思わぬ再会
宿屋を後にした俺たちが向かったのは、クエスト屋。
二人で出来そうな簡単な冒険をして暦に自信を付けさせようという魂胆であり、冒険というものに慣れさせておこうと思ったからだ。
危険の少なそうなものを探していると、大量発生したオークの謎を調べるといったクエストを発見。
自分から命の危機に飛び込む気はないのでスルーして、他のクエストを探す。
やっぱりあれ、クエストだったのか。
クエストといっても井戸掃除とか草むしりとかおおよそゲームっぽくないのもあるが、洞窟に入って何かを取って来いとか、指定モンスターを倒せなどのクエストもあった。
「とりあえず、二人で出来そうなのか、やってみたいやつ選ぼうぜ」
「う、うん……でも……」
二人で受ける不安、自分がしなければならないという恐れ、助けのない恐怖。
ありとあらゆる負の感情から、戸惑いながら俺を見上げてくる暦に、俺はまた頭を撫でてやる。
何度もしているせいか、頭を撫でられるとちょっと安心した表情になる。
「それじゃあ……これ」
小一時間迷った末に暦が遠慮がちに選んだのは、ある家の草むしり。
簡単とはいえ賃金も最低、戦闘などもないため彼女を立ち直らせるにはちょっと難があるというか……
どうしようかと視線を下に向けたところで、一つのクエストに目が止まる。
行方不明者探し。
ただのクエストなら何のことはなかった。
依頼者が……クラスメイトの名前でなければ……
「……どうしたの?」
暦の声に「いや……」とだけ返すが、その後の言葉が続かない。
カウンターの黒服に頼んで詳しい内容を見せてもらう。
詳細は簡単だった。
クエストにでた一人が帰ってこないというだけの内容。
安否を調べて報告すればいいだけの簡単なクエスト。
報酬は今持ち合わせている金額全部。
依頼者は美織早百合。捜索対象者は大島和則。
「お兄ちゃん……そのクエスト……」
「悪い暦、俺はこのクエスト受けてくるから戻って皆に……」
ぎゅっと、袖を引っ張られた。
涙目で俺を見上げて暦は震える声で言う。
「私も……行く」
普通のクエストであればそれでもよかっただろう。
だけどこのクエストは別だ。
行方不明になったということは危険な場所に行ったと見て間違いない。そんなところに連れて行くのは……
でも、役に立ちたいと思っている暦をわざわざ突き放すのもどうだろう? 今ここで彼女を宿に帰すのは簡単だ。
でも、そうしてしまえば彼女の居場所がなくなってしまうのではないだろうか?
「危険だぞ、守れないかもしれないし、二人とも死ぬかもしれない」
確認とばかりに聞いてみるが、暦は震える手で俺の袖をギュッと握りこむ。
こうなると、面倒見ようと連れ出した以上責任もって最後まで連れてくしかない。ヤバいと思ったら即座に逃げよう。
「あ、そうだ。これ持っとけ」
どうせなら護身用の物がいると思い、手榴弾を三つ手渡しておく。
クエストを受け、依頼人の元へと行く間に手榴弾の使い方を教え、槍を使った攻撃方法も俺の知っている限りで教えておいた。
コレで使い物になるとも思えないが、身を守ることくらいはできるだろう。
暦を引き連れて俺は依頼者が待っている病院へと向かった。
ここの病院は道具屋と補充屋に挟まれ……
補充屋って……なんだ?
