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第9.5話:「大坂の焦燥と、東国大開発の胎動」

1. 本願寺顕如、戦う前の「詰み」に戦慄す


石山本願寺。

全国に数百万の熱狂的な門徒を抱え、不落の要塞とも称されるこの地で、法主・顕如は燃え盛る蝋燭の光に照らされながら、驚愕と焦燥に震えていた。


信長を「仏敵」と断じ、天下の一向一揆を一斉蜂起させるべく、各地へ檄文を発しようとした矢先、集まった報告は全てが絶望的なものばかりであった。


「……兵糧が集まらぬ、だと?」

顕如の問いに、青ざめた坊官が畳に額を擦りつける。

「はっ。織田が京・摂津・堺の流通が止まり、さらに西の播磨まで直轄領化ちょかつりょうかしたため、東西の物流の裏路(闇の流通網)まで完全に塞がれました。我が寺へ運び込まれるはずの米や硝石が、戦う前に全て止められてございます……!」


それだけではなかった。

本願寺の最大の武力となるはずだった紀伊の雑賀衆は、織田の「天下の火縄国営化」の前に銃を奪われ、福利厚生を完備した「常備狙撃旅団」として織田政府に強制雇用(就職)されていた。


さらに、北近江の浅井長政は、琵琶湖の巨大な貿易利権をお市経由で分配され、織田の身内として完全に牙を抜かれている。逆らおうにも、信長はすでに帝から「天下静謐の執行者」としての勅命を得ていた。今や、織田に逆らう者は仏敵ではなく、国家の敵――「朝敵」となる。


「織田上総介……。あの男、我らが弓を引く前に、最初から外堀をすべて埋めていたというのか……!」

顕如は、背筋に氷を押し当てられたかのような戦慄を覚えた。武力で戦う前に、法と銭と大砲の配置によって、本願寺は完全に「詰まされて」いたのである。



2. 三河の家康、行ったこともない「江戸の治水図」に震える


京の宿所に戻った徳川家康は、手渡された和紙の手控え(図面)を前に、冷や汗で小袖をぐっしょりと濡らしていた。


「上総介様は……何故、行ったこともないはずの東国の地脈を、ここまで完璧に把握されているのだ……!」

家康の傍らで図面を覗き込んだ本多正信もまた、顎が外れんばかりに驚愕している。


徳川方は物見の報告により、「江戸」という地がまともな城すら建たぬ泥濘の荒野であるという悪評を掴んでいた。

しかし、信長が差し出した図面には、関東の暴れ川である利根川の流れを東へと強引に変え、広大な湿地を美しき掘割と強固な堤防で埋め尽くした、万国に並ぶもののない大都たいとの姿が描かれていた。

織田の莫大な予算と、最新の土木ノウハウが惜しみなく注ぎ込まれる国家プロジェクトである。


武田や北条の牙は、織田東インド商会の貿易利権によってすでに抜かれている。関東での戦は最初から封殺されており、家康に求められているのは戦の才ではなく、内政と実務の才であった。


「あの御方は、戦国を終わらせ、数百年先の世界を見ておられる。神仏か、さもなくば……」家康は図面を抱きしめ、ガタガタと震えながら誓った。

織田政府の「東国開発総督」として、死ぬ気でこの大都を築き上げてみせる、と。



3. 井伊直虎、女性躍進政府の「先進性」に魂を震わせる


安土の新政庁、その一角に設けられた「少子化対策・女性躍進政府」の執務室。

遠江から悲壮な覚悟でやってきた井伊直虎は、今や目の前に積まれた大量の和紙の書類を前に、目を輝かせて筆を走らせていた。


「国営産院による女子おなごの救済、並びに国営託児所付きの女性キャリア支援……。このようなまつりごとが、この世にあろうとは」

直虎の呟きに、総裁である帰蝶が優しく微笑みかける。

「驚くのはまだ早いわよ、直虎。私たちが目指すのは、この日の本の民を『巨万、億兆の数』へと膨れ上がらせ、万国無双の大国を築くのよ。女がただ奥に閉じこもる時代は終わり、これからは国を支える柱石となるのです」


直虎をハーレム(側室)として弄ぶどころか、一人の有能な「近代官僚」として最高待遇で迎えた織田政府の先進性と度量に、直虎は魂が震えるほどの感動を覚えていた。男たちが奪い合う戦の時代を、この織田政府は内側から完全にスクラップ&ビルドしようとしている。


「この命、帰蝶総裁、並びに織田政府の未来に捧げます!」

直虎が力強く平伏する。


その頃、執務室の影からその様子を窺っていた信長は、胸の内で必死に神仏に祈っていた。


(よかったあああ!! 直虎さんがガチのキャリア官僚として帰蝶と意気投合してくれた! これで余に変な下心がないことも完全に証明されたわ! 下手に側室にして奥に閉じ込めるより、この少子化対策プロジェクトの副総裁(実務トップ)として死ぬ気で働いてもらったほうが、織田政府の生産性が完璧に爆発するからな。頼むから帰蝶、そんな冷たい目で余を見るのはやめてくれ……!)


覇王の仮面の裏で、信長が胃を押さえて冷や汗を流していることなど露知らず、他者たちの視線によって、織田政府の「異次元の恐ろしさと偉大さ」は、いよいよ日の本へと鳴り響いていく。


(第10話:「惣追捕使の謀略と、軍神がひれ伏す朝廷の宸翰へ続く)

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