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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅱ

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〈3〉しばらく待機


 そうして、レヴィシアはようやく切り出した。


「ね、ザルツ。次の活動について、そろそろ聴かせてくれる?」


 その途端、何故かプレナは複雑な表情を作った。


「そっか。もう次、なのね」


 ようやく落ち着いたと思えば、すぐに次だ。彼女たちに休んでいる暇はない。

 新生レジスタンス組織を助けてから、五日が過ぎていた。体勢を立て直すには十分な期間だ。

 その新生レジスタンス組織は、構成員が連行されるのを助け出せたものの、志が折れてしまい、結局組織は瓦解してしまった。それでも、残ったごく数人の希望者は『フルムーン』として留まっている。



 次に向け、覚悟を決めたレヴィシアに、ザルツは意外なことを口にした。


「今回は少し様子を見る」

「え?」

「サマルの調査の具合で、そう判断した」


 サマルは芋のスープを顔を赤くしてすすっていたが、そこから口を離してにやりと笑った。


「一筋縄では行かない相手に粘ってるんだ。そのために、少しだけそこで働いて来る。だから、もうちょっと待ってろよ」


 普段はうるさいサマルだが、人に警戒心を抱かせない雰囲気で、優秀に情報収集を行う。幾度もその能力に助けられて来た。サマルがそう言うのなら、待つべきなのだろう。

 そう感じたくせに、レヴィシアの口は素直ではなかった。


「えー。ちょっとってどれくらいよ?」

「こういうことは、急いたら負けなんだよ」


 鼻で笑うサマルに、レヴィシアは再び仏頂面になる。そんな彼女に、ザルツは厳しい一言をくれた。


「わめいてないで、自分にできることを探したらどうだ?」

「う……。戦闘の稽古?」

「他にいくらだってある。自分で考えろ」


 いつも、突き放したことを言う。けれど、それが彼の優しさだと、レヴィシアは思う。

 うんうんうなりながら、レヴィシアは眉間にしわを寄せた。難しいことを考えると、険しい顔になる。

 そうして、答えが出た時、レヴィシアは晴れやかに笑った。


「そうだ、ロイズさんのところに顔出して来る。それから、アーリヒさんたちにも会って、何か変わったことはなかったか訊いて来る」

「ロイズさんたちは今、隣町よね? 危なくない?」


 心配性のプレナが言う。


「大丈夫。ユイと行くから」


 けれど、それは呆気なく却下された。


「駄目だ。ユイは他にも武術指南してほしいメンバーがいる。連れて行かれては困る」


 時々、どちらがリーダーだかわからなくなる。いつも、決定権はなかった。ただ、ザルツの意見は折れることを知らないので、勝てたためしがない。


「そんなぁ。一人で行ったら怒るくせに」

「当たり前だ。向こうに仲間はいるが、道中が不安だ。お前は無鉄砲だからな」


 誰も、そんなことないよと否定してくれなかった。

 小さく息をつくと、ザルツは言う。


「そうだな、ルテアと行って来い」

「え? ルテアと?」


 そんなにも不思議そうに言われるほど頼り甲斐がないのかと、ルテアはひそかに傷付いた。けれど、表には出さずに耐える。


「少なくとも、お前よりは慎重だからな」

「何よ、それ」


 レヴィシアはまたしても頬を膨らませたが、次の瞬間には笑っていた。


「ま、いいや。じゃあ、行って来るね。ルテア、行こ」

「って、今すぐか?」


 慌てて、ルテアは自分の着ている深緑色のプルオーバーを引っ張った。


「汗かいたから、着替えて来る」

「ほら、急いで急いで」


 レヴィシアに急かされ、ルテアが奥へ駆け込むと、朝食を終えたサマルも立ち上がった。


「俺も途中まで一緒に行くよ」


 彼の情報収集の場も、隣町なのである。




 年少組とサマルが去ったところで、ユイはぽつりと口を開いた。


「――すまない。気を遣わせたか?」

「何に対して?」


 ザルツは澄ました顔で紅茶を飲み続ける。ユイは苦笑した。


「色々だ」


 レヴィシアは失念しているようだが、隣町に行けば、そこに滞在する仲間の中に、ティーベットという男がいる。彼はレヴィシアの父、レブレムと共に活動をしていた人物だ。

 彼とユイとの間には深い溝があり、顔を合わせれば一触即発の危険がある。それを危惧して止めてくれたのだろう。

 少し沈んだその場の空気を変えようと、プレナはためらいがちに口を開く。


「それにしても、ルテアは見た目もだけど、中身も落ち着いて来たわね」

「そうだな。鍛錬していても、熱意が伝わって来る」


 そう答えたユイに、ザルツはぽつりとつぶやく。


「ラナンさんのこともある。仇を取りたいなんて考えてなければいいんだが……」


 ルテアにとって、兄のような父のような存在であった人物が、仲間の裏切りによって命を落とした。それが彼にとって、何かしらのきっかけになったのは間違いのないことだろう。

 それに対し、ユイは穏やかに微笑んだ。


「そういった感情から強さを求めているとは思わない。もっとまっすぐな、迷いのない気持ちがあるだけで――」


 彼がそう言うのなら、きっとそうなのだろう。

 ザルツとプレナは、ラナンの死に責任がある。少なくとも、二人はそう感じている。

 だからこそ、そうであってほしいと願った。


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