病院から数歩離れた場所で、俺は気になった補充屋という看板を見て放心していた。
怪しく重い空気が圧しかかってくるような、行ってみたいけど行ってはいけない場所を見つけた気分だ。
「そのお店、なんて書いてあるのお兄ちゃん?」
「これか? これは補充屋。補充ってのは……例えばジュースを飲んで、もう一杯欲しい時に継ぎ足すだろ。そういう意味合いだ」
「そうなんだ……何の補充?」
そればっかりは実際に入ってみないと分かりそうになかった。
「行ってみよう」
と、言い出したのは暦。
俺の袖を引っ張り強引に向かってしまう。
まぁ、ボッタクリバーとかのように入った瞬間課金されることはなさそうだし、入ってみるくらいは構わないか。
説明聞いたらすぐにクエスト受けに行こう。
店の中は狭く、店に入ると目の前がすぐにカウンター。
スペース的にも観賞用の植物が邪魔して三、四人が立っていられる程度。
他の店に比べるとかなり質素といえた。
カウンターには黒服の女性がいて、サングラス越しから俺たちを見て一礼。
説明を受けたいというと、懇切丁寧に分かりにくく説明してくれた。
掻い摘んでみると、ようするにこの補充屋、手に入れた特殊武器や魔法を補充できる施設らしい。
当然対価が必要で、俺たちの持っている特殊武器……つまり手榴弾の補充だと一個につき30L必要とのこと。
これはID確認をすれば誰がどんな特殊武器を持っているか照合可能らしく、照合さえ済めば仲間内でも補充可能らしい。
見つけた奴が一人でも一緒に居ないと補充は受けれないらしいけど。
仲間の線引きがどういったものかは教えてくれなかったが、暦でも補充できるそうなのでパーティーを組んでいる皆も大丈夫なのだろう。
今は予備手榴弾はまだ10個ほど残っているので補充屋は記憶の内に止める程度にして、俺たちは依頼人、美織早百合の元へと向かった。
補充屋をでて隣の病院に向かう。
施設的には片田舎の町医者くらいの大きさの病院は、外観は隣の店と変わらないが、内装はかなり広かった。
カウンターから階段を使い二階へ向かい、そこから二階が診療所、奥の階段から降りた一階と地下が入院用スペースになっていた。
床は木製で壁は白。
どことなく閑散としている。
看護士などは見当たらない。ときどき白衣を着たグラサン男が病室を見回る程度だった。
カウンターで聞いた話だと、目的の人物は一度二階に上がった後に別の階段で降りた一階の202号室。
俺たちが部屋の前までくると、誰かの泣き声が聞こえた。
すすり泣くような声に、聞く方まで悲しい気持ちになってくる。
さてどうしようと暦に視線を向けると、困ったような顔で開けないのかと見返してきた。どうやらこのドアは俺が開けないといけないらしい。
深呼吸して気合を入れ、ドアを叩く。
ドアの向こう側で泣き声がやんだ。
「どうぞ……」
消え入りそうな声が聞こえる。
俺は一度暦を見て入るぞと意思確認。
暦が頷いたのを見て思い切りドアを開いた。
「話は聞いてる。クエスト受けてくれたひ……」
顔を上げた早百合は、俺を見て固まった。
開いた口をそのままに、目を見開いて出そうとした声が喉でつっかえているようにぱくぱくと開閉する。
「あ……あん……なんで、あんたがっ」
驚きの後は憎しみの篭ったような瞳で睨みつける。
泣き腫らして充血した瞳で睨まれると罪悪感が押し寄せてきた。
俺が悪いのだろうかと自問自答してしまう。
確かに、こいつらが来たのは俺が要因であることは事実だし、恨まれるのは仕方ないのかもしれない。
家でゲームしてりゃこんな恨み買わずにすんだんだ。
「笑いに来たの? そりゃあんたからすりゃ傑作でしょうね。勝手についてきて勝手に自滅して、身動きとれずにあんたに助け求めてっ」
乾いた笑いと自分への蔑み。俺にどうしろってんだ。
「木之元は大怪我負って意識不明だし、回復薬探しに行った和則は行方不明だし……もう嫌、こんなとこっ」
終いにはこちらのことなど無視して泣き出す始末。
これにはもう暦と二人で顔を見合わせるしかなかった。
「お兄ちゃん……」
「あ、ああ。そうだな」
くいくいと裾を引っ張り促す暦。用件を聞き出せということらしい。
「それで……和則はどこに?」
泣き声が止まる。
えづくような声で小さく呟いてきた。
「シウレスの森……あらゆる傷を治す薬の有無を確かめてくるクエスト……」
シウレスの森か。でもなんでそんな傷……
俺は不思議に思ったのだが、すぐに分かった。木之元浩介だ。
こいつが重傷を負ったために早百合が看病、和則は一人クエストにでて薬を探しに行った……ってところか。
「場所は?」
「私が追ってこないように教えてくれなかった。同じクエスト受けるしか……でも同じパーティーだと二回受けることはできないし……」
クエストってそんなややこしそうなルールあるのか……説明屋いっときゃよかったな。
「それじゃクエスト屋でそのクエスト受けないとな」
「……お願い、和則を助けて……」
早百合に別れを告げて暦と二人クエスト屋に戻る。
暦は相変わらず浮かない顔だ。どうにも話を全部俺任せにしていることが原因だろう。
出来るだけ早いうちに活躍させて自信付けさせてやらないといけない。
クエスト屋で指定のクエストを受ける。
貰った地図を暦に渡して道案内を頼むことにする。
地図くらいは読めるが、花を持たせるというヤツだ。
読めることは読めるけど苦手だと言ってみると、意外にもすんなり受け入れてくれた。よほど自分に役割が欲しかったようだ。
久我山環架
装備:ショートソード、皮の鎧、皮のベルト
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖、ガスマスク、煙球
魔法:爆裂魔法(手榴弾)× 11
所持金:4630L
高杉暦
クラス:槍兵
装備:鉄穂の槍、レザーベスト
所持アイテム:火炎の杖、雷鳴の杖
魔法:爆裂魔法(手榴弾)× 3
所持金:0L




