VS 巨大蝙蝠
剣を構えると暦もアンコウモドキを手放し槍を構える。体が震えているのが心配だが、やる気だけは認めておこう。
巨大モンスターがいるかと思ったがどうにもだだっ広い空間が広がっているだけで魔物一匹すら見当たらない。
不審に思いながらも宝箱に近づく。
暦に警戒を任せ宝箱を剣で軽く突く。
まさかとは思うがミミックなどのニセ宝箱かもしれないからだ。
しかし、反応が無いところを見るとどうやら普通の宝箱らしい。
もしかしたらここのボスは既に倒されているのかもしれない。
罠に気を付け開いてみると、粉の入った薬瓶が大量に詰め込まれていた。
宝箱の上蓋内側には何かメモが張られている。使用説明書だ。
細胞外マトリックスの使用について。と書かれたメモを手に取り軽く目を通してみる。
この粉は肉を再生する魔法の粉であり、切断部に付けるだけで骨や肉を蘇らせることが出来る。
万能の薬とはいえないが、体の一部を失くした者にとってはかなり重宝する粉である。ただし、古傷に振りかけても元には戻らない。
胡散臭くはあったが内容はともかく使えそうな事は確かだ。
テレビで聞いたことがある気がするのでおそらく本当に魔法の粉と呼べるものだろう。
確か豚の睾丸から出来ていたと聞いたことがある。
「ま、詰めるだけ詰めて帰……」
宝箱を開いたまま暦に向き直った俺に突風が吹きかかる。
それと同時に振り返った俺の体に暦の体が飛び込んできた。
「暦っ!?」
「だ、大丈夫」
抱きかかえられたからよかったが、背中から受け止めていたらガラス瓶の山の中に勢いよく頭突きしていたところだ。
何が起こったのかと暦が飛んできた方を向けば、巨大な蝙蝠がいた。
「突然上から降ってきたの。風圧で飛ばされただけだから」
上と言われてみれば確かに四、五メートルある天井。
巨大蝙蝠が隠れるのにはちょうどいいかもしれない。
しかし、この部屋自体が巨大蝙蝠には狭いようで、体を反転させる事は出来ても自由に飛びまわる事は出来そうに無い。
巨大蝙蝠は雄たけびとも超音波ともつかない声を発して上を見る。
どうやら俺たちには気付いてないようだ。
いや、気付いていても感心が無いのだろう。
やり過ごせるならばやり過ごしたいが、残念なことにドアは開きそうに無い。
こいつを倒さない限り出られないだろう。
「この大きさだと手榴弾一つじゃ致命傷にならないな」
「で、でも槍や剣よりは……」
体勢を立て直した暦に頷く。
確かに投具である手榴弾の方が有効だ。
散弾銃でもあれば楽に倒せるのだろうが、まずは両足、翼と破壊していくしか無さそうだ。
「しかし、なんでこうボスは巨大生物かな……」
まだ蝙蝠や鼠だからマシではあるが、蛇や肉食獣がボスとして現れたら手榴弾でも戦えるかどうか。
蝙蝠は危険感知能力が高いはずなので、下手に投げても避けられる可能性がある。
暦とタイミングを計り、足の付け根辺りを狙い二人同時に手榴弾を投げる。
すぐに気付いた巨大蝙蝠が飛びあがるが、狙い通り、足の指に手榴弾が触れ、タイミング良く爆発する。
強烈な熱風に煽られ暦がまた俺に体当たりを食らわせてくるが、宝箱に背を預けて受け止める。
巨大蝙蝠の悲鳴。耳が痛くなるほどの低周波に思わず耳を塞ぐ。
巨大蝙蝠はバランスを崩し地面に叩きつけられ、しかし足を失い上手く立てない。悲鳴を上げながら恨めしそうにこちらを睨む。
「ちょっと卑怯臭いが、戦闘開始だ。行くぞ暦」
「う、うん」
巨大蝙蝠の顔に怯え、青くなりながらも巨大蝙蝠の翼に手榴弾を投げつける。
再び爆発。両の翼もがれた蝙蝠はじたばたと暴れるが、両手足を失っている状態では満足には動けていなかった。
暦は震えながら槍を握り突撃する。
巨大蝙蝠の目玉に思い切り突っ込んだ。
二人で決めたのだ。暦を立ち直させるには彼女自身が何かを倒すべきだと。
殺すことを覚えなければこのサバイバルゲームは生き残れない。
突き立つ槍に巨大蝙蝠は更に絶叫を迸らせる。
きっと暦はあの嫌な感触を味わっているはずだ。
突き入れたまま行動を止めた暦に、俺はすかさず声を張り上げていた。
「暦っ、何も考えるな、今はそいつを倒すことに集中しろっ」
ハッと我に返ったように槍を引き抜き距離を取る暦、震える手に力を入れ、今度は逆の瞳を突き破る。
おぞましい感覚にくじけそうになるが、それでもさらに引き抜き気合一撃、巨大蝙蝠の額に思い切り突き刺した。
蝙蝠が暴れる。
暦は涙を流しながらゴメンなさいと呟く。
生物を殺す行為におかしくなってしまいそうな自分に言い訳するように、何度も何度も呟き続け、逆に槍に力を込めていく。
しばらくもがいていた巨大蝙蝠は、やがて力尽きたように動きを緩慢に、ついに動かなくなった。
命が消えた感覚が伝わったのか、緊張が解けたように槍から手を離すと、暦は大声上げて泣き出す。
堰を切ったように涙を流し巨大蝙蝠の亡骸に擦り寄る暦に、俺は近づいていく。
流石に罪悪感が湧き上がった。
彼女に殺しを体感させたこと、小さな子を引き返せない場所に連れてきてしまったことが今更になって俺を苛む。
守ってやればよかったんじゃないかって、彼女を安全な場所に置いて自分達が手を汚していればよかったんじゃなかったかと、こんなことをしなくても暦を立ち直らせられたんじゃないかと後悔が押し寄せる。
「暦……」
俺の言葉にビクリと肩を震わせる。
泣くのを必死に堪えて振り返ってきた。
涙と鼻水塗れの顔はお世辞にも可愛いとはいえないが、俺は近づき頭を撫でる。
「悪かったな、お前に任せて」
「大……丈夫。お兄ちゃんは私の為に任せてくれたもん」
鼻を啜りながら暦は項垂れる。
俺は目線を暦と同じ位置に会わせ、「よく頑張った」と笑みを浮かべる。
暦が抱きついてくる。
ベチャリと服に付く感覚に嫌悪感を覚えたが、されるままに暦を抱きしめてやる。
再び泣き出した暦が俺の服で鼻をかんだりしたが、気付かない振りして頭を撫でてやった。
久我山環架
装備:ショートソード、皮の鎧、皮のベルト
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖、ガスマスク、煙球
万能回復薬
魔法:爆裂魔法(手榴弾)× 8
所持金:4630L
高杉暦
クラス:槍兵
装備:鉄穂の槍、レザーベスト
所持アイテム:火炎の杖、雷鳴の杖、万能回復薬
魔法:爆裂魔法(手榴弾)× 1
所持金:0L
松明 × 8
シウレスの森地図 × 1




