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リアルRPG  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三ステージ 裏切りのPK
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勇者の役割を演じる為に

 木製のドアノブをカチャリと回し、少し開いたドアを体を反転させて尻で押し開く。


「やっと帰ってきたのか」


 疲れきったような雄一がベットから起き上がり、声を掛けようとして、あんぐりと口を開けて硬直する。

 目の前に現れたのはおそらく俺のケツ。

 ついでに足でドアを開けきると、一度外に戻って横向きに部屋に入る。


 部屋は結構広かった。

 パーティーを組んだ団体様用の部屋で、10人分のベットが用意されている。

 風呂は露天風呂で男女別。屋上に設置されているらしい。


 トイレとシャワーは部屋に完備されていて、テレビこそ付いてないものの充実した宿屋だと思う。

 トイレとシャワー室は宿屋の構造上ヒノキで出来ていて、露天風呂こそ行ってはいないが、受付の黒服から説明を聞いた限りではヒノキの露天風呂らしい。


 俺が部屋に入ると、ベットの上で雄一が震えるように手を上げて俺を指差してきた。

 正確には俺の腕の上にいるナスカをだ。

 なんか羨ましいという表情ではなくありえないといった顔だ。


「わ、環架……重くないのか」


 ようやく落ち着いたのか、乾いた声で呟く雄一に、意外に軽かったと本人が聞いたら失礼な返事をして、俺は空いたベットにナスカを寝かせた。

 いや、確かにもっと重いと思ってたんだけど、ここまでくるのはなんとか大丈夫だった。とはいっても腕はかなり筋肉痛気味だけど。


「それって、アレだろ。男の夢。英雄やダンディなヤツ専用のお姫様抱っことかいうヤツだろ?」


「いや専用かどうかは知らんけどよ。背負ってくる方がなんか失礼な気がしてな」


 すると雄一は押し黙り脳内シュミレートを開始。

 おそらく二次元キャラと自分を俺とナスカに重ね合わせたのだろう。


「た、確かに胸が後頭部に当たるな……」


「だろ? ゲームとかだと当たり前のようにやってるけど、現実にやると洒落にならん。前が恐ろしく恥ずかしいことになって歩けやしねぇし」


「生理現象だしね、そんなので街中は歩けないか」


「ああ。つーわけでこの方法で帰ってき……」


 なんとなく、視線が刺さった。

 視線を感じる方向に首を向けると、部屋の隅で三角座りしている女の子が一人。


「暦……?」


「どうにも拗ねちゃってさ、僕はどうしたらいいのか。ゲームならいろいろ選択肢がでてきて選ぶだけで機嫌がよくなるだろ。でも現実じゃそうは行かない」


 暦は扱いきれないと、雄一は放置することにしたらしい。

 まぁ、彼女の気持ちはわからなくもない。

 怖い思いをしたうえに兄から役立たず呼ばわりされたのだ。

 そりゃ引きこもりたくもなるもんだ。


 俺はどうしたものかと頭を掻く。

 でも事態は放っておいても好転するわけじゃない。

 誰かがやってくれるわけでもないので、俺が何とかするしかないわけだ。


 やってらんないよな全く。ボタン操作一つや他人が行ってくれるならまだしも、なんで自分が動いて人を慰めないといけないんだ。

 とはいえ、落ち込んだ暗い表情の暦を見るとどうにも辛いものがある。

 俺は仕方なく暦の傍に向かった。


「あ~……と、やっぱ啓介の言葉はちょっときつかったよな」


 暦は俺をじぃっと見たまま動かない。なんともやりにくい相手だ。

 隣に腰掛け頭に手を乗せる。

 なんとなくは彼女の思いも分かるのだが、どうにも声のかけ方が分からない。

 果たして気楽に同情していると言ったところで、彼女がどう思うだろう?

 下手な気休めは意味がない。


 途方に暮れたくなる思考を、錆付いた蒸気機関車に石炭詰め込んで無理矢理走らせるようにフル回転させる。

 煙吹きまくり何時壊れてもおかしくない状態だった。

 しばらく何もしないでいたのは、結果的にはよかったのだろうか?

