20 偽物とオネエ
「白者様がセルフィーンの事をあまり知らなかったのは、そういう理由だったんスねー」
「信じられないわ……でもアンタが言ってる事が本当なら、白者が二人居る辻褄が合うわね……」
「まあ、一応私も被害者だけどねー」
一通り話し終え、それぞれが感想を述べる。
因みに、ヘタレ国王が元凶という事は伏せてある。下手にバラして旅費を返せなんて言われちゃ堪んないからね!
「サブが降臨したんなら、白者様はこれからどうするんスか?」
「んー、これと言って、今までと変わらないかな。王宮で報告が終わったら、一度オズラルドに戻るよ」
「オズラルドに何かあるんスか?」
「白者マニアの婆ちゃん……最強の魔女にサブの事を聞いてみようと思う。誕生の経緯もそうだし、見た目が中途半端なのも気になるしねー」
「『中途半端』は余計よ! でもそうねぇー、アンタはもうオズラルドには戻れないわよ」
「は? 何で?」
「偽物白者には、今ここで消滅してもらうからよ。本物のアタシが降臨したからには、偽物は用済みってワケ」
いや、何怖い事言っちゃてんのコイツ……。
「なんでそうなる!」
「そうッスよ! 白者がいつも一人である必要は無いと思うッス。二人居た方が、何かとお得かもしれないッスよ?」
「お得って……アンタねえ。アタシはセルフィーンの番人よ? 白者は常に一人しか存在しない、それがこの世界の理。不必要な異分子を処分するのも、白者の仕事よ」
異分子、ねぇ。その異分子を作ったのはセルフィーンの人間なのに、随分と勝手な言い分だ。
「私は消滅する気なんて無いよ。こっちの生活も結構気に入ってるし」
「アンタに存在されると、アタシが偽物扱いされて困るのよ。別に消滅したところで、魂はチキュウとか言う異世界に戻るだけなんでしょ?」
「ヤダね」
「往生際が悪いわね! セルフィーンはアタシに任せて、アンタはサッサと消えなさいよ!」
「絶対いや――うおっ」
危なっ。いきなり攻撃魔法仕掛けてきやがった! 常人より身体能力が上で良かったー。
「何やってるんスか! 白者同士で戦うなんて馬鹿げてるッス!」
「ふん、大人しく殺されれば、戦う必要なんて無いのよ」
「へぇー、どうやらこっちの意見は聞いてもらえそうにないね。ボインちゃん、出来るだけ安全な場所まで離れてて」
「でもっ」
「小娘、死にたくなかったらアンタは引っ込んでなさい」
「うう、分かったッス……」
ボインちゃんは心配そうに何度も振り返りながら、森の方へ走って行った。
近くに人里も無いし、この開けた場所なら少々デカイ魔法をブッ放しても大丈夫だろう。
さて、売られた喧嘩は買いましょうか。
「死ぬ覚悟は決まったかしら? 白者を名乗るのはアタシだけで充分なのよ!」
サブはそう言って右手を突き出し、無数の光の矢を放つ。
「あらよっと」
唇ズの力を借りて、瞬時に結界を張る。
奴は本物なだけあって、最初から色んな魔法が使えるようだ。私は使えるようになるまで大変な努力をしたのに……あー、なんか腹立ってきた!
「ちょっと! 妖精を二体も使うなんて卑怯よ!」
「へっ、命を賭けた勝負に、卑怯もへったくれも無いっつーの」
「汚い手口使うなんて、所詮偽物は偽物ね」
『光ある所にぃー(影があるぅー)
どんよりぃー[闇の力でぇー]
押し潰せぇー(押し潰せぇー)[押し潰せぇー]』
歌い終えると、大蛇の形をした黒い煙が現れた。そいつは素早い動きでサブの体に巻き付き、じわじわと締め上げる。
勿論これだけじゃ終わらせない。奴は曲がりなりにも白者、容易に倒せない事ぐらい想像がつく。
『大きな岩でぇー
嗚呼ー プチッとな!』
頭上に巨大な岩が出現し、身動きが取れないサブに向かって落下する。
「ぐっ、こんなものっ」
彼は光魔法で闇の大蛇を相殺して、目にも留まらぬ速さで岩から離れてしまった。どうやらスピードは私より上らしい。
標的を失った岩は、そのまま地響きと共に地面へ落下し、砂塵を巻き上げながら砕け散る。
「今度はアタシからいくわよ!」
先程の砂塵で視界が悪い中、どこからか声だけが聞こえる。と同時に、大量の小さな火の玉が飛んでくる。
『下手な鉄砲ぉー(数撃ちゃ当たるぅー)
上手な鉄砲ぉー[全部当たるぅー]』
巨大なつららを沢山作り、相手の魔法に向かって一斉に飛ばす。
つららは火の玉を全て蹴散らせながら飛んだが、サブは素早い動きでそれら全部を避けたようだ。えーい、ちょこまかと鬱陶しい!
