初めての病院利用
『あの、雄一さんは……』
しばらくして落ち着いた俺たちは、雄一の生死を確かめる為に雄一の下に向かった。
雄一の頬に触ってみる。まだ暖かい。
心臓に耳を近づけてみる。
……動いてる?
「大丈夫だ。一応生きてる」
『よかった……』
ネズミの死体から剣と斧を回収し、ようやく落ち着いて周囲を見回した。
人の死骸はできるだけ視線を外すようにして見回すと、奥まった一角にそれっぽい宝箱を発見した。
『アレが……古代魔法?』
「らしいな。だけど……」
そこには、別名パイナップルの小型爆弾が箱入りで置かれていた。
『なんなんですかコレ?』
「手榴弾。栓を抜いて5秒後だか3秒後に爆発する対人兵器」
『それは知ってますけど……』
「だから、コレが魔法だろ。ファイヤーボールとか唱えながら放り投げるわけだ」
服につけたりカバンに入るだけ詰め込んで、俺とバッタで雄一を担ぎ上げる。
死骸から何かを持っていくことをバッタとちょっと話し合ったが、さすがにそれだけは出来なかった。
ちなみに、部屋を出ると独りでに扉が閉まっていった。
街に着くまでは、洞窟へ行くまでの倍近い時間がかかった。
時間が掛かったのは人を一人抱えているからでもあるが、一番の問題はモンスターだ。
巨大ネズミを倒したまでは良かったのだが、そこで俺たちは思いのほか体力を使っていたらしい。
剣を持つ腕は震えるし雄一は邪魔だし。
夕方が近づいて化け物どもの活動は活発化しているし、昼殆ど食べてないからお腹は空くし、バッタは熱中症でダウンしかけるし……
キグルミを脱ぐのを嫌がるバッタから無理矢理キグルミを剥ぎ取り、重量オーバーになった荷物を両手に、化け物たちから逃げ回っていた。
そのせいで余分にフィールドを走り回り、街に着いた時には二人して疲労困憊で、雄一を病院に届けた安心感から、そのままその場で眠りかけたほどだった。
眠りに落ちなかったのは病院のカウンターにいた黒服の、「では仲間の治療費3000Lになります」という衝撃の告白だった。
二人揃って一気に覚醒。大声でええ――――っ!? と声を上げていた。
冗談ではなかった。
二人、いや、雄一の持ち金を合わせても3000Lに届かない。
なにせバッタは無一文だったらしいし、魔物を狩って手に入れた40Lしか持ってない。俺が980L、雄一は400L
合わせてもやはり3000Lには届かない。
お金が払えない以上は雄一の治療はできないなどという黒服に、俺は飛び掛りかねない怒りに包まれたが、ネズミを倒した金額のことを思い出したバッタのおかげで周囲の他人を巻き込む乱闘騒ぎにはならずに済んだ。
皆、思いは似たようなものなのだ。
誰か一人でも飛び掛れば集団心理が働き、野球の乱闘よろしく黒服を中心に複数の取っ組み合いが始まる。
やり場のない憤りにしかめっ面になるのを抑えられない俺と、周囲を気にしながらびくびくとしているバッタは換金屋に向かっていた。
髪はキグルミの邪魔にならないためかショートカットのバッタ。
流石に汗だらけの服は嫌だったらしく、新しいタンクトップに着替えている。
どこからそんなものが出てきたかというと、キグルミの羽の奥からである。
どうやらこのキグルミ自体彼女の自作らしく、通気性、機動性に優れた防具であり、羽に隠された場所にはリュックの変わりになる荷物袋を取り付けてあるらしい。
巨大なバックであり彼女の姿を周囲から隠す隠れ蓑でもあるわけだ。
ドの付くほどの人見知り。
ここまでくるとむしろ人間不信だ。
彼女は自分を醜く不細工な人間だと思い込んでいて、自分の容姿に自信が持てないから姿を隠していた。
また、自分の臭いが臭い気がして他人とあまり接触したくないという理由も聞いた。
俺はそんなことないし。可愛い。
と一世一代の告白までしたのだが、彼女はお世辞は結構です。とまるで信じてくれなかった。
何度かキグルミを着直そうとしたのだが、そのまま倒れそうな顔つきになっていたので、わざわざ雄一の横にキグルミだけ置いてきた。
黒服がしっかりと責任持って見てくれるそうなので安心だろう。たぶん。
「あ、あの……」
恐る恐るといった声音で聞いてきたバッタに、換金屋のカウンターへ向いていた俺は振り返った。
顔は出来るだけなんでもない風を装ったのだが、まだしかめっ面が抑えきれてなかったのだろうか? バッタがさらに怯えて体を縮めてしまう。
キグルミを脱いだバッタはどうしても周囲に怯え気味になっている。
そんなに怖いモノなのだろうか?
俺はそういう心境になったことがないから分からないが、できるだけ不機嫌じゃないアピールを心がけ優しげに話しかけてみる。
「あ、と……どうしたバッタ?」
「あ、いえ……なんでもないです」
そう? と言いそうになって、自分がゲームのキャラクターを演じていることを思い出す。取り繕うように姿勢を正し、
「どうした? 言いたいことは言ってくれ。中途半端だと余計気になるしさ」
「あ……うん」
少し躊躇いがちに頷いて、バッタは両手を胸の辺りで組んで祈るように俺を見てくる。
「あの、私……本当に可愛い……ですか?」
「さっきから言ってるけど十分可愛いよ? 自信持っていいと思う」
「でも、さっきからすれ違う人が私を見てくる気がして。どこか変じゃないですか? 変……ですよね?」
全く、いくら控えめな子は可愛いといっても何事も限度があるぞ。
雄一のこともあり、気が高ぶっているのか、怒りにも似たイラつきが募る。
それでも勇者を意識している俺はすんでのところでどす黒い感情のようなものを抑えて言葉を選ぶ。
このまま告白してもいいだろうか? それとも控えめに言うべきか?
ええい環架、覚悟を決めろ!
久我山環架
装備:ショートソード、皮の鎧、皮のベルト
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
魔法:爆裂魔法(手榴弾)
所持金:980L
保科雄一
クラス:重戦士
状態:重傷
装備:錆びた斧、壊れた鎧
所持アイテム:火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
所持金:400L
バッタ
クラス:マルチウエポン
装備:ナイフ×2、臭いロングソード、小型のボウガン、ショートソード、タンクトップ
所持アイテム:バッタのキグルミ、火炎の杖、氷結の杖、雷鳴の杖
組み立て式・鉄塊、ハリセン、着替え
所持金:3040L




