がれていた。
本願寺の主力となるはずだった雑賀衆も、今や織田の「常備狙撃旅団」として固定給を食む国家公務員である。兵糧も硝石も集まらず、陸路も海路も完全に遮断され、天下の東半分から完全に孤立した本願寺は、戦う前に干上がる寸前であった。
「顕如よ、余は貴殿らと泥沼の私闘をする気など毛頭ない。だが、野良の武力を持ち、国の法に従わぬ宗教の暴走はこれより一切認めん。日の本が一つにまとまらねば、遠からず異国の脅威に飲み込まれるからだ」
使者を通じて届けられた信長の冷徹な宣告に、法主・顕如は安土への出頭を余儀なくされた。
本陣の広間で顕如を待つ間、信長の内心は安堵と緊張の冷や汗で満ちていた。
(ガチで石山合戦が始まったら、比叡山焼き討ちどころの騒ぎじゃなくなる! 史実みたいに十年の長きにわたって門徒と泥沼の宗教戦争なんかやってたら、少子化対策どころか日本の人口が激減して天下布武の前に国が滅ぶわ! 21世紀の世界史の知識をフル活用して、顕如の脳天をカチ割るほどの衝撃を与えて無血開城させる!)
2. 南蛮侵略の真実と、八百万の住み分け
安土の新政庁に引き出された顕如に対し、信長は織田東インド商会が掴んだ異国の冷徹な情勢――「南蛮の恐るべき世界侵略と、キリシタン教徒による日の本の民の奴隷貿易」の全貌を記した和紙の手控えを突きつけた。
「見よ。南蛮の真の狙いは、この日の本を内側から狂わせ、民を奴隷として異国へ売り飛ばすこと。奴らは宣教師を送り込んで民を惑わし、内戦を起こさせて国が弱ったところを武力で植民地化する。しかも奴らは『唯一絶対の神』を信じ、他の一切の神仏を悪魔として焼き払う国々よ。顕如よ、貴殿らが余と不毛な戦をしている間にも、南蛮の牙はすぐそこまで迫っているのだ」
南蛮侵略の凄まじい方程式に、顕如は顔面を蒼白にして身震いした。惣追捕使・織田信長という男が戦っていたのは身内の天下などではなく、海の向こうの巨大な脅威だったのだと、初めて理解したのである。
「日の本は古来より、八百万の神仏が共に生きる国。仏法も神道も、互いを否定せず住み分けてきた。ゆえに織田政府は『政と教え(宗教)の完全なる分離』を基本とする。これより本願寺を『国営の宗教法人』とし、信教の自由は万全に保証する。ただし、武力と関銭の権利はすべて国へ自主返上せよ」
信長の発した「政教分離」の言葉は、戦の概念を根底から覆すものであった。
3. 宗教国営化と、少子化対策ネットワーク
驚愕する顕如に対し、信長はさらに驚くべき救済の策を提示した。
「本願寺の持つ全国の拠点を、これより『国営の孤児院』並びに『国営の寺子屋』の場に指定する。親を失った幼子を一人残さず国費で養育し、読み書きを教え、これからの日の本を支える民へと育てるのだ。これこそが、民を救う真の仏法であろ? 織田政府はこの大事業のために莫大な予算を配分する。僧侶らもみな、国営の教師や実務官として生涯不変の定給を食むがよい」
「おお……これこそは……真の救世……!」
顕如の目から、大粒の涙が溢れ落ちた。
弾薬を絶たれ、逆らえば朝敵となる絶望の淵で、信教の自由どころか、仏法を国の礎(教育・福祉)として用いるという破格の恩賞が下されたのだ。本願寺は一滴の血も流すことなく、大坂の無血国営化を受け入れた。
その感動の光景を冷然と見下ろしながら、信長の内心はガッツポーズで弾けていた。
(本願寺の全国ネットワーク、ガチで有能すぎる! これを一揆の連絡網じゃなくて、戦災孤児を救う孤児院や、子供たちの義務教育を担う小学校に変えてしまえば、一から施設を建てる手間も予算も浮く! 帰蝶や直虎が進めている女性躍進・人口爆発プロジェクトの回覧板ネットワークにそのまま転用できるわ! 顕如くんたちも公務員として24時間ホワイト労働(週休二日)してもらうから、反乱を起こす暇もないだろ。胃の痛みがこれで完全に消えたわ!)
本願寺の無血恭順により、畿内・近国の完全直轄領化、そして東国包囲網は、寸分の狂いもない完璧な計画によって成し遂げられた。
日の本が未曾有の超高速開発に沸く中、信長の目はすでに、次なる毛利・島津といった西国のスクラップ&ビルド、 そして朝廷との「血肉を一つにする絶対的な婚姻」へと向けられようとしていた――。
(地の文:国内の野良の武力は最速で解体された。だが、この巨大なる織田政府の胎動は、遥かなる大海原の向こう、南蛮諸国の大いなる影を静かに呼び寄せつつあった――)
(第12話:「至高の婚姻と、西国五カ年計画の胎動」続く)




