お次の曲は、森丸くん
キッチンからすぐに戻って来た田無くん。割り箸2本でさえ、トレーにきちんと乗せている。
「じゃ、行ってきます」
受付にいる私に向かってしっかりアイコンタクトをしてきた田無くんの目は、責任感に満ちていた。
その目は去年の年末に、これから団体の予約が入ってるっていうのに次のシフトの子が体調不良で急に来れなくなった時、その場にいた全員が焦り不安が漂う空気の中、『僕このまま延びますよ』と言いにきた時と同じ目をしていた。
あの時はみんなが救われてとても頼もしく思えたけど、今日はその責任感が私を焦らせる。
だって今から割り箸2本を運ぶだけ。そんなかる〜いトレーを運ぶだけなのに彼はかかっている。
変な気を利かせないことを願いながら、田無くんの帰りを待った。
2回目も田無くんはニコニコしながら戻ってきた。何もしてないだろうね、君。
「見てきましたよ」
ニヤリ、じゃないよ。
「どうだったの……?」
「またパインソーダの方が歌ってました。しかもさっきと違う曲!」
まるで特報のようにこちらを指さしながら報告してきた。てか、また森丸歌ってるんかい。
「今度もラップ?みたいな感じではあったんですけど、僕は知らない曲でした。あと、また僕が入ってきたことになかなか気づかなくて」
なんでだよ。そっちが割り箸頼んだんだから、すぐにまた店員が中に入ってくることなど想像できたはずなのに、なんで警戒しないんだ。すぐ次の曲歌ってんだ。
「今回も気づいた途端に顔逸らしてきて。ハハっ。再放送すぎて笑いそうでした」
田無くんだから良かったものの、万が一強烈なファン店員だったらどうしてたんだ。事件を起こして205にいわくのオプションが付く可能性があったんだぞ。
「あと! やっぱり途中から合流した方の人、男性です。今度はハッキリ見てきたんで、間違い無いと思います。イケメンです」
「ありがとう、見てきてくれて」
割り箸2本を置く間に、こんなに情報を入手してきてくれて感謝と共に、こちらは森丸がアイドルであることを知っているので、こうして情報を得ようとする行為が何かしらの罪になりそうで怖い。
そしてそれを何も知らない田無くんにさせているのが怖い。私が指示役になる日が来るとはね。
ていうか、イケメンなんだ。森丸と一緒にカラオケに来るイケメン。こっちに来てから出会った友達なのかな?
同級生時代、森丸と別に仲良くなかったから、森丸の当時の交友関係もさほど知らないくせに、“イケメンの友達”というワードだけで、上京してからの友達だと勝手に判断してしまっているが、多分そうだろう。
上京した主人公が“イケメンの友達”というワードを出した時、地元の友達なわけないもん。
これが叙述トリックってことですか?と思っていたら、田無くんが話しかけてきた。
「さっき行った時に部屋で歌ってた曲、吉村さんなら分かるんですかね?」
「えー、ラップ入ってんだよね? 分かるかな」
「あんま覚えてないんですけど『見つけた六つの〜、レッツゴー!』みたいな歌でした」
…………分かる。
『見つけた六つの星、leat6er go!』って歌ってる。
“見つけた”を跳ねるように歌って、六つと韻を踏んで歌ってたんだ、高野純也が。
森丸。なんで君は、こんなカラオケポップタイムで、レザーのデビュー曲『leat6er go』を歌っているんだ。




