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ノアの掲げる理想の世界  作者: 可借夜
序章 理想の国『王冠』編
25/29

序章25話 ――神を救え――

 ――死にゆく神、メシアを救え――


 この三日間ノアは、夢の中でさえもずっと考え続けていた。

 大前提として神を救うには、神の命の源である信仰心を注ぐしかない。


 ノアからメシアに移すことができればそれで解決したのだが、それはできない。神にとっての信仰心とは、人にとっての血液と同じ。メシアに向けられていない信仰心を注いでしまうと、拒絶反応が起こってしまうのだ。


 よって、神である彼女を救う方法はないというのが、ノアが出した結論だった。


「メシア……」


 腕の中の彼女は、エレノアよりも小さくなっていた。

 目も開いていない。この声も聞こえているか分からない。手を取ったノアの体温ですら、恐らくは。


「メシア、僕を信じて」


 彼女にかけた言葉であったが、それ以上に覚悟を決めるための一言でもあった。

 ノアの右手に握られているのは、メシアから貰い受けた短剣。彼女の心臓へと狙いを定めると、息を大きく吐き出した。


(自分ならいざ知らず、やっぱり手が震える……でももう、やるしかない……!)


 手は震えたままでもいい。自分以外の誰かを殺す嫌悪感が、麻痺していいはずがないのだから。

 短剣を振り上げる。メシアの心臓目掛けて振り下ろす刹那、


「    」


 ――信じてるわ。口だけがそう動いていた。


「……うん。任せて」


 震えは止まらなかったが、躊躇いもしなかった。


「~~~~~ッ!!」


 任せてと言ったのだ。有言したからには実行しなければならない。

 信じてると言われたのだ。信頼を裏切るわけにはいかない。


(メシアを、神を殺して! 人に創りかえる!!)


 人の願いによって生まれた彼女は、体の造りは人と何ら変わらない。確実にノアの手で殺せるよう、心臓を貫いた。


 数日前エレノアを、子供達を殺した時と同じ命を絶つ感触が手から伝わってくる。


(助ける! 絶対に! それが僕の掲げる理想だ!)


 この手でメシアを殺したことにより『生命の鍵』が彼女を創りかえ始めていた。肉体を再構築していき、魂を繋ぎ合わせるいつもの感覚。本来であれば、この際に魔法を強化するなど理想の姿を形創っていくのだが、


(魂が――捉えられない!)


 体は人と同じであっても、魂は人と神では次元が違った。『生命の鍵』が、メシアの魂はまだ肉体に留まっていることを確認してはいるのだが、繋ぎ合わせるといった干渉ができない。


(このままじゃあ、メシアの魂が――ッ!)


 今までは殺してすぐ創りかえていたため、気付く余地がなかった。

 ――魂が肉体から離れ、成仏するまでに十秒。それが殺してから創りかえるまでの制限時間。


(落ち着け! 慌てるな……)


 メシアを殺して三秒経過。

 あと七秒の間に、彼女を救わねばならない。


(肉体は人と神で同じ……それはつまり、人と神の違いは魂の差だということ!)


 残り六秒。

 思考は急激に加速していく。


(ならば! 神の魂を人の魂に創りかえる! そうすれば魂に干渉して、肉体に結び付けられるはず!)


 残り五秒。

 メシアを助けるための理屈は整うが、


(――駄目だ! 次元が違うせいか、時間が足りな――)


 残り四秒。

 残り三秒。

 残り――


「――ッ!! 掲げるは神の誕生! セフィラよ僕に応えろ!!」


 叫びながら、ノアは己の心臓を貫きショック死によって即死する。


 それができると、分かっていたわけではなかった。ただ、無我夢中だった。

 メシアよりも先に、自分を創りかえる。『王冠』中を駆け巡り、第一から第十まで開放していたセフィラを一つに束ね、新たなセフィラを創りだした。


 掲げる理想は神の誕生、隠され次第十一のセフィラ、形態知恵(モードダアト)


(これは……)


 ノアの神性のみを抽出し、一時的に神となる形態知恵は、不可視にして不可触の存在。第一から第十までの全ての理想を叶えられると共に、同じ神性をもつものに干渉ができる。


(見つけたよ、メシア)


 残り二秒。


 神の魂(メシア)へと干渉をし、人の魂へと創りかえる。


(これで――!)


 残り一秒。

 ノアは形態王冠の力を使って自分を殺し、形態を解く。すぐさま人となったメシアの魂を、再構築した体へと繋ぎ合わせた。


(これで……いけるはずだ! たのむ、頼む……頼む!!)


 メシアの手を強く握りしめ、ひたすらに祈りを捧げる。


「くっ、ごほっ、ぅおえ!」


 直後、たった一秒とはいえ、神になった代償がノアの身を襲った。

 全身の神経が爆発したと錯覚するほどの激痛が走る。口から零れる血を、メシアにかからないよう顔を背けるので精一杯だった。


「メシア……」


 口元の血を拭い、目を閉じている彼女の顔を見つめる。

 返事はなく、意識もない。

 ただ――


「よかった…!!」


 ――彼女の生を証明するかのように、心臓の鼓動が鳴り始めていた。


「君を助けることができて、本当に良かった……!!」


 メシアが目を覚ますのも時間の問題だろう。これでひとまずは一安心だ。


 ――ひとまずは、でしかないが――


「ふっ。これはどういう状況だ?」


 ――メシアが神でなくなったことにより、止まっていた時が動き始める――


「なぁ? 神の子ノアよ」


『王冠』の王ヨハネ・ケトラルヒが、支配の粒子を更に解き放ち告げる。


「……ありがとう、メシア。少し、ここで待っていてね」


 メシアの髪を撫でると、ノアは奴へと向き直る。


「ここから先は――」 


 再び短剣で心臓を貫くと、『生命の鍵』を発動した。


「――ここから先は、()の出番だ!!」


 掲げる理想は、理想の実現。第一のセフィラ、形態王冠(モードケテル)

 白髪、蒼白の瞳が特徴的な君臨主は、己を信仰する者の理想を実現する。


「もう逃げることはしない……ここに決着をつけよう、ヨハネ・ケトラルヒ!」

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