「カトリーヌ、あいつの動きを止めて。マイケルは私の魔法が当たらないようにカトリーヌを守って」
([りょうかぁーい])
「おいこらウ○コ野郎、ここまでおいでー」
「誰がウ○コ野郎ですってぇー⁉︎ 偽物は品の欠片も無いのねっ」
私が魔法で気を引いてる間に、カトリーヌがサブの背後に回る。
よし、今だ! そこで動きを止めてしまえー!
――ガブッ
「いだぁぁぁぁー⁉︎」
……カトリーヌがサブのお尻に噛み付いている……。
「魔法じゃなくて、噛み付き攻撃なのか……」
[おー ハニィー 美しい勇姿だぁー]
逃げようとするサブの体に、ガブガブ噛み付く大きな唇……変なホラー映画みたいだ。
おっと、こうしちゃいられない。デカイの一発ブチかましたるでぇー!
『土と氷と風がぁー
矢になりオカマは穴だらけぇー』
三種類の矢が、サブをグルリと取り囲むようにして放たれる。
フハハハハ、これなら逃げられまい。
「いだだだだ! んもう! 何なのよコレ⁉︎」
奴はカトリーヌを振り払い、浮遊魔法で空へと逃げた。くそー、飛ぶのも自由自在かよ!
「もう怒ったわよ! これでも喰らいなさい‼︎」
上空から火と風の槍が降り注ぐ。結界で防いだものの、槍の数が多過ぎて全部は防ぎ切れない。
「いってぇー! あっちぃー!」
致命傷にはならなかったけど、あちこち切り傷と火傷だらけだ。ぐぬぬぬ、許すまじ!
「マイケルっ、あの五月蝿い小蝿を叩き落としちゃいな!」
[任せるがいいー]
私の浮遊魔法じゃ空中戦は不利だけど、地上に降りてきたらコッチのもんだ。今度こそ仕留めてやる!
さあマイケル、サッサとそいつを撃ち落としちゃいなっ。
「なっ⁉︎ また来たわね、この忌々しい妖精!」
サブが魔法で追い払おうとしたけど、マイケルの攻撃の方が早かった。
[カーーッ、ペッッ‼︎]
「ぎゃあぁぁー! ばっちい‼︎」
……噛み付きに引き続き、今度はまさかの痰攻撃。しかもオヤジ張りの演出だ。
[カーッ、ペッ! カーッ、ペッ!]
「イヤアァァー! なんなのコイツー‼︎」
想像してみて欲しい。幅が50センチ以上もある口から生み出される痰の量を。
みるみる痰まみれになっていくサブ……きっと地上に降りるまで、攻撃は止まらないんだろうなぁ。
マイケルだけは敵に回しちゃ駄目って事がよく分かった。
「ちょっとアンタ! 妖精にどんな教育してんのよ⁉︎」
「いや、何もしてないけどね……」
止まない痰攻撃に精神がやられたのか、フラフラしながら地上に降りてこようとしている。……チャーンス!
『ばっちいウ○コはぁー(臭いのよぉー)
水洗トイレにぃー(流しましょー)』
サブが降り立とうとしていた地面から、特大の水柱が上がる。クジラの潮吹きよろしく、何度も空高く打ち上げられるオカマ。
水だって激しく打ち付ければ強力な鈍器になる。幾ら丈夫な白者でも、まともに食らえばタダじゃ済まないだろう。
奴の意識が飛んだところで、仕上げに見えなくなるまで吹っ飛ばす。
「フハハハハ! 勝ったどぉーー‼︎」
([大勝利ぃー])
勝利の雄叫びと共に地面に横たわる。つ、疲れたぁー!