 暦が小さな声を洩らす。


「邪魔だって……」


 もう、言葉が涙声で震え、何時泣き出してもおかしくない声。

 すんでのところで涙を押し止め、気丈に振舞ってはいるものの、限界は近い。


「お兄ちゃんに、邪魔だって……」


 俺は啓介の言葉を思い返す。

 確か邪魔だとは一言も言ってなかったはずだ。

 確かにあの時は邪魔にはなっていたかもしれないが下手に戦場に突っ立たれて死なれたくないと思っての……じゃない。


 そういうことじゃなくて、理由なんかどうでもいいんだよな。

 とりあえず元気付ける言葉を捜して言ってやるだけで元気に……

 ああもう、本当に面倒くさい。

 誰にも邪魔されず家でゲームしてごろ寝して平和な日常を過ごす人生だった俺が、なんで他人元気付ける為にこんな苦労しなけりゃなんないんだ。


「私……役立たず? 居ない方がいいのかな」


 ちくしょう、ウジウジされるとなんかイラついてくる。

 雄一は丸投げしてくるし、ナスカは酒だかブドウジュースだかかっくらって寝てるし、当の啓介はバッタと買い物いって妹ほったらかしてっ、なんで俺がこうも他人の面倒ばっか見せられなきゃならない?


 だけど、と思い直す。

 これも……ゲームだ。勇者は誰にも優しく誰をも救う存在だ。

 はぁ、俺って勇者向いてないのかな?

 なんだか全部投げ出してここのベットで一ヶ月寝過ごしたいとか思えてきた。


 でもこのまま全て投げ出したりしたら暦のヤツ心配だし、この二人に付いてくるかっていったのは俺自身だし、最後まで責任もってやらないとダメだよなぁ人として。

 どうせこのゲームみたいな世界じゃ俺はキャラを演じるしかないのだ。

 塞ぎこんでぬるま湯につかっているわけにはいかない。


 頭の中で出した結論に、はぁ~と大きく溜め息を吐いた。

 自分の塞ぎこみに呆れられたと思ったらしい暦が不安そうな顔をする。

 俺はもう、どうにでもなれと暦の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。


「ふぁっ!? ひゃぁぁぁぁぁ!?」


 頭が強制的にメトロノーム化して目を回し始めた暦。

 あまりやりすぎると首がもげそうなのである程度撫でてから立ち上がる。


「そら、行くぞ」


 訳が分からないといった顔で見上げてくる暦に、手を差し伸べる。

 自分で自分のことを偽善者とかクサいヤツとか蔑みたい気分だったが、なんでもない風を装って笑顔を見せておく。

 戸惑いながらも暦は俺の手を見つめ、自分の手を近づけようとしては引っ込める。


「自分が役に立たないと思うなら役に立つようになればいい。付いて来い暦」


 歯の浮くような台詞に心がむず痒く、その場で転げまわりたくなる。

 でも、やっぱりゲームの世界だからなのか、単に彼女にとって救いの言葉なのか、暦は恐々手を握り立ち上がる。

 小さな柔らかい手を握り、俺は暦がベットから降りるのを待つ。


「雄一、そういうわけで後頼む。ナスカ襲うなよ」


「誰が襲うかっ。っていうか僕が動けないってこと分かってるだろっ」


 怒鳴るような雄一にはははと笑って部屋を出る。

 雄一も怒った顔から一変。任せたぞ。みたいな顔をしていた。

 頼られるのは悪くないんだが、ふとゲームから現実思考に戻るとつい思うんだよな、こんな馴れ合い、ただの偽善なんじゃないかって。


 いい人ぶってる自分に吐き気がしてくる。

 でも心地よいと思う自分が居る。

 このゲームのような世界なら、自分のなりたい自分になれそうな気がして、ついそういう行動を取ってしまっている自分を見つけて、今、この時を幸せに思ってしまうから、他人にもその幸せを分けてやりたいなんてフザけた感情が生まれている。


 フザけていると思いながらもそう行動してしまうのは、キャラクターを演じることが心地よいからに過ぎない。きっとそうだ……

 暦の手を引っ張って外に出たのも、その一環だろう。

 俺は自分が楽しみたいから仲間を立ち直らせる。

 人としては最低だな、全く。

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