酔っ払いと好感度イベント?
「お前、またこんな場所に……」
酒場の一角にいたナスカを見つけ、俺は肩を落として向かいの席に座る。
手には琥珀色の液体の入ったグラス。
テーブルには魚のムニエルが半分食べられた状態で置かれていた。
雄一は動けないので宿で休息中だ。
全員でいの一番にお金を換金すると即座に宿に向った。
雄一から離れようとしない暦も一緒だった。
バッタと啓介は町を見回っている。
クエストを受けに行こうとしつこい程に言ってくるバッタに休憩をさせる意味で食事の買出しを頼んだのだ。
さすがに着いた早々クエストなどを受ける気力は皆には無かった。
俺もバッタたちと一緒に行こうと思ったのだが、ナスカが一人勝手にどこかへ行くのを目撃したため追跡した。
まさか酒場で一杯やってるとは思わなかった。
酒場手前で見失ったものだから周囲の店に顔出したりで発見が遅れたんだ。
「奇跡よね……」
両手で頬杖を付きながら、ナスカはグラスを眺める。
「あん?」
「ちょっとね。一人で考えたかったのよ。いくらゲームじみたものでもやっぱりあんな大群相手にたった六人よ? 現実ありえないのよ」
確かに、それは俺にも不思議なところだ。
あの包囲網の中、いくら敵の動作が鈍いからと1000体以上いたオークに囲まれて突破など、三国志の趙雲の単騎駆けでもあるまいし。
素人の俺らが、まして荷車引きながら無傷で全員生還という事態。
奇跡以外になんと呼ぶ?
「そもそもこんな異常発生してる町に辿り着けるわけないじゃん。主催者側が明らかに手を抜いてるに決まってる。無理矢理通ろうとしないとこの街には来れないのよきっと」
箸でムニエルを摘み口に放り込む。
ナスカはもぐもぐと口を動かしながら俺に箸を向けた。
「環架、君は多対一で戦ったのこれが初めて?」
「そりゃ、親父狩りにでも合わない限り初めてだと思うぞ」
「私は違う。通った剣術道場の先輩にね、新人を痛めつける儀式みたいのやらされたの」
思い出すのも嫌だという様子でしかめっ面をして、グラスを傾ける。
「たった六人くらいに囲まれただけだった……」
グッとグラスの中の液体を一気にあおる。
「なのにッ!」
言葉と共に勢いよくグラスをテーブルに置く。
辺りに響くテーブルの悲鳴に身を竦ませた俺を、ナスカは睨むような視線を向けてきた。
「手も足も出なかったのよッ! この私が! いくら習い始めだったからっていってもさぁ、私お爺ちゃんに本物の剣術習ってたのよっ。おかげで現実逃避癖ついちゃったじゃない。あいつらのせいよゲームに填まったのはぁ……責任取ってよ責任を」
何だこれ? テーブルに突っ伏しそうな勢いだ。
泣き上戸なのか? つーかワインなんか飲むなよ学生が。
「あによ? これは白ブドウジュースよ。当然酔ってなんかないわよ」
まるで近くにいたヤツに誰彼構わず絡んでくる酔っ払いのような座った眼つきで言われても説得力はなかった。
「ともかく、ファンタジーも現実にあるとさ、嫌な世界でしかないわな。これぇ私のだした結論。つーか打倒バッタ。彼氏欲しい! ほしいぞ~っ」
もはや会話すら成立不能の言葉の羅列に変わっていた。
ムニエルを肴として平らげたナスカはテーブルの隅に皿を避け、突っ伏すように顔を伏せると、くーくー寝息を立て始める。
始めは狸寝入りかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
突っついてみても起きないので完全に寝入ってしまったようだ。
通例な酔っ払いの行動どおりのナスカをしばらく見ていたが、さすがにこのまま帰るわけにも行くまい。
一人残して何かあったら大変だし、ここは宿屋に連れて行くべきだろうか?
あれ? ってことは俺が運ぶのか?
周囲を見回す。
俺たち以外にもオーク集団を抜けてきたのか強面の男たちがちらほらと見受けられる。
こんなところに眠ったナスカを放置するなら男として最低だろう。
かといってバッタや暦のような小さな子ならともかく、ナスカは自分と同じくらいの体重なはずだ。
しかも胸がかなりある。
背負って帰ったら俺自身が嬉し恥ずかし、でも後々地獄な状況に追い込まれるだろう。
でもゲームの勇者としてはこれはこなさねばならないイベントだ。
ナスカ攻略には欠かせないイベント……ってバッタという彼女が居るのに攻略してどうする。
そもそもこれは現実だから攻略とかそういった見方で考えられるもんじゃないし……
混乱してる。現実味のない状況に俺までが混乱し始めてる。
落ちつけ。落ちつけ俺、これは現実、現実だ。
でも俺はゲームみたいに勇者みたいに行動すると決めたんだ。
ならどうするか……
ああ、もうっちくしょうっ。
俺はこの島でヒーローになる。そう決めたはずだ。
席を立ちナスカの肩をポンと叩いて揺すってみる。起きる気配はない。
選択肢は四つ。
一つはこのまま放置すること。
もう一つは背負って宿に送ること。
三つ目はこのまま彼女の前で座り続け、起きるまで待っておくこと。
そして……最後の選択肢。第二の選択肢と同じようなものだが、これしかあるまい。
俺は勇者的選択を選ぶ。
選んだ以上は後々どうなるか覚悟せねばならなかった。
さぁ、欲望を抑えつけ、賢者タイムと行こうじゃないか。
久我山環架
装備:ショートソード、皮の鎧、皮のベルト
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖、ガスマスク、煙球
魔法:爆裂魔法(手榴弾)
所持金:140L + 290 + 4200 = 4630L
保科雄一
クラス:重戦士
状態:安静必要
装備:錆びた斧、壊れた鎧
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
所持金:0L + 550L = 550L
バッタ
クラス:マルチウエポン
装備:ナイフ×2、臭いロングソード、小型のボウガン、ショートソード、タンクトップ
所持アイテム:バッタのキグルミ、火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖、煙玉
組み立て式・鉄塊、ハリセン、着替え、干し肉×10
所持金:3510L + 15450L
緋織ナスカ
クラス:侍
装備:刀、鞘
所持アイテム:着替え、干し肉×2
所持金:840L + 9100L - 1000L = 8940L
高杉啓介
クラス:騎士
装備:ショートソード、ショートソード、レザーアーマー
所持アイテム:薬草×5、血清×2
所持金:0L + 1250L
高杉暦
クラス:槍兵
装備:鉄穂の槍、レザーベスト
所持アイテム:火炎の杖、雷鳴の杖
所持金:0L
四輪荷車 バッタと啓介により返却済み
オーク L50
ロックマン L290
オーク討伐数
環架 84体
バッタ 309体
ナスカ 182体
雄一 11体
啓介 25体
暦 0体