*
あれから暫く横になって休んでいると、ボインちゃんが意識の無いサブを引き摺りながら戻って来た。これといって大きな外傷も見当たらないし、消滅もしていないから恐らく気を失っているだけなのだろう。
「コイツ、どうするッスか?」
「そんな物拾ってきちゃいけません。元あった場所に捨ててきな」
「……飼っちゃ駄目ッスか?」
「毎日散歩に連れてくの大変だよ? 餌代だってどうするつもり?」
「餌……いい加減この冗談、辞めないッスか?」
「えー、折角気分が乗ってきたところなのにー」
彼女の話によると、サブは水柱で打ち上げられた後、森に落下。木の枝に引っ掛かっていた所を回収してきたらしい。
地面に叩き付けられる事も、木に突き刺さる事も無く引っ掛かるとか……悪運の強い奴め。
水柱のお蔭で、痰まみれの体は綺麗になっていたけど……びしょ濡れでカトリーヌの歯型だらけだし、土や葉っぱが張り付いていて酷い有り様だ。
まあ、そう言う私も傷だらけの煤まみれだし、酷い有り様なのはお互い様か。
「今は気絶してるだけっぽいッスけど、消滅させた方がいいんスかね……」
「うーん、ここまで悪運が強いのもコイツの実力だし、無抵抗の相手にトドメを刺すのも気が引けるなぁ」
「起きたらまた襲ってくるんじゃないッスか?」
「その時はもう一回叩き潰すまで!」
「白者様がそう言うんなら、アッシも別にいいんスけど……」
そこでふと、少し気になっていた事を思い出した。
「ところでさ、私が作り物の白者だっていうのは分かったよね? それでもまだ私と一緒に行動するの?」
「へ?……白者様が何者でも、アッシの友達に変わりは無いッス。だからこれからも今まで通りッスよ」
彼女は、さも当然といった表情でそう言い切ってしまった。
「……そっか」
「ほら、傷の手当てするッスよ。早く魔石を出すッス」
気の所為かもしれないけど、傷に当たるボインちゃんの魔力が少し温かい気がした。
「う……ん……?」
「お……モグモグ……負け犬の……ムシャムシャ……お目覚めだね!」
「誰が負け犬よ‼︎」
「それだけ元気ならもう大丈夫ッスね」
私の手当てが終わった後、ボインちゃんは律儀にサブの手当てまでしたらしい。……コイツはちょっとぐらい怪我してる方が静かなんじゃね?
「アンタ、さっきから何食べてるの?」
「生肉だよ……モグモグ……魔法いっぱい使ったからお腹が空いちゃって……ムシャムシャ……サブも食べる?」
「要らないわよ、そんな気持ちの悪い物。でもアタシもお腹空いたわ。降臨してから何も食べてないし」
サブの主食って何だろう? 確か、本物の白者は本能で食べられる物が分かるんだよね?
興味津々で見ていると、彼は私の隣に座って前置き無しに食事を始めた。
「全く……モグモグ……このアタシが……ジャリジャリ……あんなふざけた魔法で……ガリガリ……負けるなんて!」
「……ねえ、それって美味しいの?」
「うっさいわねっ。アンタには関係無いでしょ⁉︎」
「全然美味しくなさそうッス……」
ボインちゃんがそう言うのも無理はない。だって、サブが食べているのは……土。手近な土を掴み取り、そのまま口へ運んでジャリジャリ……。
私の生肉や虫も大概酷いと思っていたけど、コイツは土かぁ。最早食物ですらない。
「お互い食べ物には苦労しますなー」
「アンタみたいな生肉齧ってる野蛮人と一緒にしないで頂戴」
ケッ、可愛くねーの!
奴は余程お腹が空いてたのか、悪態をつきながらも食べる手が止まる事は無い。
…………。
「あ、さっきそこで犬がオシッコしてたよ」
「ブッホゥッ‼︎」
ヘッ、ざまあ!
「さ、食事も終わった事だし、ミカン団長に報告しに行きますかー」
「サブはこれからどうするんスか? やっぱ今までの白者みたいに、降臨した場所に暫く留まるんスか?」
「あの聖域の魔力は回復したみたいだし、もうアタシがここに留まる必要は無いわ」
「じゃあどうするんスか?」
「……白者と一緒に魔女の所へ行くわ。アタシの耳の形や、髪と眼の色を治す方法見つけなきゃ」
「……今、私の事『白者』って言ったね? 自分がサブだって認めたね?」
「ニヤニヤしてんじゃないわよっ。アンタなんて白者として認めてないし、名前が同じだとややこしいから仮よ、仮!」
そう言うと、サブは耳まで真っ赤にしながらそっぽを向いてしまった。……ははーん、これがツンデレってやつだね?
「素直じゃないッスねー。正直に白者様と一緒に行動したいって言えばいいッスのにー」
「へぇー、そうなんだー」
「気持ちの悪い顔するんじゃないわよっ! アタシが一緒に行く理由は、アンタみたいなガサツな白者を見張っとく為よ!」
ホント素直じゃないねぇ。ま、素直なサブっていうのも気持ち悪いから、下手にツッコミを入れるのはやめておくか。
「あ、そうだ。私が話した秘密は、他言無用だよ。この世界に混乱を招きたいなら話は別だけど、そん時は私が全力で潰すからヨロシク」
「白者様を敵に回すなんて恐ろしい事、アッシには絶対無理ッス……」
「言わないわよ。白者を作れるなんて知れ渡ったら、アンタみたいなのがウジャウジャ……考えただけで吐き気がするわ」
若干引っ掛かる言葉が聞こえたような気がするけど、まあ黙っててくれるならいっか。




